昨季と変わらぬ湘南ベルマーレの戦績と課題。敗北のC大阪戦を検証

登里享平(左)杉岡大暉(右)写真:Getty Images

2024明治安田J1リーグ第5節の全10試合が、3月29日と30日に各地で行われた。湘南ベルマーレは30日、敵地ヨドコウ桜スタジアムでセレッソ大阪と対戦。最終スコア0-2で敗れている。

今2024シーズンのJ1リーグ5試合消化時点で、1勝2分け2敗。昨2023シーズンのリーグ序盤5試合も1勝2分け2敗と、湘南は昨年と今年で変わらぬスタートを切っている。序盤5試合でクリーンシート(無失点試合)が無いのも、昨年と同じだ。

湘南が着手すべき課題とは何か。ここでは第5節C大阪戦を振り返るとともに、この点について分析・論評する。


セレッソ大阪vs湘南ベルマーレ、先発メンバー

徹底されつつあるロングパスの送り先

第1節と2節は[4-4-2]、3節と4節が[3-1-4-2](自陣撤退時[5-3-2])と、今季は2つの布陣を使い分けている湘南の山口智監督。今節は前者を選択した。

昨年と比べGKや最終ラインからショートパスを繋ごうとする場面が少なく、今季はロングボールが攻撃の初手となるケースがしばしば。第1節川崎フロンターレ戦ではロングボールが相手センターバック付近や自陣に落ちてしまい、こぼれ球を相手に拾われるケースが多かったが、試合を重ねるごとにパスの送り先が豊富に。相手サイドバックの背後へロングパスを送り、そこへルキアンと鈴木章斗の両FW(2トップ)を走らせる。C大阪戦でも、この攻撃パターンで試合のリズムを作れていた。

ロングパスが直接相手サイドバックの背後へ通ったわけではないが、湘南は前半16分にこれと似た形でビッグチャンスを迎える。MF鈴木雄斗(右サイドバック)が自陣後方から浮き球を繰り出し、これをルキアンがヘディングで後方へ逸らすと、このパスに反応した鈴木章斗が右サイドを疾走。その後鈴木章斗からMF平岡大陽、逆サイドを駆け上がったDF杉岡大暉(左サイドバック)の順でパスが繋がり、同選手がゴール前へクロスを送る。これに反応したルキアンがダイレクトシュートを放ったが、相手GKキム・ジンヒョンが好セーブを見せゴールとはならず。湘南としては狙い通りの速攻を繰り出せただけに、得点に結びつけたかった。


セレッソ大阪 DF登里享平 写真:Getty Images

緩んだ湘南の守備

ビッグチャンスをふいにした湘南の攻守のリズムが、前半20分を境に崩れ始める。筆者にとって気がかりだったのが、同21分のアウェイチームの守備だ。

ここではルキアンと鈴木章斗の2トップが、基本布陣[4-1-2-3]のC大阪MF田中駿汰(中盤の底)へのパスコースを塞いでいる。C大阪の自陣からのパス回し(ビルドアップ)を片方のサイドへ追いやろうとする意図が窺えたが、タッチライン際から内側へ立ち位置を移した相手DF登里享平(左サイドバック)や、相手MF陣をマンツーマンで捕捉したわけではない。ゆえにホームチームDF毎熊晟矢(右サイドバック)から登里へのショートパスが繋がり、後者にロングパスを繰り出されてしまった。

中央封鎖、及びサイドへの追い込み守備の一例。パスがサイドに出たら、サイドバックが相手サイドハーフを捕捉。これと同時に4バックもボールサイドへスライド

このシーンのように相手チームが一時的に3バックを作ってビルドアップを試みた場合は、2トップがボールサイドの相手最終ラインの選手を捕捉し、相手チームのインサイドハーフ(ボランチ化した相手サイドバックを含む)を湘南のサイドハーフと2ボランチで捕まえるのが得策だろう。今節に限らず、ハイプレスを仕掛けようとする湘南の選手たちが相手の中盤選手を捕まえきれていない場面が散見されており、これの修正は急務だ。

湘南ベルマーレ DF杉岡大暉 写真:Getty Images

ビルドアップにも問題あり

ビルドアップ時に両サイドバックのどちらかを高い位置へ置き、4バックの残り3人で3バックを作る形も見せていた湘南だが、攻撃配置が悪い場面もあった。

この最たる例が、前半22分の湘南の攻撃シーンだ。ここでは湘南の左サイドバック杉岡が自陣後方タッチライン際、且つ相手サイドハーフ(ウイングFW)の手前に立ってボールを受けたため、C大阪MFルーカス・フェルナンデスのプレスをもろに浴びている。フェルナンデスに縦のパスコースを塞がれた杉岡は味方DFキム・ミンテへのバックパスを選んだが、この軌道が逸れて相手ボールとなり、ピンチを招いてしまった。

パスミス自体も問題だが、そもそもビルドアップ時の杉岡の立ち位置が悪すぎたと言える。サイドバックがこの位置でボールを受けた場合、自身の傍にはタッチラインがあるため、左右どちらかのパスコースが必然的に消える。先述の通り縦のパスコースも塞がれやすく、ゆえにこの位置でのボール保持はリスクが高い。サイドバックやウイングバックがこの位置でボールを受け、ビルドアップを停滞させてしまうのが湘南の昨年からの悪癖であり、これが今節も見受けられた。

この悪癖をなかなか改善できなかった湘南は、昨年のJ1リーグ第7節から第21節の15試合勝ち無し、第23節からの4試合も勝利から遠ざかるなど、大不振に喘いでいる。この問題の根絶が上位進出に向けて欠かせない。


湘南ベルマーレ 山口智監督 写真:Getty Images

尾を引いた決定機逸

ビルドアップ時のポジショニングに難があったものの、杉岡は敵陣で精度の高いクロスを連発。前半32分にルキアン、後半8分に鈴木雄斗が同選手のクロスからシュートを放ったが、いずれも相手GKキム・ジンヒョンの好セーブに阻まれてしまう。決定機を逃し続けた湘南は、後半15分に相手DF舩木翔にコーナーキックのチャンスを物にされ失点。同37分には途中出場の相手FW北野颯太に最終ラインの背後を突かれ、試合の趨勢を決するゴールを奪われてしまった。

北野のゴールが生まれる直前、湘南の山口監督はFW福田翔生を投入し、これと同時に右サイドバック鈴木雄斗をセンターバックへ移す。この直後の失点が悔やまれるほか、相手サイドバックとサイドハーフ(ウイングFW)の間に適宜立ち、味方からのパスを引き出せる鈴木雄斗を右サイドから外してしまったことで、同クラブの攻撃力が低下。反撃ムードを醸成できなかった。劣勢時の交代カードの切り方やその後の布陣を再考すべきだろう。

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