春から盛んにPRされる犬の「フィラリア症」血液検査は毎年必要なのか? 【ワンニャンのSOS】

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【ワンニャンのSOS】#55

フィラリア症は蚊が媒介する感染症で、犬の心臓や肺、猫の肺などに寄生虫が感染します。成虫になると30センチ近くにもなりますが、心臓に多数寄生すると血流が滞って、最悪の場合、命を落とす恐れがありますが、感染初期はあまり症状が目立たず、見過ごされやすいです。

発症すると元気や食欲がなくなる、咳をする、痩せる、呼吸が苦しくなる、といった症状が見られ、さらに進行すると、お腹が張ってきたり、血尿のように尿が赤くなったりします。

前述した通り蚊が媒介する病気ですから、春から夏にかけて動物病院に行くと、フィラリア予防の観点から、フィラリア感染を確認する検査が勧められることが少なくありません。薬剤の進歩でフィラリア症は少なくなっていますが、それでも盛んに検査が勧められるのには理由があります。

30年ほど前、イベルメクチンという抗寄生虫薬が登場。フィラリアの駆虫薬として普及していました。その際、よく使われたのは粉薬を“豚”の配合飼料に混ぜて処方する方式です。そのレシピが海外から伝わり、日本でも犬の体重に応じて処方されていたといいます。

その保存方法は食品保存容器などに入れて、フィラリアのシーズンである秋くらいまで冷蔵庫で保管しながら使用していたそうです。いまから思うとかなり雑な保管方法で、果たしてシーズン終了まで薬の効果が保たれていたのかかなり不安が残ります。

そこで「薬の効能が維持されているのか、きちんと調べる必要があるのではないか」と唱える獣医師が現れたことが、春にフィラリアの検査をするようになった始まりといわれます。若い獣医師はこの流れを恐らく知らないでしょう。

ことさら検査の必要性をアピールするのは、飼い主さんに“薬が効いていないかもしれない”と伝えているような気がしてなりませんが、いまの薬はおやつタイプや経皮吸収型のスポットタイプなどがあり、きちんと使用すれば予防・駆虫ができます。

それでも検査、特に血液検査である抗原検査の必要性があるとすれば、シェットランドやコリーなどイベルメクチンに感受性の強い犬種の場合、投薬の危険性を調べるのがひとつ。

もうひとつは、フィラリアに感染して成長した段階で薬を投与すると、アナフィラキシーショックを起こすことがあるため、それを避けるための感染チェックです。

しかし、当院でかかりつけのワンちゃんなら、薬の確認と心臓の聴診で検査は完了。心臓の音に問題がなければ、薬を処方して終わります。もしフィラリアが心臓に感染して成長しているとすると、心音が乱れることから判断できるのです。その場合、高価な血液検査は必ずしも必要なく、培養検査で十分なことがほとんどです。

これが可能なのは、かかりつけ医としてワンちゃんの状態を把握しているからで、初診の飼い主さんが「血液検査ナシで薬を処方してください」と言っても無理なお願いです。診察ナシで処方はできません。

(カーター動物病院・片岡重明院長)

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