津田健次郎『映画おしりたんてい』での演技が絶賛される理由「美しいだけではない世界が、子どもの世界にもある」

津田健次郎 撮影:有坂政晴

キャリアを重ねるにつれ、職業づけするのが無意味に思えてくる津田健次郎。声優に俳優、ナレーター、さらに2019年には映画監督としてもデビューした。そもそもは声優として、アニメ『呪術廻戦』の七海建人、『ゴールデンカムイ』の尾形百之助、『極主夫道』の龍と、様々な役でその存在を知られ、いまや連続テレビ小説『エール』、連続ドラマ『最愛』を皮切りに、特に2020年以降、俳優としても引っ張りだこ。そんな津田さんのTHE CHANGEとはーー。【第4回/全5回】

現在、目や耳にしない日はないほどの活躍を見せている津田さん。映画館では、『ゴールデンカムイ』でナレーション、『映画 マイホームヒーロー』で俳優、『映画おしりたんてい さらば愛しき相棒(おしり)よ』で声優としての、それぞれ一流の仕事ぶりを堪能することができる。

――大活躍ですが、『おしりたんてい』への参加が決まったときの気持ちを教えてください。

「すごく嬉しかったです。特にアニメーションの場合は、人を殺すような非常にハードな役が多いので(笑)、こうした子供向けの作品に参加できること自体、とても嬉しいですし、『おしりたんてい』は本当に大人気の作品ですから」

――『おしりたんてい』シリーズへの印象はどんなものでしたか?

「うちの子が見ていたんです。それで変わったものをやっているなと。個性の塊ですよね。“どういう発想?”っていう(笑)。でもテレビシリーズを見ていても、すごく工夫されてるんですよね。物語が進んでいくなかで、“これはいくつありましたか?”と問題が出てきたりして。子どもの興味を引いて笑わせながら、ちょい良い話が入ってきたりする。本当によくできていて、面白い作品があるなぁと思っていました」

美しいだけではない世界が子どもにもある

――「どういう発想?」というのは、まさに私も思いました。「え、どういうこと?」と。

「ですよね。常識では追いつけないところがある。強烈なキャラクター。名前からしてすごいし、でも見ると、たしかに“おしりたんてい”だなと(笑)。必殺技もすごいし。だいたいの大人は“は? 肉体構造どうなってるの?”と疑問を抱くと思います。でもそういったくだらない疑問をすべてぶっ飛ばす勢いを感じるというか、突き抜けた感じがある。それに子どもは“そんなことより面白いでしょ”と。純粋にスッと受け入れてしまう」

――そうかもしれません。

「“え、どういうこと?”というツッコミはあまり感じずに、子どもは“そういうものだ”と受け入れるんじゃないでしょうか。そのうえで、たとえば今回の映画版なんて、かなりシビアな物語なんですよね」

――キンモク先生の物語が本当に響きました。

「とても悲しみに溢れているキャラクターです。でもそういったものを、子どもが観るんだなと。そして色々知っていくんだなと思いました。ただただ美しいだけではない世界だけれど、きっと、美しいだけではない世界が、子どもの世界にもあるんだろうと思うんです。子どもの世界にもケンカはありますし、悲しいこともきっとあるでしょう。意地悪された、意地悪しちゃったとか。そこで傷ついたり。いろんなことがあるんだろうなと。キンモク先生は、そういった苦いものも描いていくキャラクターなので、しっかりと演じなくてはいけないと思いました」

筆者は本作のキンモク先生の描く側面は、大人に響くのだろうと思ってしまっていた。子どもは「おしりたんてい」の可愛らしい面を楽しむのだろうと。それは傲慢な見方であり、たしかに津田さんの言うとおり、子どもの世界にも悲しいことも苦い出来事もある。それをきっちりわかったうえで、表現された津田さんのキンモク先生だからこそ、より深いところまで響くのだと改めて知らされた。

津田健次郎(つだ・けんじろう)
1971年6月11日生まれ、大阪府出身。1995年に声優デビュー。近年は俳優業でも活躍。声優業の近年の代表作として、『遊☆戯☆王 デュエルモンスターズ』や『薄桜鬼』『ゴールデンカムイ』『呪術廻戦』『チェンソーマン』など。俳優業として、2020年のNHK連続テレビ小説 『エール』(兼ナレーション)、ドラマ『最愛』『ラストマン-全盲の捜査官-』『大奥 Season2』、映画『映画 イチケイのカラス』『わたしの幸せな結婚』『映画 マイホームヒーロー』など多数。

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