【3月30日付編集日記】冷や水

 景観工学などが専門の真田純子東工大教授が、夏のイタリアで買い物したときのこと。露店の八百屋で、タマネギはあるかと言うべきところを、長ネギと言い間違えたら「今は季節じゃない。あったとしても美味(おい)しくない」と怒られたという

 ▼真田さんは、旬ではないものを欲しがる方がおかしいといった価値観がベースにあると指摘する(「風景をつくるごはん」農山漁村文化協会)。一年中、同じ野菜が並んでいるのを当たり前と思っている身には耳の痛い話だ

 ▼食べたいものがいつでも手に入るせいか、栄養はどうしても偏りがち。バランスを保つのに健康食品が重宝されている。医師に処方してもらわなくてもサプリメントが健康増進につながるとすれば、市場が拡大しているのもうなずける

 ▼高い健康意識は、季節感と引き換えに豊かな食を享受していることの表れでもあろう。そこに予想もしないところから冷や水を浴びせられた。成分や効能のはっきりしない民間療法ならともかく、大手製薬会社のサプリを摂取した人の健康被害が拡大している

 ▼サプリとの因果関係が疑われる死亡事例も確認されている。不安にさいなまれている人は多い。一刻も早い原因究明が待たれる。

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