90年代の萩原健一は普通のオジサン?日曜劇場「課長サンの厄年」でサラリーマンにエール!  今日3月26日は昭和の名優、萩原健一さんの命日です

モルツCMが評判となったことで生まれたドラマ「課長サンの厄年」

「♪モルツ モルツ モルツ モルツ」と、真心ブラザーズが歌う商品名連呼のCMソングをバックに、コミカルな演技を見せる萩原健一。短髪でサラリーマン風のショーケンが、ぐいっとビールを飲んで一言。「うまいんだな、これがっ」。

1992年から94まで放送された、サントリービール「モルツ」のCMを覚えている人は多いだろう。このCMが評判になったことがきっかけで生まれたのが、ショーケン主演ドラマ『課長サンの厄年』だ。単発ドラマ枠から連続ドラマ枠となった、TBS東芝日曜劇場の連続ドラマ第2弾として、93年7月から9月まで放送された。

80年代半ばにドラマ『傷だらけの天使』の再放送を観てショーケンファンになった私は、彼の危険な魅力に惹かれていた。だから、この時期の “お茶の間の人気者” 的なショーケンには正直戸惑った。『傷だらけの天使』や『前略おふくろ様』などの名作ドラマにもコミカルな要素はあったのだが、「モルツ」や『課長サンの厄年』はコミカルすぎではありませんかと。

ブラウン管の中にいたのは、“反逆のカリスマ” “狂気を秘めたアウトロー” からは、最も遠い小市民。丸い顔でおいしそうにビールを飲み、上司と部下の板挟みに悩み、家族の問題に右往左往する普通のオジサンだ。

多くの本物の課長に会って、役作りをしたショーケン

ⓒTBS

『課長サンの厄年』は、オープニングから、むむっ となる。布袋寅泰が歌う主題歌「さらば青春の光」をバックに、ショーケンだるまがころころ転がるのだから。人生は七転び八起きということなのだろうが、あのショーケンがだるまになるなんて。

とはいえ、部下たちにも敬語を使い、口癖は「まあ、いいか」の、アパレル会社の人の好い営業課長をショーケンが演じているのは新鮮だった。降りかかる災難に嘆く、困った顔がなんともかわいい。

自伝『ショーケン』(講談社刊)によると、役作りのために多くの営業課長に会って、話をしたのだそう。そのときに本物の課長たちに言われたのが、「商売っ気を表に出しすぎてはだめ。常にニュートラルな気持ちで」との言葉。

「この『ニュートラル』というのが難しい。(中略)やるからには、いきなりレッドゾーン、常にフルスロットルという演技ばかりやってましたから」

と振り返っている。

放送当時、団塊の世代は働き盛りの40代。日曜夜、厄年課長を演じるショーケンに共感しながら観ていたサラリーマンは多かったのでは。憂鬱になりがちな日曜夜、明日からも元気に働こうとサラリーマンにエールを送るドラマが、その後日曜劇場の定番となるが、今思えば『課長サンの厄年』がその先駆けだった気がする。

「課長サンの厄年」が倍賞美津子との別れの引き金に?

 さらば青春の光 あの頃俺とお前は  傷つくのも恐れずに ただ走り続けていた  夢見ることを夢見て 空を見上げる瞳は  きまぐれ色だったけど 誰よりも輝いてた

「さらば青春の光」の歌詞には、『傷だらけの天使』の修と亨が重なる。そうそう、この曲のイントロには、『傷だらけの天使』のイメージが隠れているそうだ。

あんな穏やかな課長を演じていたショーケンだが、『課長サンの厄年』の撮影現場はいつもピリピリ。突如ものすごい剣幕になるショーケンに、スタッフはみんな戦々恐々だったというのだから、わからない。

妻役の石田えりとショーケンに熱愛の噂があったことも印象深い。自伝で、彼女との男女の関係を否定しているショーケンだが、これが原因で倍賞美津子と別れたことは認めている。怒った賠償は、マンションからショーケンをたたき出し、彼の荷物をすべて放り出したそうだ。

いやいや、絶対石田えりと関係あったでしょ。そりゃ倍賞美津子も疑うって。やっぱりショーケンは、90年代も “危険な男” であったことは間違いないようだ。

カタリベ: 平マリアンヌ

© Reminder LLC