ヒトは「見た目」「血管」「耳」とともに老いるって…?抗加齢研究トップランナーに聞く「老けない身体」の作り方

「いい年して見た目ばっかり気にしちゃってさ……」。この言葉、実は揶揄ではなく、医学的にも「むしろ追い求めるべき正解」であることがわかり始めました。「見た目が若い」=「体内の年齢も若い」ことが次々と実証されつつあるからです。

お話を伺うのは、愛媛大学大学院医学系研究科抗加齢医学・新田ゼラチン講座教授の伊賀瀬道也先生。「脳卒中予防」「認知症予防」「フレイル・サルコペニア予防」などをキーワードに臨床研究を行う伊賀瀬先生は、中でも「コラーゲンペプチドが血管に及ぼす効果」についての第一人者です。

人はどう老いていくのか、どうすれば若さを保てるのかについて、身体に栄養を運ぶための重要なパーツ「血管」の視点から教えていただきます。

まず1つめ、「ヒトは血管とともに老いる」。意外と知らない体内のこと

じつはこの「人は血管とともに老いる 」という言葉は昨日今日のものではなく、「イギリスのヒポクラテス」と呼ばれた17世紀の医師、トーマス・シデナムが残した言葉とされます。

「厳密にいえば、ヒトは動脈硬化とともに老います。硬くなりながら老いていくのです」

この「血管の老い」は、なんと10歳から始まるのだそう。家族性の高脂血症(脂質異常症)を持つ人の場合で40歳ごろから「病気」の兆候が出てきます。

「更年期世代の診察を手掛けていると、50歳以降はあっという間に血管の老いが進んでいく印象です。ですから、動脈硬化は閉経前後からの血管の管理がとても大事です」

病気としての動脈硬化は、男性の場合は40~50歳の発症が多いのですが、女性の場合は閉経の10年後、60歳前後から増えていきます。

「では女性は60歳までは心配しなくていいのかというと、それは間違い。というのも、ある日突然硬化するわけではなく、発症の前段階で血管がどんどん傷んでいくからです。逆に言えば、閉経10年前の40歳から血管をケアすればさまざまな病気が防げます。血管の弾性を保つことがとても大事だと40歳から意識してほしいのです」

しかし血管のケアと言われても、何をすればいいのでしょうか?

「女性ホルモンはコレステロールから代謝されます。女性の場合、閉経で女性ホルモン分泌が止まる50歳からどんどん血管が傷んでいきます。まず、女性ホルモン低下とともにLDLコレステロール値が上がっていくことそのものは避けられないのだという認識が大変重要。その他の、避けられることでケアする必要があるからです。よく、血管の病気はあわせ技と言われます。血圧が高く、脂質が高く、血糖が高い人に内臓脂肪がつきはじめると、血管が傷み始める。これらの因子を1つでも減らすことが大切です」

たとえばですが、50歳時点での健康診断の数値がどういう状態になっている人が危機感を持つべきなのでしょうか?

「更年期に差し掛かった女性の場合、コレステロールだけが高い人はそれほど心配いりません。確認すべきはHDLとLDLの比率です。女性は善玉のHDLコレステロールが高い人が多いのですが、たとえばHDLが70mgだとして、対する悪玉のLDLがどのくらいか。2倍はセーフ、つまりHDL 70mg/LDL 140mgなら心配しなくてOKです。血管動脈硬化が進むのは善玉悪玉比が2を越えるケースです」

なのですが、高血圧や喫煙などリスク因子を持つ場合は注意が必要なのだそう。

「40代は女性ホルモンが守ってくれているのでまだ悪玉コレステロール値はそれほど上がりません。それ以降はコレステロールだけでなくヘモグロビンの値も上がりますが、年1回の検診で悪玉のLDL が20、30上がるようならば、循環器系の病院に行ってみてもいいかもしれません。特に閉経前後、40歳から60歳の女性は注意です」

ちなみに善玉コレステロールのHDLが高い人は長生きの家系であることが多いそう。100だと相当長生きですが、100を大幅に超えると本当の善玉として働いていない可能性があるそうです。なお、悪玉LDLは学童期は50~60程度ですが、その後はなかなかそんな数値にはならないそう。

なぜコレステロールと血圧に注意すべきなのか?ポイントは毛細血管です

「高コレステロールと高血圧はじわじわと寿命を縮める、サイレントキラーと呼ばれます。検査の機会があれば、血管年齢検査も受けてください。中でも毛細血管の状態を調べると、悪い人は50代でもかなりゴースト化と呼ばれる状態になっています。毛細血管はある程度長さがあり、まっすぐ伸びて周囲のにごりがないことが理想ですが、お酒を飲む人は悪くなる傾向があります」

毛細血管は身体の末梢部まで血液を通じて酸素と栄養を送り届け、また不要なものを運び出す役割を担います。毛細血管に元気がなければ栄養が届かないうえ、不要なものも排出されないため、老化がどんどん進むというわけです。ちなみにまで、更年期世代の女性は貧血と戦っているケースも多いのですが、貧血は血管の老化に対してはどうなのでしょう?

「貧血は血管の老化にはプラスにもマイナスにも働きません。血圧が低い場合はプラスに働くものの、貧血を放置して日常生活に問題が出る人も多いのです。たとえば、ヘモグロビンは通常14程度のところ、身体がしんどいと外来にきた人が7や8ということがよくあります。ヘモグロビンがないと酸素を運べないので当然息苦しくしんどいでしょう。血管老化とは別の大問題が起きているため、治療が必要です」

血管からの老化を食い止めるためにまず大切なのは、心臓から出る大きな血管が元気であること。そこを元気にするためにまず大切なのは、血圧の管理。血圧は低いほうが血管の老化を進めず、老化しにくく長生きにつながります。高い人は注意を。また、コレステロールは、悪玉LDLがゴミを溜め、善玉HDLが掃除をします。LDLが200まで上がるとHDLが70あっても悪玉の働きが勝ります。また、溜める悪玉が善玉の2倍を越えるとゴミが溜まりやすくなるので薬の治療も必要になります。

「投薬治療の手前では、食事やサプリでの対策も有効です。例えば、紅麹は悪玉コレステロールを下げます。紅麹の入ったお米やパンもいいでしょう。血糖値は上がらないほうがいいため、運動習慣をつけて血糖値があがらないようにします」

食後に血糖値がどんと上がる「血糖スパイク」が血管を傷めるため、野菜から最初に食べるベジタブルファーストの習慣も大切。また、全体的な血糖値を上げないようカロリー調整も行います。同時に朝をしっかり摂り、セカンドミール、つまりその日の2回目の食事以降の血糖値の上がり方を下げます。

「日本では食事を朝昼晩3回で摂取する習慣がありますが、これがいちばん健康な状態を保つとわかっていてこうなったのだと思います。現代人の悪習は夕食にウエイトを持っていくこと。理想は朝が多く、昼が中くらい、夜が少ない3食で、私はこれを実行して10㎏やせました。飢餓時間を作りすぎると身体はなるべく脂肪を蓄積しようとするので、1日1食はダメです。よく絶食に近い人がいますが、まったく覇気がなく、実際そういう人は血管も元気がありません」

前編記事では「老い」と「血管」についてご説明いただきました。後編記事では「見た目」「耳」についてお聞かせいただきます。

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