奈良市の富雄丸山古墳「蛇行剣」は刀と剣の特徴を併せ持つ特殊な構造

把(手前)などの特異な全体像が明らかになった蛇行剣=26日、橿原市畝傍町の県立橿原考古学研究所

【科学的調査と応急的保存処置を終える】

 奈良市の日本最大の円墳、富雄丸山古墳(4世紀後半)で2022年12月に見つかった鉄剣「蛇行(だこう)剣」の科学的調査と応急的保存処置を終え、県立橿原考古学研究所と奈良市教育委員会は26日、共同研究成果を発表した。これまでに例のない構造の把(つか)や鞘(さや)、鞘尻の先に地面から保護する役目の石突(いしづき)が装着。刀と剣の特徴を併せ持つ特殊な構造だったことが明らかになった。

【楔形把頭、最古の例】

 全長2メートル37センチの蛇行剣は、当時の鉄製の剣としては東アジア最長とされる。極めて重要な考古資料として、橿考研と市教委は共同で応急的な保存科学的処置を進めてきた。出土時に現場で露出していた上面に続き、昨年7月から今月まで、反転させた下面の付着土やさびの除去作業などを行った。

 調査で確認された把は手で握る部分以外に黒漆が塗られていた。現存部分の計測で高さ9センチ、幅18センチ、厚み4.5センチ以上の楔(くさび)形把頭や長さ9センチ、幅3.5~4センチの突起をもつ把縁突起を装着することが判明。楔形把頭の表面や側面には文様もみられた。把を入れた蛇行剣の全長は2メートル54センチとなる。

 把縁突起は剣特有、楔形把頭は刀特有のものだとされる。楔形把頭は古墳時代中期(4世紀末)以降に出現すると考えられており、最古の例が剣で確認されたことになるという。

【鞘口と鞘尻に黒漆、文様も】

 また、鞘の木材はホオノキで、鞘口と鞘尻には黒漆が塗られ、文様があることも分かった。鞘尻の先には、剣を立てて置く際に鞘尻が地面に触れないようにするための石突が装着。長さ18.5センチの細長い形状で、これまでに例がないという。石突の先端から把頭までの全長は2メートル85センチにおよぶ。

 奈良大学の豊島直博教授(考古学)は「5世紀の剣や刀にそれぞれみられる把の突起や把頭を1本に併せ持っている。(4世紀後半の)蛇行剣が以降の剣や刀の装具スタイルに分かれるターニングポイントとなる事例」と評価を述べた。

 今後の本格的な保存処置作業を前に、蛇行剣が県立橿原考古学研究所付属博物館で特別公開される。30日から4月7日まで(4月1日休館)。開館は午前9時から午後5時。入館料は大人400円、高校・大学生300円、小中学生200円。

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