『僕の愛しい妖怪ガールフレンド』三木孝浩監督 アクションとテンポ感の参考は『スパイダーマン』シリーズ【Director’s Interview Vol.394】

アメリカ人のプロデューサーと脚本家が手掛ける、日本を舞台にしたアクション・コメディドラマ。Prime Videoで世界配信される『僕の愛しい妖怪ガールフレンド』の監督に抜擢されたのは、『ソラニン』(10)『僕等がいた』(12)『TANG タング』(22)を手がけた三木孝浩氏。これまでに培ったドラマセンスに加え、今回トライしたのはアクションとコメディ。アメリカ人が書く脚本を生かし、ハリウッドのスピードとテンポ感を重視したという三木監督は、世界配信に向けて本作をいかに作り上げたのか。話を伺った。

『僕の愛しい妖怪ガールフレンド』あらすじ

いじめられる日にうんざりしていたオタクの大学生・犬飼忠士(通称「ハチ」)(佐野勇斗)。ハチはある日SNS上で”愛の呪文”と称する気味の悪い投稿を見つける。しかしそれには呪いがかかっており、思いかけずに妖怪・イジー(吉川愛)を召喚してしまう。召喚されたイジーは心霊的にハチと結び付けられ、ハチとイジーの奇妙な関係が始まる。

重視したスピードとテンポ感


Q:本作は完全オリジナル企画ですが、発端を教えてください。

三木:企画自体はAmazonスタジオの制作チームから提案していただきました。日本を舞台にオタクの大学生と妖怪が恋をするコメディなのですが、それをアメリカ人の脚本家が書いていた。その座組にまず惹かれました。

Q:脚本には監督の意見も反映されたのでしょうか。

三木:そうですね。ですが、せっかくアメリカ人の脚本家と一緒に作るので、変にローカライズしすぎないように気をつけました。アメリカ映画でよくあるホームパーティーのシーンなど、日本人の感覚だとあまりやらないようなことも敢えてそのままにして、むしろ乗っかって楽しんでみました。その上で、日本のゲームやポップカルチャーをどんどん脚本に入れ込みました。海外の人たちにも日本独特のカルチャーを楽しんで欲しいなと。

Q:音楽からも日本のポップカルチャーの雰囲気を感じます。

三木:企画打合せの段階で、色んな資料を見せて世界観を提案したのですが、その中にヒューマンビートボクサーのSO-SOさんの音楽も入れていました。SO-SOさんは世界的に有名な方で、ヒューマンビートボックス界ではトップクラスのアーティスト。その彼がライブで世界の人を沸かせているのを見て「この感じだな」って思ったんです。彼の音楽がアクションシーンにかかったりしたら最高だなと。スタッフも大いに賛同してくれて、今回SO-SOさんに音楽をお願いすることができました。第1話のパーティーシーンではDJ役として出演もしてもらいました。

『僕の愛しい妖怪ガールフレンド』(C)2024 Amazon Content Services LLC or its Affiliates

Q:連続ドラマですが映画のようなスケールも感じます。意識されたところはありますか。

三木:Amazonオリジナル作品ということで、尺に対しての予算規模はこれまでの映画よりも大きかったかもしれません。そういう意味では、アクションやロケーションなどいろんなチャレンジが出来ましたね。

Q:出演者も監督も日本人で舞台も日本なのに、不思議と海外のテイストを感じるところも面白かったです。

三木:“海外の人が想像する日本の感じ”は意識していました。また、セリフ回しやコミカルな表情など、アメリカのホームコメディのニュアンスを乗せた部分はあります。ハリウッドの映画やドラマは圧倒的にテンポがいい。特にコメディはリズムがいいですよね。英語で喋れば良いのかもしれませんが(笑)、日本語でも英語のリズム感を意識しました。人物同士の掛け合いでも、本当は感情を入れたくなるところをぐっとこらえて、スピードとテンポ重視で見せていきました。

Q:そう言われると、映画『スパイダーマン:ホームカミング』(17)に近かったかもしれません。

三木:まさに、アクションやテンポ感で参考にしたのは『スパイダーマン』シリーズや『デッドプール』(16)、『キック・アス』(10)などでした。アクションにコメディ要素も入っていて、すごくエッジが効いている。その辺はすごく意識しましたね。

面白い物語のおかげで安心してトライ出来た


Q:反町隆史さんに北村有起哉さん、竹中直人さんに夏木マリさんなど、オトナの役者陣も豪華で驚きました。

三木:皆さんブッ飛んだ役柄なので、楽しんでやってくださいとお願いしました。アニメの『イノセンス』(04)に出演されたときの竹中さんの声が好きだったので、ご本人に相談すると、「了解。あの感じね」と快くやっていただきました。夏木さんは「私って人間じゃない役が多いのよね」なんて言いながら、楽しんでやってくれましたね(笑)。

Q:アクションシーンも一切手抜きなしで気合を感じました。

三木:アクション監督の小池達朗さんと一緒に作っていきました。今回戦うのは妖怪同士なので、人間同士ではないアクションの面白さを追求しました。小池さんはアクションにキャラクターを乗せるのがすごく上手くて、戦い方でそのキャラクターが見えてくる。そこはすごく勉強になりましたね。また、バスの中と上でのアクションは小池さんからのアイデア。どうすれば見栄え良く面白いアクションになるのか、相談しながら作っていきました。

Q:VFXのシーンも多かったですが、どのように演出されたのでしょうか。

三木:妖術は「こんな感じで」というのが説明しづらいので、そこを着地させるのは大変でした。一番難しかったのはイジーの“妖気”の表現。かなり試行錯誤しました。とにかくチープにならないようにしつつ、和風の感じも入れながらもクール且つ派手にしたい!(笑)。参考映像を探して、VFXチームと共有しつつ作っていきました。

『僕の愛しい妖怪ガールフレンド』(C)2024 Amazon Content Services LLC or its Affiliates

Q:アクションやVFXに関しては、どこまでリアルに再現できるかといった監督の目算みたいなものはあったのでしょうか。

三木:いや、全然ないです(笑)。これまでアクションやVFXの経験自体がそんなに無かったので、完成形の理想はありつつも、果たしてうまく出来るのかな?と。でも逆に分かっていないからこそ好きなことを言えた部分があるかもしれません。変に収めようとせずに、風呂敷を大きく広げてお願いしてみようと。

Q:アクションやVFX、そしてドラマと、全体的なバランスとクオリティを成立させるのは大変だったのではないでしょうか。

三木:確かに大変な部分もありましたが、物語がすごく面白かったので何をやっても大丈夫だという安心感がありました。ベースとなる物語が弱いと困りますが、今回は安心していろいろトライ出来た。特に出てくるキャラクターが皆魅力的で、ハチとイジーはもちろん、その周りのキャラクターたちも物語にドライブをかけてくれる。そこの構成もしっかりしていたと思います。

Q:海外チームとのドラマ作りで感じた手応えや可能性があれば教えてください。

三木:今まで作ってきた作品は、日本国内のティーン層に向けたようなものも多く、そこに慣れてしまっていた自分に危機感を感じていました。このままだと先細りしていくのは目に見えていた。でも今回はそこの枠が外れ、世界配信される作品。すごいチャンスだと思いました。海外の脚本家チームとやり取りをする中で、物語の面白さをどう作っていくのか、話していてとても勉強になりましたね。今回はオリジナルだったので、白紙の状態からキャラクターを作るところも、更地を歩くような楽しさがありました。

アクションもコメディもこれまでずっとやりたかったのですが、なかなか機会に恵まれなかった。今回すごくいいタイミングでチャンスをいただけて、とても嬉しかったです。色々と勉強させてもらいましたし、今後は海外にも目を向けて作品を作っていきたいですね。

監督:三木孝浩

1974年8月29日生まれ、徳島県出身。2000年よりミュージックビデオの監督をスタートし、MTV VIDEO MUSIC AWARDS JAPAN 2005 最優秀ビデオ賞、カンヌ国際広告祭2009 メディア部門金賞などを受賞。2010年、映画『ソラニン』で長編監督デビュー。以降の代表作は『僕等がいた 前篇・後篇』(12)、『ホットロード』(14)、『くちびるに歌を』(15)、『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』(16)、『思い、思われ、ふり、ふられ』(20)、『きみの瞳が問いかけている』(20)、『今夜、世界からこの恋が消えても』(22)、『TANG タング』(22)、『アキラとあきら』(22)など。

取材・文:香田史生

CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。

撮影:青木一成

ヘアメイク:望月光(ONTASTE)

スタイリスト:伊藤省吾(sitor)

『僕の愛しい妖怪ガールフレンド』

3月22日(金)よりPrime Videoにて世界独占配信

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