コンピューターへのデータ入力用メディアとしても使われた「紙テープ」(1900年代~):ロストメモリーズ File033

コンピューターへのデータ入力用メディアとしても使われた「紙テープ」(1900年代~):ロストメモリーズ File033

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[名称] 紙テープ、さん孔テープ
(参考製品名 「情報交換用紙テープ」(電算用さん孔紙))
[種類] 紙
[記録方法] パンチ
[メディアサイズ] 17.46mm幅、25.4mm幅、他
[記録部サイズ] 同上
[容量] 5bit、8bit、他
[登場年] 1900年代~

ひとつ、またひとつと消えていき、記憶からも薄れつつあるリムーバブルメディア。この連載では、ゆるっと集めているメディアやドライブをふわっと紹介します。

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「紙テープ」は、さん孔テープ(鑽孔テープ。鑽孔は穴を空けること)とも呼ばれ、文字データなどを記録するメディアとして使われました。その名の通り紙でできていて、データの書き込みは物理的に穴を開けることで行ないます。

紙テープが使われたのは、主に電気通信機用。これは、押されたキーの文字をデータ化し、専用回線を使って送信。受信側でデータを受け取り、元の文字にして印刷するという装置です。

最もシンプルなのは、タイプライターと同じくキーの入力ごとにリアルタイムに印刷するものでしょう。しかしこの方式では、文字転送レートの上限がキー入力の速度となってしまい、遅すぎます。

これに対し紙テープであれば、事前に文字を入力し、記録しておくことが可能。これを再生しながら送信すれば、理論上データ転送レートの上限で文字を送れるようになるわけです。また、何度も再利用できるため、同じ通信内容を別の送信先へと送るのにも便利です。

モールス信号と違ってオペレーターが張り付く必要がなく、しかも高速。さらに、受信したデータは誰もが読める文字として印刷されるため、非常に便利な方式でした。

このキー入力を紙テープに記録し、送信先で文字を印刷するという電気通信機は、1900年代から登場。初期は、紙テープに穴をあけるさん孔機、紙テープの読み取り機、印刷するプリンターと、機能ごとに装置が分離していました。

製造開発はモークラム社とクラインシュミット社が大手でしたが、そもそも、電気通信機を必要とする取引先が限られてしまうため、市場としては大きくありません。この2社は1924年に合併し、モークラム・クラインシュミット社となった後、1928年にテレタイプ社へと社名が変更されました。

大きな転機となったのは、1930年にAT&T社に買収され、製造部門となるウェスタン・エレクトリックの子会社となったことでしょう。AT&Tは1931年にTWX(TeletypeWriter eXchange)というサービスを開始。これは後のテレックスで、今まで専用回線による通信だったものを、交換機を使い、通信相手を選べるようにしたサービスです。これにより、多くの企業が導入しやすくなり、大きく発展。この送受信に使う電気通信端末のことを、テレタイプと呼ぶようになりました。

動作中のテレタイプの動画があったので、紹介しておきます。これは1963年に発表されたASR-33なので、だいぶ後の製品ですが。

テレタイプの動作を雑にまとめると、文字をデータ化して送り、受け取ったデータを文字として印刷するというものです。つまり、データの送受信さえできるのであれば、通信相手はテレタイプである必要がありません。この部分に目を付けたのが、ベル研究所です。1940年に開発されたリレー式計算機の「Model I」では、入出力端末にテレタイプの改造品を採用し、入出力装置として活用しました。

本格的に使われるようになるのはもっと後になってからですが、これ以降、大型計算機やコンピューターのキー入力や文字出力に、テレタイプが使われることが増えました。ちなみに、Unixなどで標準入出力に使うデバイスがttyとなっていますが、これはteletypewriter、つまり、テレタイプに由来したものです。

ということで、かなり脱線気味の前置きが終わったところで、紙テープを見ていきましょう。

穴の位置で文字をデータとして記録

紙テープはイロイロなものが作られていますが、テレタイプで利用されていたのは大きく2種類。テープ幅が17.46mmのものと、25.4mmのものです。

17.46mmは初期のテレタイプから使われていたもので、5つの穴の位置で文字を表していました。つまり、5bitの文字コードですね。この文字コードとしては、1870年に開発されたBaudotコードをベースにしたものが各社で採用されています。

テレックスで使われた国際標準のITA2(International Telegraph Alphabet No.2、1931年承認)もそのひとつで、5bitの文字コードとなっています。

1963年には、制御文字を多数追加した7bitのASCIIコードが登場。この7bitのデータを記録するため、対応テレタイプでは紙テープの幅が25.4mmと広くなりました。

コンピューターでは、このASCIIコード対応のテレタイプが使われることがほとんどだったので、コンピューター用の紙テープの多くは25.4mmとなります。

▲巴川製紙所の「情報交換用紙テープ」
▲幅を測ってみたところ、ちゃんと25.4mm
▲外箱にはテープ幅や色などが書かれていました

入手したのは巴川製紙所の製品。詳細がないか探していると、クリムゾンシステムズさんのページに少し情報がありました。これによると、直径約222mm、長さは275mとのこと。

ただし、手元の紙テープを測ってみると、直径が約201.5mmしかありません。巻き方の強さでも直径は変わりますし、ロットや製造時期によって、結構変化していそうですね。

そうはいっても、実は275mよりもかなり短いのではないかと気になったので、確かめてみることにしました。全部ほどいて手作業で測るのはやりたくないので、紙テープが巻かれている部分の外径約201.5mm、内径約70.0mm、紙テープの厚み0.1mmという情報から計算してみましょう。計算といっても簡単で、紙テープが巻かれている部分の面積を厚みで割るだけです。

ということで計算したところ、約280.4mとなりました。これはあくまで隙間なく巻いた場合の長さですから、実際はもっと短くなります。とはいえ、275mあってもおかしくないということが確認できたので一安心です。

この紙テープは白ですが、色はとくに決まっていません。ざっと検索して見ても、黒や青、ピンク、オレンジ、黄、灰など、かなりの種類があったようです。

▲入手したのは、今のところ白とオレンジ

素材は、経年劣化のおきにくい中性紙が中心。初期は読み取り機とさん孔機の保護のため、適度に油を含侵させたものが使われていました。ただし、読み取りに光学式センサーが使われるようになると、油を含侵させた紙は光を通しやすい、破片がセンサーに貼りつきやすいといったことから、含侵させていない紙テープが使われるようになります。

今回紹介しているのは、含侵させていないものですね。実際に使用された、パンチ穴の開いた紙テープを見てみましょう。これを見てまず気づくのが、2つの大きさの穴があることです。

▲よく見ると、穴のサイズが2種類あります

小さい穴はスプロケット用の穴(Sprocket Hole)で、紙送りに使うためのもの。つまり、データには使われません。さん孔機では、このスプロケット用の穴も、データと一緒に打ち抜きます。

スプロケット用の穴で分割された狭い方を下、紙テープの進行方向を左とした場合に、データは縦一列に並ぶ穴の位置で表現されます。ASCIIの場合、スプロケット用の穴をまたぐ下位4bit、その上に並ぶ上位3bitとで、文字が分かるわけです。

古い映画などで紙テープを読むシーンがありますが、文字コードが2進数で頭に叩き込まれている人なら、読めても不思議ではありません。

ちなみに穴のサイズは決まっていて、スプロケット用は約1.17mm、データ用は約1.83mm。穴の間隔は、約2.54mmです。

1970年代まで多くの用途で活躍

テレタイプでの文字伝送に使われることが多かった紙テープですが、互換性を無視すれば、バイト単位でデータを読み書きできるメディアとみなせます。そのため、コンピューターはもちろん、工作機械へのデータ入力などに使える安価なリムーバブルメディアとして活躍しました。

しかし1970年代になると、リムーバブルメディアとしてはフロッピーディスクが台頭。また、入出力端末として使われたテレタイプも、ブラウン管などのモニターを装備した端末の登場によって、使われなくなっていきました。

本来の文字伝送用途ではもう少し使われましたが、それも、1980年代に画像伝送のFAXが普及し始めるまで。とくに漢字や仮名を使う日本語では、アルファベットに縛られるテレックスより、FAXの方が断然便利だったというのがあるでしょう。

こういった時代の流れもあり、紙テープは1980年代でほとんど使われなくなりました。

なお、紙テープは簡単に燃やして処分できるためか、意外と残っていない印象です。油を含侵させた紙テープや、完全に打ち抜かずにU字に切込みを入れる半さん孔テープ、繰り返し利用に優れた強度の高いポリエステル製のマイラーテープ、リールに巻くのではなく折り目で畳まれた紙テープ、色違いなど、入手したいものは沢山あるのですが……。

なお、同じ紙を使った記録媒体としてパンチカードがありますが、これは統計用として考案されたものとなるため、通信用途の紙テープとは出自が異なります。このパンチカードについては、また別の機会に紹介します。

参考:

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