迷ったらコレ! 映画のプロ・批評家3人がオススメする新作映画【2024年4月版】

作品選びにお悩みのあなた! そんなときは、映画のプロにお任せあれ。毎月公開されるたくさんの新作映画の中から3人の批評家がそれぞれオススメの作品の見どころポイントを解説します。

〜今月の3人〜

土屋好生
映画評論家。ジェイク・ギレンホールはミスキャストと思っていたが、なかなかどうして、予想を超える好演でした。

杉谷伸子
映画ライター。私の2024ベスト1は『哀れなるものたち』で確定のはずが、『オッペンハイマー』にも激しく心揺さぶられ中。

前田かおり
映画ライター。今春は花粉症と咳喘息がひどく、試写や取材時は恐怖の時間。気にすると、余計に出るのでもういやっ!

土屋好生 オススメ作品

『コヴェナント/約束の救出』

ガイ・リッチー監督がいつものエンタメ作以上に人間味を加えた味わい深い一作

評価点:演出4/演技4/脚本3/映像4/音楽3

あらすじ・概要
2018年、アフガニスタン。アメリカヘの移住ビザが約束される優秀なアフガン人通訳は雇い主の米軍曹長とともに対タリバン掃討作戦に巻き込まれる。果たして2人は苦難を乗り越えて生還できるかどうか。

現代イギリスを代表する映画監督といえば今やその右に出る者はいないガイ・リッチーだろう。動きの激しいアクションと練り上げられたサスペンス、そしてエンターテインメントの王道を行くテンポのいい演出で観客を沸かせたものだ。

しかし今度の最新作は事情が違う。エンターテインメントに徹するもののそこに人間味をからませてより味わい深い娯楽作に仕立てたのだ。

とはいえテーマも真面目一本やりの正統派でないのはいうまでもない。「コヴェナント(契約)」という原題に続く『約束の救出』という副題も控えめ。

がふたをあけてみるとこれがなかなかの硬派のエンターテインメントと言おうか男同士の物語になっている。それも生死を賭けた米軍曹長とアフガニスタン人通訳の心の絆というか、映画はこの2人の心理描写に照準を合わせて観客を戦地へと引っ張っていく。

ガイ・リッチーならもっともっとエンタメの領域に振り子を振っていけたのだろうが、今回は珍しく客観描写に徹してバランスをとっているのは興味深いところ。職人監督ガイ・リッチーならではのメリハリの効いた「エンタメ」作をとくとごらんあれ。

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公開中/キノフィルムズ配給

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杉谷伸子 オススメ作品

『12日の殺人』

いわゆる殺人ミステリーの枠に収まらず人間ドラマとしても重層的で濃厚な出来

評価点:演出4/演技4.5/脚本4.5/映像4/音楽3.5

あらすじ・概要
10月12日の深夜。山間の町で友人宅からの帰宅中だった21歳のクララが、何者かにガソリンをかけられ、火を付けられて命を落とす。グルノーブル署からヨアンが率いる捜査班が派遣され、次々と容疑者が浮かび上がるが…。

『悪なき殺人』(2019)で不可解な事件を通して、人間の欲望や不安を見つめさせたドミニク・モル。ノンフィクション小説をもとに21歳の女性が殺害された事件の捜査を描く本作もまた、いわゆる殺人ミステリーの枠に収まらない。

もちろん主人公のヨアンら刑事たちは地道に捜査にあたるし、そのリアルな空気感にも引き込まれるけれど、結婚生活が破綻している相棒刑事の苦悩も絡むなど、人間ドラマとしても重層的で濃厚なのだ。

だが、本作の最大の魅力は、まだまだ男性中心の社会や価値観において、女性であるというだけで直面する差別や偏見を浮かび上がらせていること。被害者の性的奔放さが捜査によって明らかになるなか、ヨアンが被害者の友人から男社会の現実を突きつけられるシーンこそが、実は本作のクライマックスでは?

そして、事件の迷宮に入り込んだヨアンに、一条の光を指し示すのもまた、捜査で出会った女性たち。未解決事件の闇を描きながらも、観客を闇の中に置き去りにしない。予想外の余韻に溢れる、モル監督の才能と人間への深い愛に興奮。

居心地のいい場作りと俳優との関係性の構築に心を配る―『12日の殺人』ドミニク・モル監督インタビュー - SCREEN ONLINE(スクリーンオンライン)

公開中/STAR CHANNEL MOVIES配給

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Auvergne-Rhone-Alpes Cinema

前田かおり オススメ作品

『ビニールハウス』

訪問介護士の女性が一瞬の気の迷いから陥る悲劇をサスペンスフルに描く問題作

評価点:演出4/演技5/脚本4/映像4/音楽4

あらすじ・概要
ビニールハウスで暮らしながら息子との新生活を夢見て訪問介護士をしているムンジョン。介護先で盲目の老人の妻が死んだことを隠すため、認知症の自分の母を身代わりにしたことから悲劇が始まる。

高齢者の介護問題に貧困、孤独など韓国の社会問題をはらんでいるというが、明日は我が身と思うほど、身につまされた。

訪問介護士として働くムンジョンは盲目の老人と認知症の進んだ妻を親身になって世話をする。それは彼女にも認知症の母親がいるからだろう。ただどんなに気遣っても重い認知症の彼の妻には通じず、ムンジョンの中にはいろんな思いが鬱屈していたはず。

そんな中で起きた不慮の事故、自分の母を老人の妻の身代わりにすり替えたことから、ムンジョンの日常が綻んでいく。

一瞬の気の迷いから始まるサスペンスフルな展開。主演のキム・ソヒョンはドラマ「Mine」で財閥女性を優雅に演じていたが、ここでは真逆。脂っ気なく見える肌と表情の乏しさで貧困から抜け出せない人生を体現する。

誰もいない野中に佇む黒いビニールハウスで寝起きしながら、息子とのささやかな未来を夢見ていたムンジョン。人生に“たられば”はないけれど、彼女に押し寄せる不幸があまりにも酷に思える。もっともそれほど現実は甘くないということか。

公開中/ミモザフィルムズ配給

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