食品メーカーで株価上昇の波に乗れていない「亀田製菓」決算で巻き返すもさらなる成長のカギとは?

2023年度は、食品業界の株価が堅調でした。業種別の騰落率は30%で、日経平均の28%を上回っています。2022年は、円安による原材料高、光熱費高、人件費高の三重苦で利益が伸び悩みましたが、2023年度は、価格転嫁に成功し、利益率が改善した企業が多かったためです。ただし、食品メーカーの中でも、株価上昇の波に乗れていない企業も一部あり、そのうちの1社が亀田製菓です。


コロナ禍での業績は好調だったものの…

亀田製菓といえば、柿の種、ハッピーターン、ソフトサラダ、ぽたぽた焼きと、日本の家庭にはたいていひとつは置いてある定番のおやつ。子供から大人までみんなに愛されているといっても過言ではないでしょう。

どちらかというと、亀田のお菓子は、外出先に持ち歩くものではなく、こたつやちゃぶ台でみんなで食べる系が多いため、巣篭もりにはもっていこい。コロナ禍での業績は非常に好調でした。そのため、外出制限が解除されてからは、コロナ特需の反動減で業績が落ち込んでいたのです。

実際の業績推移を見ても、コロナ禍真っ最中の2021年度から、クッと売り上げも営業利益も低下しています。2023年3月期は、売り上げはやや回復していますが、営業利益がさらに低下して、営業利益率が悪化していることが分かります。

外出の頻度が増えると、携帯できるおやつの売れ行きが回復します。それを反映して、森永やグリコなど、携帯に便利なチョコレート菓子や、スナック菓子を多く製造している企業の株価は、2023年度来で20%超の上昇となっています。その一方で、亀田製菓の株価は、ほとんど上昇しておらず、出遅れ間が目立ちます。

画像:TradingViewより

ところが、直近の決算で、巻き返しの動きがチラリと見えてきました。

直近四半期の営業利益率は大きく改善

画像:亀田製菓「2024年3月期 第3四半期決算短信〔日本基準〕(連結)

2024年2月2日に発表された2024年3月期の第3四半期決算では、①売上高予想は70,136(百万円)、②前年比-2.4%、③営業利益2,895(百万円)、④前年比-7.5%。第三四半期までの累計の数字だと、このように売上、営業利益とも前年比割れなので、回復しているように見えないのですが、直近の四半期(10-12月)だけを取り出すと見える景色が変わります。

10-12月の売上高26,069(百万円)(前年比+1%)、営業利益2,041(百万円)(前年比+41.8%)と増収増益。営業利益率は前年の5.6%から7.8%へと大きく改善されています。

9月に主軸商品のひとつ「亀田の柿の種」を値上げしたことが功を奏しており、それによる買い控えは起きていません。また、お土産屋さんや百貨店向けの商品も堅調で、インバウンド需要を取り込み好調です。ただ、全体の売り上げの15%程度を占める海外事業が不調で足を引っ張っており、まだまだ全面回復とはいえない状況です。

亀田製菓、成長のカギは?

当社がコロナ禍のピークを超えて、さらなる成長を遂げるかどうかの鍵を握っているのは、2022年に就任したCEO兼会長にあるといえます。

亀田製菓のビジョンは「ライスイノベーションカンパニー」であること。当社のバリューを活かし、お米の可能性を最大限に引き出すことで、社会に対して新価値・新市場を創造していきたいと表明しています。

画像:亀田グループ「中長期成長戦略2030

日本の代表的な食物”お米”を扱う企業ですから、CEOは当然日本人!と思うのは、もう古い考えなのでしょうね。CEOに就任したのは、インド出身のジュネジャ氏。1984年に生物工学を学ぶため、日本に研究員として来日。食品工業化学を学び博士号を取得。日本に帰化し、2014年ロート製薬副社長に就任、その後当社にベットした人物です。

ジュネジャ氏自身は、30年以上「亀田の柿の種」のファンで、「亀田には大きなポテンシャルがある」と言い切っています。「亀田製菓自身が、そのポテンシャルに気づいていない」とも。

まず、ジュネジャ氏が行った改革は「価格訴求」から「価値訴求」へと社員の意識を変えることでした。米の価格から、商品の価格を決めるのではなく、消費者が最大どれくらい価値を感じるかで価格を決めること。少子高齢化で人口が減少していく中、若い人に米菓を食べてもらうために、消費者の動向を調べて、ニーズをキャッチした商品開発を行うことに注力したそうです。

そういわれてみれば、最近の亀田製菓は、ネーミングもユニーク。「サクサクとまらない! 無限のり」「堅さの新領域! 考えるな、かみ砕け! バリっとポテト」「250%パウダアアア! ハッピータン」。こうしてネーミングを入力しながらも、ふふふと笑いが込み上げます。社員のみなさんが楽しみながら作っている様子が目に浮かびます。ジュネジャ氏の座右の銘は「夢と笑い」ですから、その想いが社内に浸透しつつあるのではないでしょうか?

就任からまだ3年ですので、ジュネジャイズムが完全に浸透するのはもう少し先のお楽しみです。

画像:亀田グループ「中長期成長戦略2030

2023年8月に策定された「中期成長戦略2030」では、戦略骨子として、亀田製菓の「進化と勝ち筋」がかなり明確に記載されています。2030年には売り上げ1,400億円(現状の約1.5倍)、営業利益140億円(現状の約3倍)を目指すとしていますので、それが実行されるなら、株価も今の3倍程度には上昇してもおかしくないことになります。

米菓の魅力が、海外でもっと認知されれば、計画達成はそれほど難しくないように思います。柿の種をこよなく愛するジュネジャ氏が、今後株価をどこまで引き上げてくれるか、止まらない無限のりを食べながら、見守ることにしましょう。

※本記事は投資助言や個別の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資にあたっての最終決定はご自身の判断でお願いします。

投資管理もマネーフォワード MEで完結!複数の証券口座から配当・ポートフォリオを瞬時に見える化[by MoneyForward]

© 株式会社マネーフォワード