川栄李奈「歌番組に出るよりも嬉しかった」転機となった伝説のドラマ、映ったのは僅か2秒!AKB48卒業後に俳優で成功した理由

川栄李奈 撮影/冨田望

2010年、AKB48研究生として公演に立ったことをきっかけに、芸能界でのキャリアを築いてきた川栄李奈。2015年にAKB48を卒業して以降は、俳優として活躍。上白石萌音、深津絵里らとトリプル主演した2021年の連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』、同年の大河ドラマ『青天を衝け』をはじめ、その実力を認められてきた。現在も動画投稿サイトなどで話題を呼んだ、ウェブライターでユーチューバーとしても活動する雨穴による書籍の映画化『変な家』で、その巧さを十分に見せている。そんな川栄さんのTHE CHANGEとはーー。【第1回/全4回】

主演ドラマ『となりのナースエイド』(日本テレビ系)が、3月に最終回を迎えた川栄さん。スクリーンでは、ウェブライターで、覆面作家として活動する雨穴による同名小説を映画化した『変な家』が大ヒット公開中だ。物語の鍵を握る女性・柚希を絶妙なバランスで演じて、演技力の高さを証明している。そんな川栄さんが、アイドルグループAKB48の一員だったのは、みなの知るところ。川栄さん自身、自分が俳優に転身するとは、当初はあまり考えていなかったようだ。

「私自身のTHE CHANGEとなると、やっぱりAKB48に入ったこと、そして卒業したことです。その2つが、一番人生が変わった出来事だと思います。もともとオーディションを受けたときも、受かるとは思っていなかったので、軽い気持ちで受けていて。劇場公演があるのも知らなかったくらいです。レッスンに行かなきゃいけないとか、そういったスケジュール感も全然なくて。それで学校に通えなくなったりして、10代で、大きな変化が起きました」

『マジすか学園』では何十人といる生徒の中のひとり

――その忙しいなか、お芝居をしてみたら楽しくなっていったと。

「そうです。AKB48に入って、いろいろなことを覚えることに必死で辛いことが多かったのですが、その中で、ドラマに出させてもらったときにすごく楽しいと思えたんです」

――最初に楽しいと思えた瞬間は。

「最初に『マジすか学園』※に出たときです。何十人といる生徒の中のひとりでした。朝4時くらいに集合して、撮影が始まったのは夜の9時くらい。みんなでずっとレジャーシートの上で寝ながら待機していました。めちゃめちゃ大変だったはずだし、その結果も一瞬しか映らなくて、それもほんの隅っこ。でもそれがすごく嬉しくて。自分が“ドラマに出てるんだ!”って。テレビっ子だったんです。それでドラマがすごく好きで。歌番組に出るよりも、ドラマに出ることのほうが嬉しかったんですよね」

※AKB48、およびその姉妹グループの主演で制作された学園ドラマシリーズ。

――現場よりも出来上がった映像を見たときに嬉しかった?

「両方です。現場も嬉しかった。『マジすか学園』に出られますと言われた瞬間、すっごく嬉しくて。セリフも全然ないし、本当に何十人いるなかのひとりでただ立ってるだけだったんです。でもすごく嬉しくて楽しくて。出来上がった本編を見ても、たぶん2秒映ったかどうかくらいだったんですけど。引きの画の端っこで。それでもめちゃくちゃ嬉しかった。“お芝居したい!”と思ったきっかけです」

――「もっと映りたい!」と?

「もっとちゃんとお芝居したいと思いました。その時には、人に見てもらいたいとか、見た人に何か感じて欲しいとか、そういったことまでは思っていなかったのですが。ただお芝居をして、ドラマに出たいと思っていました。今は、“面白いです”“毎週楽しみにしています”と言ってもらえることがすごく嬉しいです。舞台も“観に行くのを楽しみにしています”とか、私が演じていることで、その人の生活が少しでも楽しいものになったり、潤ったりしていたら、嬉しいなと思うようになりました」

――当時、「ちゃんとお芝居したい!」と思ったその気持ちは、周囲に伝えたのでしょうか。

「いえ、言わなかった、言えなかったです」

――そうなんですか? 今の川栄さんには、「朝ドラのヒロインを演じる」「大河ドラマに出たい」と言ったことを言葉にされて、実現してきた有言実行の人という印象があります。

「もともとは言えるタイプじゃなかったんです。でも『マジすか学園』が自分たちの世代がメインになっていったりして、出させていただく機会も増えて、思いが強くなっていきました。どんどん俳優になりたいという気持ちが大きくなっていって『ごめんね青春!』※に出させてもらったときに、卒業を決意しました。同世代の役者さんたちと一緒にお芝居をさせてもらって、学ぶことが本当にたくさんありましたし、楽しいなという思いがより強くなったので、“お芝居がしたいので卒業します!”と気持ちがはっきりしました」

※(2014年、日本テレビ放送のドラマ。宮藤官九郎のオリジナル脚本による学園コメディで、主演を錦戸亮が務めた。川栄さんは錦戸さん演じる主人公の高校教師が受け持つクラスの生徒のひとりを演じた)

――では、自分の気持ちをはっきりと伝えられるようになったのは、逆に言うと、やりたいことがはっきりと見えるようになったから、言葉も出てくるようになったのでしょうか。

「そうですね。それまでやりたいことも特になく、目標も特にありませんでした。だから俳優としてやっていくと決めた瞬間、自分自身が変わったのだと思います」

「芝居」に出会って、目標を見つけ、自分自身をつかんだ川栄さん。そこからいまへと道が続いている。

川栄李奈(かわえい・りな)
1995年、2月12日、神奈川県出身。2015年にAKB48を卒業してほどなく、舞台『AZUMI幕末編』、翌年『戦国編』で主演を務めて好評を得る。その後連続テレビ小説『とと姉ちゃん』(NHK)『3年A組‐今から皆さんは、人質です‐』(NTV)大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』(NHK)『家政夫のミタゾノ』(テレビ朝日)などに出演。トーク番組『A-Studio』では10代目のアシスタントを務めた。ほか主な出演作に映画『亜人』『センセイ君主』『恋のしずく』『泣くな赤鬼』、ドラマ『夕凪の街 桜の国 2018』『青天を衝く』『となりのナースエイド』など。現在、映画『変な家』が公開中、舞台『千と千尋の神隠し』で千尋役を演じている。

© 株式会社双葉社