松井玲奈がグループ卒業後に感じた大きな変化「自意識みたいなものを手放せた瞬間だった」

松井玲奈 撮影/有坂政晴

役者としての活動を中心に、趣味のアニメや新幹線好きを活かして多くのバラエティでも活躍。2018年には小説家としてもデビューを果たした。いくつものステージを経てきた松井さんにとっての「CHNANGE」とはーー。【第2回/全3回】

グループ在籍中に『マジすか学園』シリーズ(2010年)で役者としてのキャリアをスタートさせた松井さん。グループ卒業後もNHK朝ドラ『まんぷく』(2018年)、同『エール』(2020年)、昨年はNHK大河『どうする家康』(2023年)にも出演し、確実にキャリアアップを遂げている。

そんな松井さんにとって役者としての意識に大きな変化をもたらした作品は『笑う招き猫』(2017年)だったという。本作はドラマ版と映画版の2部作から成る作品。本物の漫才師を目指すヒトミとアカコの奮闘を描いた物語で、松井さんはアカコを演じた。

「この作品に出会うまでは、“こうしなきゃ、ああしなきゃ”と、一生懸命作品に向き合わなきゃ……という感じで、すごく自分のことを型にはめながら、取り組んでいたんです。でも、この時の撮影でアカコが自分の感情をバーッて吐露するシーンがあって、その時に初めて、体がフワって浮くような感覚になったんですね」。

──フワって浮く?

「高揚感とも違うんです。いままで感じたことのない、なんか自分が幽体離脱しているみたいな感じで、長ゼリフをブワ~って喋っている時に全部が手放せた気がして。その役が自分の中に入ってきてくれて、役が自分として喋っている……っていうような感覚に陥った瞬間があったんですよ」

──アカコが舞い降りてきた?

「というか、一心同体になれたというか。自分の自意識みたいなものを手放せた瞬間だったなって思います。それでカットが掛かった後に監督にすごく褒めてもらえたんですね。その時、“これがお芝居の楽しさかもしれない”と思えたんです。その感覚をまた味わいたいから、もっとお芝居をもっとしたいな……って。自分のお芝居の体験の中では一番大きな瞬間だったなって思うんです」

本番中にパニエが落ちてしまって……

最近では更なる変化を感じているそうだ。

「気持ち的に失敗も楽しめる様になってきたなって思います。昔はちょっと間違えたりハプニングが起きた時に『うわ~』って、何かとんでもない事をしてしまったみたいな気持ちになっていたのですが、最近は起きたトラブルに対してどう対処できるかとか、そこからどう自分を持ち直してテンションを元に戻すかということが楽しく思えるようになってきました。
昨年、舞台『ミナト町純情オセロ~月がとっても慕情篇~』に出演させてもらった時のことなのですが、本番中にパニエ(スカートを膨らませるためのインナー)がスト~ンって落ちてしまったことがあって……。昔だったら“どうしよう!?”と、パニックになって次のセリフも上手く出てこなくなってしまったと思いますが、この時は臨機応変に、そこで起きたことに対して引きずることなく、観ている方に“これが元々の演出でしたよ”と思わせるぐらいの気持ちで出来たんです。自分の中で変わったなと思えることでしたね」

気持ち的にも余裕が出来たことなのだろう。そんな中での最新出演作『ゴールド・ボーイ』は沖縄を舞台にしたクライム・エンターテインメントものだ。

「最初に脚本を読んだ時、そのスピーディーな展開に本当に夢中になって、何を信じて良いのかが判らない……というところに面白さを感じました。これが映像になったらどんなものになるんだろうとすごく楽しみになりましたね」

演じた東静は沖縄でも有数な事業家である両親を持つが、夫・昇との関係はどこか冷めた感じのある女性だ。

「やっぱり人って存在として多面的であると思っていて、出会う人や接する人によって、その人の見え方がガラっと変わるというのが、この作品に登場するキャラクターに当てはまっていると思うんです。静にも、そんな部分があるのですが、そのアンバランスさみたいなところがとても人間らしくて演じ甲斐がある女性だなと思いましたね」

岡田将生さん扮する夫・昇との距離間も、また絶妙だ。

「私も岡田さんもちょっと人見知りなところがあって、その少し距離があってギクシャクした感じは、会話の無くなった夫婦みたいな空気感で劇中の二人のままという感じでしたね。昇が電気スタンドをなぎ倒すシーンがあるのですが、本番ではスタンドがバラバラに壊れてしまい、昇の得体のしれない恐怖みたいなものを感じたんです。
これまでも色々とお芝居をさせていただいてきましたが、本当に“怖い”と思ったのはこれが初めてだったかもしれないです。でも、カメラが回っていないところでは岡田さん、冗談も仰っていて“役と本人は違うから安心”と思いましたね」

松井玲奈(まつい・れな)
1991年7月27日、愛知県生まれ。O型。2008年デビュー。主な出演作は、映画『よだかの片思い』、NHK朝ドラ『まんぷく』『エール』、大河ドラマ『どうする家康』など。24年3月8日には映画『ゴールド・ボーイ』が公開。18年小説家デビューし、翌年初の単行本『カモフラージュ』を刊行。23年12月より「小説すばる」にて『カット・イン/カット・アウト』を連載中。

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