遺したいのは「ベロの絆」 平野レミが引き継いでいきたいモノ

撮影・邑口京一郎

自分らしい自由自在な料理スタイルを貫き続け、『平野レミの早わざレシピ!』(NHK)などメディアでも引っ張りだこの料理愛好家の平野レミさん。3月27日には一人分から作れる自炊レシピ本『平野レミの自炊ごはん せっかちなわたしが毎日作っている72品』(ダイヤモンド社)が発売されます。新年度で生活スタイルの変化や新生活を控えているという人も少なくないのでは? 意外にも自炊本を出版するのは初めてというレミさんに、自炊の魅力や料理、引き継いでいきたいものについてお話を伺いました。

「自分が納得してればオッケー!」自炊の魅力

――4月から新生活を控えている人も多いと思います。自炊ってどうすればいいの? と思っている人もいるかと思います。

平野レミさん(以下、レミ):料理は、真面目に、仏頂面でやっても面白くもなんともないから。楽しくさ、うふふって笑いながら料理すればいいのよ。

――レミさんは自炊のいいところは「自分が自分のために好きなものを作れること」とつづっていましたが、自分が食べたいものを作ればいいんですね。

レミ:そうよそうよ! もちろん、外食もいいけれど、ほかの人が作る味と同じ味を作っても仕方ないじゃない。自分で「おいしい」と納得していればオッケーなのよ。

若い子たちだって、仕事で疲れて帰ってきて「今日はどうしようかな」と思ったときにすぐ作れる料理がいいなって思うでしょう? 私もすごく気短で不精だから、スパッとできないとイヤなのよね。だから、どんなに簡単な料理でも自分が納得していればいいのよ。

「これでいいんだ!」隣人からの頂き物で気付いたこと

――自分で納得していればいいんですね。

レミ:そういえば、昔うちの近所に住んでいた方から、家族に大好評という手作りのちらし寿司をいただいたことがあったの。それで早速食べたんだけれど、私の口には具が少なくて酸味がまるでなくて合わなかったの。でもね、そのときに思ったの。「あ、これでいいんだ!」って。

――どういうことですか?

レミ:家庭料理って、不特定多数の人たちが食べるお店の料理と違って、家族や夫が「おいしい」って言ってくれればそれでオッケーなのよ。だから自由にやればいいのよ。

味は引き継ぐけど、“遺したくないモノ”は…

――家庭料理って、味を引き継いでいくという側面もあると思うのですが、レミさんが次の世代に遺したいモノと遺したくないモノはありますか?

レミ:お金は遺したくない! はっはっは(笑)

――それはなぜですか?

レミ:お金を遺したら、よくないじゃん。だって私が働いて稼いだ私のお金だから(笑)。

遺したいのは「ベロつながりの絆」

――逆に遺したい、引き継ぎたいモノはありますか?

レミ:私はベロをつないでいきたい。(平野家伝来の)「牛トマ」とか「豚眠菜園」とか「ペテンダック」とかいろいろな料理を作っているけれど、みんなおいしい。私が考えたレシピだから、息子たちにも伝えていきたいし、嫁たちもちゃんと見習って私のお料理を作ってくれているの。だからベロつながりでつながっていけばいいなって思っている。それが望みかな。

――上野樹里さんや和田明日香さんも引き継いでいるんですね。

レミ:そうよ~。例えばさ、私が死んだあとに子どもたちやそのまた子供たちが「レミおばあさんってどんなものを作っていたんだろう?」と思ったときに、「豚眠菜園」を食べて「スキンシップもないし、喋ったこともないけれど、レミおばあさんはこういうものを食べていたんだな」って思ってくれればベロつながりでそれが絆なのよね。家族の絆ってそういうもんなんじゃないかなって。

――確かにそうかもしれないですね。

レミ:だからベロつながりの絆。

牛トマは祖父から! 5代も続く“ベロの絆”

――レミさんがお父さまやお母さま、そのまた上の世代から引き継いできたのも、ベロつながりの絆ですか?

レミ:私のおじいさんはフランス系アメリカ人だったんだけれど、祖父が牛肉とトマトを塩コショウで炒めた料理を食べていて、父親と母親が引き継いで、私が引き継いだの。それをあーちゃん(和田明日香さん)や樹里ちゃん(上野樹里さん)も作っている。孫も牛トマを作っていて、もう5代も続いているのよ。みんなで私の料理をね、ああ、私の料理じゃないのよ、祖父の料理を作っているとしたら、それってとても微笑ましいことだなって。

――何だか胸が熱くなりますね。

レミ:ね、ね! だからそういうお料理をみんなが3つか4つ持っていればいいんじゃないかな。うちの息子たち2人も、私の料理を食べて味が舌にこびりついているから、ちゃんと引き継いでいるのよね。あーちゃんや樹里ちゃんも引き継いでくれて、あーちゃん家に行っても樹里ちゃん家に行っても私の味だから、もうすっかりつながっちゃっているのよね。

――もう自然に?

レミ:そう。息子たちが小さい頃、勉強や宿題もキッチンのテーブルでやらせていたの。息子たちは、宿題をしながら私が夕飯の支度をしてゴボウをトントン切る音とか水をジャージャー流している音とか、ジージー炒めている音を全部聞いていたのよね。匂いもそう。

――レミさんの背中を見ていたんですね。

レミ:本当にそう。息子たちも宿題しながら「お母さんが僕たちのために晩御飯を作ってくれているな」って“幸せ感”を持ちながら勉強してくれてたんじゃないかな。

――そんなふうに引き継がれていくものなんですね。

レミ:ねー。お料理ってさ、目からも鼻からも耳からもどこからも幸せを感じて、しかも食べられるもんね。五感を満足させて、しかも食べられちゃうんだからこんないいことないわよ。

撮影・邑口京一郎

レミさんの息子たち夫婦との距離感の築き方は?

――ベロの絆のお話や日頃、レミさんが家族について話すのを見たり聞いたりして、いい関係を築いていていいなあと思う読者も多いと思います。レミさん世代の読者も多いのですが、息子たち夫婦との距離感のコツみたいなのってありますか?

レミ:うーん……。「距離感を取っている」って考えてることがそもそもおかしいでしょ? 私はそんなこと考えもしない。「息子たち夫婦との距離感とは?」なんて考えていたらくたびれちゃう。これからずっと一緒にいるんだしさ、でも私は私の人生で、彼らは彼らの人生だしね。会わないときはまったく会わないけれど、会うときは普通にご飯を食べるし、お酒も飲んで楽しくやっちゃうし。もう自由自在。うん、何も考えていないなぁ。

――レミさんのお話を伺っていて、「距離感を取る」とか考え過ぎなのかもしれないなと思ってきました。

レミ:そんなことしたらくたびれちゃう。うちの息子を育てていたときも距離感なんて考えなかったし、それで他人のあーちゃんや樹里ちゃんが来たからって距離感考える? 考えないでしょ。このまんまでいいんじゃない? え? ほかの人は悩んでいるの?

――「多様性と言われて家族の形もいろいろだし、自分たちの世代とは家族のあり方や関係の築き方も変わっているんだろうけれど、だからこそどんなふうに付き合っていけばいいのか分からない」という声も聞きますね。

レミ:「どんなふうに付き合っていけばいいか?」って、そもそもそこからして変なのって思っちゃうな。そのまんまでいいじゃん。嫌われたら嫌われたでしょうがないし(笑)。

――本当にそうですね、なんだかスッキリしました。

レミ:はっはっは(笑)。全然、なーんにも考えることなーい! 自由でいいのよ。お料理もそうだし、ぜーんぶ自由にね。

だって時代もすごく変わっているじゃない? 「こうしちゃいけない」「ああしちゃいけない」なんてことなんにもなーい。個人が幸せを感じればそれでいいと思うんだね、私はね。何にも囚われることなんてないのよ。

撮影・邑口京一郎

「自分らしく楽しくやっていればみんなついてくる」

――レミさんは昔から自分らしく生きてきた印象があって、時代が追いついてきた感じさえします。

レミ:おっ! いいこと言いますね~!(笑) だってさ、NHKの『きょうの料理』で初めて出演した時にトマトをぐしゅって握りつぶしたら、クレームがたくさんきたみたいなんだけれど、そのあと新聞で好意的に取り上げてくれたおかげでずっと出ることになったの。だからね、自分らしく楽しくやっていればなんとかなるものよね。

――NHKに怒られて落ち込むとかはなかったですか?

レミ:落ち込まない落ち込まない! だって私は私の生き方で、みんなに揃えることないじゃん。私は私だし。

――そうですよね。本当に。

レミ:そうよ。ダメだったらダメでいいし、私は自由にさ、料理でもおいしいなって思って作っているのが幸せなの。

「いちにのさん、ほい!」でできる料理が大好き

――『平野レミの自炊ごはん せっかちなわたしが毎日作っている72品』は、意外にもレミさん初の自炊本だそうですね。

レミ:そうなの。ほら、(夫の)和田(誠)さんが死んじゃったじゃない? そうしたら、うちの次男が「今はお母さんみたいに配偶者やパートナーを亡くしたり、別れて一人になった人もたくさんいるから、そういう人向けのレシピ本を作ったらいいんじゃない?」って言ったの。

それで、味を望む人と書いた「味望人」という名前でやったらどうかなと思って、「味望人レシピ」というのを考えていたタイミングで、出版社の人からお声がけいただいたの。

もちろん、私のように一人暮らしの同世代の人にも向けられるし、社会人になっていく若い人たちにも向けられるし、ひとりで暮らしている独身の方にも向けられるし……。何より安く手早く簡単なお料理が一番いいなと思って作りました。私もそういうお料理が大好きだから。私も、すぐできる、パパっと「いちにのさん、ほい!」でできる料理が大好きだから。それで、なるべく簡単ですぐに作れる料理を載せました。

――最後に、この記事を読んでいる人へのメッセージをお願いします。

レミ:とにかく楽しんで自炊してみてっていうのもそうなんだけれど、友達や親しい人と一緒に食べるのも大事かなって。だから、ひとりご飯をちょっと余分に作って、みんなで持ち寄って誰かと一緒に食べるのもオススメよ!

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