チョウ撮影20年、日めくり感覚で紹介 工藤誠也さん(弘前大研究員) 国内外の200種、エッセーに

「チョウごよみ365日」を出版した工藤さん

 高校時代から青森県内を中心に国内外でチョウを撮影してきた弘前市出身の工藤誠也さん(35)=弘前大学農学生命科学部研究機関研究員、動物生態学=が今月、チョウを歳時記のようにまとめた「チョウごよみ365日」を刊行した。20年にわたり自身が撮影した200種以上の貴重なチョウの写真を季節ごとに整理し、日めくり感覚で楽しめる内容。深い知識と観察眼に裏付けられた、細かな特徴の描写や自然の様子をエッセー調でつづっている。

 岩木山麓をはじめ、陸奥湾周辺、日本海側地域など半分以上が、県内各地で撮影した個体。研究者の気概が感じられる珍しいチョウばかりで、生き生きと鮮明に撮影された成虫だけなく、幼虫や卵にもレンズを向けている。愛好家から「ゼフィルス」の呼び名で親しまれるミドリシジミの仲間も多数登場し、「きらきらと光る一群で、ミズナラの林で多く見られる。青森はミズナラ林が身近にある恵まれた地域」と解説した。

 冬が近づき国内ではチョウが見られなくなる季節、舞台は南国へ。タイ、ミャンマーの国境の山岳地域で出合った奇チョウ・テングアゲハについては「険しい山登りや社会情勢的な危険さも伴った」と撮影の苦労を語った。

 ほかにも、チョウを売って生計を立てているマレー半島の先住民族オラン・アスリの少年たちがチョウの標本を見せ合う様子を捉えた写真は、高校時代に現地で撮影したもの。餌としてアリに巣に運ばれるゴマシジミの幼虫の写真では、実はゴマシジミの幼虫がアリの幼虫を食べるという、一般的には知られていないチョウの側面を解説している。

 工藤さんはこれまでも「美しい日本の蝶図鑑」(ナツメ社)、「アリの巣の生きもの図鑑」(東海大学出版会)など観察眼と撮影技術を生かした成果物を刊行(共著含む)し、業界で好評を博している。工藤さんは「図鑑とは違い読み物として気軽にめくってもらえる本になった。きれい、かよわいだけでないチョウの奥深さを感じてもらえたら」と話した。

 誠文堂新光社刊、定価2400円(税別)。

© 株式会社東奥日報社