ヒカキンの謝罪は「理に適っている」? 謝罪のプロが説く“YouTuberの正しい謝り方”

2024年の元旦に結婚を発表したトップYouTuber・HIKAKIN(以下、ヒカキン)。YouTube界が祝福ムードのなか『週刊文春』がヒカキンの二股疑惑に関する記事を掲載すると、そのニュースは瞬く間に世間に広がった。

ヒカキンは記事が掲載された当日に謝罪動画を投稿し、記事の内容について「僕の落ち度でしかありません」と相手を擁護。さらに相手と文春への誹謗中傷を控えるように呼びかけたことで、称賛の声が相次いだ。しかし、昨今はさまざまな疑惑に対する謝罪、釈明の対応によっては、炎上するケースも。

そこで今回は、「謝罪のプロ」こと危機管理コミュニケーション専門家である増沢隆太氏に、ヒカキンの謝罪動画をもとに、今後YouTubeクリエイターが謝罪する際に気を付けたいポイントやさらなる炎上を防ぐための謝罪の仕方について話を聞いた。

・ヒカキンの謝罪は「理に適っている」 その理由は?

――先日、週刊文春にヒカキンさんの過去の交際に関する記事が掲載されました。この件についてヒカキンさんが謝罪動画を投稿されましたが、コミュニケーション専門家である増沢様が見た時に、ヒカキンさんの謝罪はどのように映ったのか、率直なご感想をお聞かせいただけますか?

増沢隆太(以降、増沢):なかなか表現が難しいですが、上手い謝り方をすると許されるんじゃないかという、勘違いがあるのではないかと思っています。もちろんより良い方法という点で上手い謝り方というのはあると思っていますが、やり方や方法よりも決定的に大事なのは何があったのか、その内容ですよね。

犯罪はもはや謝罪でなんとかなることはないですが、昨今話題になっている不倫といったケースは犯罪ではありません。ましてや今回のヒカキンさんの件は独身時代の交際のちょっとしたもつれで、不倫に比べ深刻な問題ではありません。いわゆる倫理観の問題で好ましくないことが起きたときは、謝罪の仕方で差がつきます。ヒカキンさんはさすがにトップYoutuberだけあって、謝罪の仕方を含めて非常に素晴らしいものだったと思います。

――ヒカキンさんの謝罪で良かった点を教えていただけますか?

増沢:ヒカキンさんの謝罪の最大の特徴は、人のせいにしないことです。

よく謝罪では「自分には責任がありません」や、「担当者が間違えました」などと伝える場面が多いですよね。本人的には事実を話しているだけという認識だと思います。しかし、謝罪の目的は疑惑が事実かどうかではなく、自分に向かっている批判やもしくはこれから起こるであろう批判をどこまで抑えられて、ビジネスが継続できるかがポイントなんです。エンタメであれなんであれ、謝罪ではそのことが一番大事なところだと思います。

ですが、この目的に沿って謝罪すると内容に事実が含まれないので、皆さん「真実を」と言うんです。でも、真実をそのまま伝えたところで信じない人が多いだろうし、それで仕事を失った人はたくさんいるわけです。なので、ヒカキンさんが「自分のせい」としたことは、私は極めて理に適っていると思います。

・「謝罪は目立たない方がいい」 謝罪における成功は“すぐに忘れられること”

――今回のヒカキンさんの謝罪動画は、すごくいい謝罪の仕方だったということですね。少しお辞儀が深すぎるなど違和感を覚えたところがあったのですが、このお辞儀はどうでしょうか?

増沢:ヒカキンさんは動画制作のプロで、YouTuberとしてトップに立っている方なので、ポジティブな意味で構成や演出をすべて考えていらっしゃる。だからこそ長く深いお辞儀だったのだろうと思います。ただやはり、10秒ほどの長いお辞儀はすごく違和感があるし、あれはやらない方がいい。それは変な目立ち方をしないというのが、謝罪においてすごく大事なポイントだからなんです。

過去に芸能人で捕まった方が釈放された際に、警察署のエントランスの真ん前で土下座したということがありましたが、これは傍目から見ると異様に映ってしまいます。土下座などで、謝罪の意を見せるというのは、効果があるどころか押し付けになりやすい。謝罪をされた側にはメリットがない。礼儀正しく数秒間頭を下げるというのが一番目立たないし、この目立たないっていうのが謝罪においてすごく大事なポイントです。

――謝罪は目立たない方がいいとは驚きです。

増沢:事態を収集したいわけなので、「あの人の謝罪は感動したね」とずっと言われ続けたら、それは印象に残ってしまっているわけですよ。「こんなことあったっけ?」と忘れてしまうくらいになることが謝罪における成功です。

――なるほど。ちなみに謝罪の仕方は時代によって変化しているのでしょうか?

増沢:私は10年くらい前からこういった話でよく声がかかるようになったのですが、これはインターネットの影響だと思っています。インターネットを皆んなが気軽に使えるようになったのは、21世紀になってからですよね。一般の人たちはそれまで世間と直接交流する窓口がなかったので、昭和の大物芸能人や政治家のような人以外はそもそも謝罪する場所がなかったんです。いまはネットを通じて姿が簡単にスマホで見れてしまうので、謝罪が届きやすくなった。インターネットが普及する前と後ではまったく違うと思います。

――深すぎるお辞儀や印象よくするための作法的なところでも、謝罪動画というのはかなり難しいコンテンツな感じがします。

増沢:印象に残らないようにすればいいわけですから、難しくはないと思います。私はコンサルタントとしていろんな会社の顧問をやってきましたが、トラブルはいくらでもありました。この件で思うのは、自分が悪いと思ったらなんのストレスもなく「申し訳ない」と皆謝れるんですが、そうじゃないことが多いということ。部下や上司がトラブルを起こした場合に「私は悪くない」と本能のままに行動したら、ビジネスができなくなってしまいます。こういうときは収拾することが仕事で、私は「土下座もします」というぐらいのことをやっていました。

これはよく「ビジネス土下座」とか「ビジネス謝罪」といわれますが、要はこういう気持ちを持てるかどうかなんです。事態を収拾するために頭を下げらることは、まさにプロの姿になります。個人の思いを言ってしまうのは素人です。

・YouTuberが謝罪動画を出す際に気をつけるべきポイント

――今回のヒカキンさんの謝罪は称賛の声ばかりでしたが、最近は対応を間違えて炎上するケースが増えていると感じています。今後YouTuberやクリエイターの方が謝罪動画を出す際に、気をつけるポイントを教えていただけますでしょうか。

増沢:謝罪というのは自分の名誉のためにやるのではなく、ビジネスのために“プロとして”やるべきだと思います。自分の正当性を伝えることがプロの仕事ではなく、仕事を続けることがプロなんです。謝罪するときはビジネスを続けるためにどのような対応をして、どんな映像を見せればいいのか、どういうメッセージを送れば事態が沈静化するのかを考えましょう。

ヒカキンさんは最初に「僕の至らない振る舞いで傷つけてしまい、本当に申し訳ございませんでした」と謝罪しています。とにかく始めに自分が悪いと述べるということも、大事なポイントですね。

――謝罪する際、黒いスーツを着ている方がほとんどですが、謝罪する際のふさわしい服装というのはあるのでしょうか?

増沢:「目立たない」という話に繋がりますが、ふさわしい服装は“何の印象にも残らない”ものです。黒スーツが一番目立たないし、女性の場合も白いブラウスとスーツがいいです。なぜならこれが一番個性を殺すからです。ネクタイやメガネも、とにかく一切メッセージを出さないもの。たまにフレームがおしゃれなメガネやアクセサリーをしている方もいますが、こういうメッセージを発するものは全部排除して、服装から何もメッセージを出さないというのが大事なんですよ。

――純粋な疑問なのですが、普段きばつな格好をしている人が謝罪の際に目立たない格好をするというのは正解なんでしょうか? たとえば、髪の毛の色が金色や明るい色の場合、黒く染めることで逆に目立ってしまう印象がありますが......。

増沢:まずメッセージを発信しないというのが大原則です。髪色というのはそれだけでもメッセージを発信するので、色が明るいとファンキーというか、ロックンロールな感じがするので謝罪には向かないです。だから黒い方がいいんです。

ただし、それも謝罪のタイミングによります。普段金髪で活動している人が真っ黒にするということは、どこかで髪染めをしているわけですよね。この染めるタイミングが、問題が起きてからすごく時間が経ってたらいいわけです。たとえば、数時間前に事故を起こした人が髪を染めてきたら、「なにやってんだ」という話ですが、ある程度時間が経って、会見するようなときに黒くするのはいいです。事件がまだ動いてるところで髪の色を染めるのはやりすぎですが、さすがにジャケットぐらいはすぐになんとかなる。

お詫びのお土産を持っていくのも同じです。何を持っていけばいいかではなくて、いま事件が起きているというときにお菓子を買っている場合ではないという話です。手間がかかるかどうか、謝罪するまでの時間が判断材料になります。

――目立たないための服装が黒いスーツなんですね。謝罪の際に使わない方がいいワードについても教えていただけますか?

増沢:よく言いがちな「世間をお騒がせし」は、実はまったく謝っていないんです。「騒いでいるのはメディア」だとメディア批判のようになってしまって、その本音がバレちゃう言葉なんですよ。こうやって自分の責任ではないところから話しはじめて状況を説明し、最終的にお詫びする。これは逃げているという意識になるので、ヒカキンさんみたいに最初に「この度は大変ご迷惑おかけしました」というメッセージをもってくることが理想です。

「誤解を与えて」もよく使われるフレーズですが、誤解という言葉は「あなたが間違っている」という意味なので、使ったらダメです。そして、つい本音が出ちゃうこともあるかと思いますが、それをSNSで書き込むことはとても危険です。SNSに載せるときは、あくまで本人が書いたものを事務所の人間などが見る。ワンクッション、フィルターを入れた方がいいですね。

――すごく興味深いお話ですね。これまでのお話の総括となりますが、最後に好印象を与える謝罪の仕方をあらためて教えていただけますか?

増沢:謝罪は単なるお詫びではなく、いかに事業を継続させることにつながるかをゴールにしていただきたいです。自分の正当性を伝えても反発は収まらない。だとすれば、「本当は自分は悪くない」という気持ちをグッと抑えて、ヒカキンさんのように「大変ご迷惑をおかけしました。すべては私の責任です」と、最初に言った方が結果として収まります。もちろん批判も受けるでしょうが、それで批判が収まればいいわけじゃないですか。自分の人生をよくするためにどうするか考えたりすると思いますが、謝罪もそれと同じことだと思います。

(文・取材=せきぐちゆみ)

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