ロシアによる電力網への攻撃、ウクライナの人々の生活への影響は

サラ・レインズフォード東欧特派員(ウクライナ・ハルキウ)

ウクライナ東部ハルキウの中心地では、あらゆる通りで発電機の音がしている。

このウクライナ第2の都市は10日前、エネルギーシステムがロシアの大規模なミサイル攻撃の標的となり、暗闇に包まれた。ロシアの全面侵攻が始まって以来の大規模攻撃だった。

ハルキウが電力復旧に動いている間も、ウクライナ各地でエネルギー供給網を狙った攻撃の波が続いた。

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、こうした攻撃はロシアの「ミサイルテロ」だと非難している。

その上で、友好国などに防衛のための防空システムを提供するよう、あらためて呼びかけた。

一方、黒海沿いの南部オデーサの当局も、エネルギーシステムが一晩のうちにミサイルやドローン(無人機)で攻撃され、一部地域が停電となったと発表した。

ただ、同市の北に位置するハルキウのほうが被害は深刻だ。

同市のイーゴリ・テレコフ市長は、ロシアが同じ施設を再び狙わなかったとしても、電力供給の全面復旧には数週間かかるだろうと述べた。

ハルキウ市への最初の攻撃は、空襲警報をも破壊した。現在では携帯電話から直接、警報音が鳴るようになっている。

ハルキウでは、毎日何時間もミサイル警報が鳴り響くこともある。3月30日の夜には、爆撃の爆風でアパートの窓が何十枚も吹き飛んだ。

そうしたなか、ロシアは送電網への攻撃をますます強めている。

テレコフ市長は、「損害は非常に深刻だ」とBBCに語った。

「復旧のための時間が必要だ」とテレコフ氏は述べ、少なくとも数カ月はかかると示唆した。

ロシア国防省は、直近の攻撃はウクライナの電力供給を狙ったものだと認めている。ウクライナの防衛産業を妨害するのが目的で、「攻撃の目的は全て達成された」としている。

同省は、うその情報を発表することで知られている。

テレコフ市長はBBCに対し、同市で多大な電力を必要とする製造業が、停電によって影響を受けたと述べた。それ以上の詳細は明らかになっていない。

停電期間

市民生活への影響は、もっと分かりやすい。

ハルキウ市では節電のために停電期間が設けられている。土曜日には6時間、日曜日には4時間、電気が使えなくなる。

だが、そのタイミングは変わることもある。私の友達が、その様子を説明してくれた。

「私の住む地域は午前9時から停電になる予定だから、特に早く起きてすべてを充電する。それからエレベーターに乗ったら、中に閉じ込められてしまった。いつもより停電が早かった!」

ハルキウの裏通りにある美容室では、店の外に置かれた発電機がやかましく音を立てている。この街には、こうした形で営業する店舗が数多くある。この美容室は30日、発電機を7時間稼働させて営業していた。

同じことが、中心街のカフェや企業でも行われている。多くの店舗では、割れてしまったガラスの隙間を覆うため、あるいは将来の爆風から守るために、窓の上に木の板を張っている。

板には、鳥や花が描かれたものもある。

美容室のオーナー、ナタリアさんは、「月曜日(3月25日)から発電機だけで営業している」とBBCに語った。

「私たちはみんな女性だし、夜遅く仕事が終わると真っ暗になるから、本当に大変だ」

ロシアは以前にもウクライナの送電網を攻撃している。

その時は、技師らが緊急修理に奔走するなか、住民たちは家の暗闇の中で震えたり、暖かさと電力を求めて中心地の「電力ポイント」に向かったりした。

「静かな夜」を望む声

今はかなり暖かくなっているが、それでも停電の影響は大きい。夜がくれば、ハルキウ一帯はなお暗闇に包まれる。

それは生活を気まずくすると同時に、人々の気分にも影響する。

「ロシアは新しい武器を手に入れた」と、ハルキウ中心部の広場で、ライザさんという学生が心配そうに言った。

ここでは、ロシア政府が使用する滑空式の新型爆弾がウクライナにさらなる惨状をもたらすのではないかという話が飛び交っている。

「人々は落ち込み、しばらくハルキウを離れることを考えている。私たちの軍隊が苦戦していることに気づいている」と、ライザさんは話した。

ハルキウ市当局は、できうる限り、人々の気分を向上させようと尽力している。

週末のミサイル攻撃から数時間後には、数十人の作業員が住宅地周辺を清掃し、窓を覆うための木材を切り始めた。

市地下鉄はすでに運行しており、電気バスやトラムも、通常のバスが代替運行を行っている。

オデーサでは、31日朝に2地区が一部停電に見舞われたが、午後の早い時間には復旧した。

オデーサ在住のマーシャさんはBBCの取材で、「数日前までは全域が停電していて、規模が大きかった」と語った。「昨日は節電のため、市内の信号が止められて、街灯も制限されていた」。

しかし31日には、人々はいつも通り街に出ていたとマーシャさんは話した。当局によると、電力消費の制限は現在、ウクライナ全域で解除されている。

ハルキウの美容室オーナー、ナタリアさんに今回の攻撃を心配しているかと尋ねると、彼女はこの街の評判を引き合いに出した。

「私たちは無敵です」と冗談を言った後、ナタリアさんは爆発のない「静かな夜」を願っていると話した。

ハルキウでは今、それがますます珍しいこととなっている。

(英語記事 Barrage of Russian attacks aims to cut Ukraine's lights

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