65歳以上の世帯年収「332.9万円」→さらに「年金は6~8割まで減少」…日本人を待ち受ける“老後貧困”の恐怖【データサイエンティストが警告】

(※写真はイメージです/PIXTA)

生命保険文化センター「生活保障に関する調査」によると、対象者の82.2%が自分の老後に「不安感あり」と回答しました。この不安を解消することは簡単ではありません。しかし、不安を軽減させるための第一歩として「現状を正しく知ること」は大切です。そこで今回、『死に方のダンドリ』(ポプラ新書)著者でデータサイエンティストの冨島佑允氏が、さまざまなデータを交えながら、日本の現状と将来を分析します。

膨大な老後の時間…お金の心配なく過ごせるのか

「20万時間」——。

これは、あなたが定年退職してから過ごすことになる、老後の人生の長さです。

この永遠のようにも思える時間を、多くの日本人はお金の不安を抱きながら生きていくことになりそうだ、と聞いたら、あなたは驚くでしょうか。

厚生労働省が公表した第23回生命表(2020年版)によると、65歳時点の平均余命(平均してその後何年生きられるか)は、男性は約20年、女性は約25年です。

仮に、あなたが65歳で退職して25年生きるとしましょう。25年間は時間に換算すると21万9,000時間です。つまり、およそ20万時間があなたの“老後”ということになります。

この膨大な時間を、お金の心配なく楽しく暮らせれば万事OK、何の問題もないでしょう。しかし、現実は少し違うようです。

総務省の家計調査報告書を過去10年にわたって追っていくと、高齢世帯の赤字額の平均値は、夫婦世帯で月5万円、単身世帯で月3.5万円です(実収入から支出を引いた不足分の2010〜2019年における平均値。2020年以降はコロナの影響により支出が急速に落ち込んだため、平均値の計算からは除外)。

つまり、夫婦世帯なら5万円×12ヵ月で年間60万円、単身世帯なら3.5万円×12ヵ月で年間42万円ものお金が不足することになります。

老後生活を仮に25年間とすると、年金をもらっていても夫婦で1,500万円(60万円×25年)、単身でも1,050万円(42万円×25年)が不足することになります。

この数字が何を意味するか、もうおわかりでしょう。

退職した時点でこれだけのお金がなければ、寿命が尽きる前に生活資金のほうが底をついてしまうのです。

これは、現在の高齢世帯の赤字額から推計した数字です。そのため、将来の高齢世帯はもっと苦しくなる可能性が高いと思われます。なぜなら、私たちが将来もらえる年金は今より少ない可能性が極めて高いからです。

いまでも少ない年金がさらに減る!?衝撃のデータ

厚労省の「2019(令和元)年財政検証結果レポート」によると、現役時代の所得の何割を年金でカバーできるかを表した年金の所得代替率は、2019年時点では61.7%でした。2052年(令和34年)には、それが36(現状の61.7%の6割弱)〜52%(同8割程度)まで減少すると推定されています。

つまり、将来の年金は、今の高齢者が受け取っている水準の6〜8割に減ってしまうということです。

しかも、日本人の寿命は今もなお延び続けています。内閣府によると、1950年の日本人女性の平均寿命は62歳、男性は58歳でした。1990年には82歳、76歳になり、2021年には88歳、82歳になりました。内閣府の予測では、2040年には90歳、84歳になります(図表1)。

[図表1]平均寿命の延び 出所:『死に方のダンドリ』(ポプラ新書)より抜粋

この30年間で日本人の平均寿命は6年も延び、65歳を迎えた女性の2人に1人、男性の場合は4人に1人が90歳まで生きることが予想されています。

高齢者の世帯年収はその他の世帯の「約半分」

実際のところ、高齢世帯は少ない収入でやりくりしている人が過半を占めています。内閣府の「令和5年版高齢社会白書」によると、高齢者世帯の平均所得金額は332.9万円で、高齢者世帯と母子世帯を除いたその他の世帯(689.5万円)の約半分です。

内閣府の「2019年度全国家計構造調査」によれば、65歳以上の単身者の3割は貧困状態にあります。つまり、一人暮らしの高齢者が3人集まると、そのうち1人は貧困に苦しんでいるという状況になります。

「こんなに苦しいんだから、国がなんとかしてくれるに違いない!」と思うかもしれません。

けれども、国はすでに高齢者を支え切れなくなっています。

令和5年版高齢社会白書によると、現在の65歳以上の人口は3,624万人で、日本における総人口の29%を占めています。実に、3人に1人が高齢者という状況です。

「長生きがリスク」とされる日本の辛すぎる現状

高齢者が今後も加速度的に増えていく中で、状況はますます苦しくなっていきます。内閣府の調査(図表2)によると、1950年時点では高齢者1人を12.1人の働き手(15〜64歳)で支える状況だったのが、2015年には、高齢者1人を労働者2.3人で支える状況になっています。さらに2045年には、高齢者1人を労働者1.5人で支えなければならなくなると予想されています。

こういった状況の中で、昔のように長生きを素直に喜べない! という状況が現実のものとなりつつあります。こうした新たな人生のリスク、すなわち、長生きしすぎて生活資金が底をついてしまうリスクのことを「長生きリスク」と呼びます(英語ではlongevity risk)。長生きリスクという言葉は、日本だけでなく、先進国にとって最大の懸念事項になっています。

[図表2]高齢化の推移と将来推計
出所:『死に方のダンドリ』(ポプラ新書)より抜粋

図表2を見てください。2030年頃から日本の総人口は1億2千万人の大台を割って急速に減少していき、高齢者の割合は現状の3割から4割に向かって急増していくことになります。

バブル崩壊後の1990年代後半から現在に至るまでの期間は“失われた30年”と言われていますが、これからは“縮んでいく30年”の始まりです。今後の日本を襲う怒濤の高齢化と人口減少から目を背けることなく、真剣に考えるタイミングが来ています。

冨島佑允
クオンツ/データサイエンティスト/多摩大学大学院客員教授

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