東京でも珍しい、八王子唯一のおでん屋台『さんかく』は、こだわりの出汁が自慢!

今回は東京でも珍しい八王子唯一のおでん屋台『さんかく』のおでんを紹介しよう。昔ながらのノスタルジックな雰囲気と出汁にこだわったおでんが魅力の一軒だ。

リアカーで営業するおでん屋台は最近ほとんど見ることがなくなり、東京では2024年現在で2軒のみとなっている。今回紹介する八王子の『おでん屋台 さんかく』はそのうちの一軒だ。おでんとお酒を味わいながら、ゆっくりお話をうかがってきた。

東京でも珍しい八王子唯一のおでん屋台、『さんかく』

JR八王子駅前北口から西へ伸びる西放射線ユーロード通りは、都まんじゅうを販売する『つるや製菓』や八王子最古のラーメン屋といわれる『竹の家』など、魅力的なお店が連なっている。

今回紹介する『おでん屋台 さんかく』はユーロードが甲州街道につながる手前の私有地で営業している。

敷地はカットケーキのような形をしており、それにちなんで「さんかく」と命名されたという。屋内とはまた違った開放的な雰囲気が魅力のお店だ。

『さんかく』はお店を一軒挟んだ隣にある『Hachioji Kitchen 花2(ハチオウジキッチン ニカ)』のオーナーが始め、6年ほどの歴史がある。狭い敷地をどのように活用しようかと考えた結果、おでん屋台に決まったそうだ。屋台の営業申請は大変だったそうで、許可が降りたのは八王子で十数年ぶりのことだったという。

訪れた日は屋台を切り盛りするなのさんがお話を聞かせてくれた。もともと彼女はお客さんの立場だったが、オーナーから「働いてみないか」と誘われ、1カ月ほど前から屋台に立っているという。飲食業に本格的に携わったのは今回が初めてというが、的確にオーダーをさばいていく姿はすでに堂に入(い)るベテランの風格が漂う。

実は彼女は「なの小夕子(なのさゆこ)」名義で活動するアーティストだ。DTMシンガーソングライターとして歌や作曲にとどまらず、写真集や映像作品など幅広いジャンルで類まれなる才能を発揮している。新宿ゴールデン街で働いたこともあるそうで、奥行きのあるオーラはこれらのバックグラウンドからにじみ出ているのだと腑に落ちた。

屋台に目を移していこう。座席は屋台をぐるりと囲んでおり、定員は6名だ。椅子は裏返したビールケースだが、クッションが敷いてあるので思いのほか座り心地がいい。

奥にも席があり、4人が一度に座ることができる。冬場の寒い時期は石油ストーブをつけてくれる。屋台はビニールシートで囲むので、風のある日でも温かく過ごすことができる。

お店は一年中営業しており、屋外なので季節によって異なる雰囲気を楽しめる。なのさんによると、夏もビアガーデンのような開放感を楽しめて気持ちよいそうだ。

こだわりの出汁が自慢! 『さんかく』のおでん

飲み物のメニューは屋台とは思えないほど豊富だ。日本酒や焼酎はさまざまな銘柄を揃えており、おでんのだし割(出汁割り)もできる。

ビールや酎ハイ、カクテルやウイスキーなども揃えている。屋台で用意できない飲み物は、2軒隣の本店『Hachioji Kitchen 花2』から取り寄せている。

だし割用の日本酒は本醸造の「信州舞姫 芳醇 静」、焼酎はご存じキンミヤとなる。どちらも癖が少なく、おでん汁と見事に調和する。

『さんかく』のおでんは特に出汁に力を入れており、宗田鰹、昆布、どんこなどうまみの強いものを贅沢に使用し、最後に香り付けとして花かつおを加えている。うまみが折り重なるようにじんわり冷えた身体に染み渡る。

おでんのメニューも非常に豊富だ。大根や玉子のような定番から、春キャベツや春菊といった季節もの、さらにソーキ肉やたこ焼きなどの変わり種も多い。

まずは一番人気の「本日のおまかせ」をオーダーしてみた。3種の値段で1種類サービスになるのでかなりお得だ。おでん種は毎回変わるが、このときは大根、玉子、こんにゃく、栃尾揚げという組み合わせ。

こんにゃくは八王子の『中野屋』のもので、ふわりと柔らかく味が染みている。栃尾揚げもたっぷり汁を吸い、噛み締めるごとにじゅわっとうまみがあふれてくる。

次は変わり種を味わってみよう。迷った結果、ソーキ肉、春菊、だししいたけ、たこ焼を頼んでみたが、美しく盛り付けしていただいた。

ソーキ肉は沖縄おでんで見かけるが、東京では珍しい。軟骨のこりこりとした歯触りと、噛めば噛むほどやさしいうまみが味わえる肉は極上のおいしさだ。春菊は独特の苦みと清涼感を楽しめ、椎茸はぎゅっと詰まったうまみが素晴らしい。

たこ焼きはさっとおでん汁をかけたものをいただく。とろりとしたたこ焼きに、じんわりやさしい味わいの出汁が見事に絡み合う。

最後に締めとして鶏うどんを頼んでみた。本来は鶏肉が添えられるが、欠品していたのでなのさんが「いかさつま」をチョイスしてくれた。いかさつまはすり身がぷりぷりとしていて弾力があり、食べ応えもある。うどんも良い出汁が出ており、満腹でもするするとお腹に入る。心も身体も温まり、大満足だった。

後世まで残したい、ぬくもりのあるおでん屋台

老若男女、常連から一見さんまで、お客さんが入れ替わり立ち替わりやってくる。なかには挨拶代わりにお酒を一杯だけ頼んで「また来るよ」と軽快に去っていく常連客もいる。

知り合いでもないさまざまな背景を持つ人々が、肩を寄せ合っておでんを味わい、話を弾ませ、またそれぞれの場所へ帰っていく。出会いと別れの一期一会、まるで人生の縮図を見ているような情緒がある。

なのさんは客として初めて『さんかく』を訪れたとき、気さくに声をかけてくれた人々と懐かしさ漂う屋台の雰囲気に惹かれたそうだ。また、『さんかく』のおでんを食べて「おでんってこんなにおいしいんだ」と感動したという。『さんかく』が一時休業していたとき、おでん屋台の魅力を多くの人々に知ってもらい、長く続いてもらいたいと強く感じたという。

そして今は、なのさん自身が感じたおでん屋台の温かみをお客さんたちにも届けようと奮闘している。その思いは常連客をはじめとしたすべてのお客さんたちに伝わっているようで、皆一様におでんと共に彼女との会話を楽しんでいるようだった。

なのさんやお店を慕う人々であふれるぬくもりあるおでん屋台、『さんかく』。八王子に訪れた際は、ぜひ立ち寄ってみてほしい。

『おでん屋台 さんかく』の基本情報

おでん屋台 さんかく
〒192-0081 東京都八王子市横山町12-1
042-686-2366
定休日:日曜
営業時間:平日17:00~23:30(23:00LO)、祝17:00~23:00(22:30LO)
おでん屋台 さんかくのX(Twitter)

取材・文・撮影=東京おでんだね

東京おでんだね
東京のおでん種・蒲鉾・練り物の魅力を紹介
「おでん種やさんでおでんを買って、家で調理して食べる」文化を盛り上げるべく、都内各地を奔走中。ビジネスでなく趣味でちまちま活動しています。

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