日本へ来た外国人が戸惑うことのひとつが、電車など公共交通機関の静けさだといわれています。携帯電話の通話も禁止されているため、困ってしまうという人も。ほかの国ではどうなのでしょうか? ひょんなことからイギリスに移住、就職し、海外在住歴7年を超えたMoyoさんが外国暮らしのリアルを綴るこの連載。第24回は、イギリスと日本、公共交通機関でのマナーの違いについてです。
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人のおしゃべりが聞き放題
電車やバスの車内の静かさは、日本ならではかもしれません。通話はもってのほか、あらゆる会話を極力慎み、静かに快適に過ごせるよう「車内マナーを守りましょう」という張り紙が至るところにあります。アナウンスも繰り返しされますよね。
そのようなルールは、ヨーロッパには一切ありません。そのため、延々と大声で通話している人や、一緒に乗っている友達とペラペラしゃべっている人があちこちにいます。静かな車内なんて、どこにも存在しないのではないでしょうか。
イギリスはロンドン、さすがにいろんな国の言葉が飛び交っているのも事実ですが、英語で話している人の会話は、やはり自然と耳に入ってきてしまいます。切羽詰まったお金のやりくりの内容や、彼氏の愚痴をずっと話している人もいて、いろんな人の生活が垣間見えるおもしろい瞬間でもあるのです。
「英語以外の言葉ならわからないだろう」という油断は禁物。フランス人の友人は、ロンドン地下鉄の車内で、ある乗客と少し険悪なムードに。その乗客の去り際に、相手がわからないだろうと思ってフランス語で嫌味をつぶやきました。しかし、なんとその乗客はフランス語がわかる人だったらしく、しっかり言い返されたのだとか。
さすがに日本語ならわかる人はいないだろうし、ペラペラいろいろとしゃべってても平気なのでは? と思いますよね。ですがこれまた、日本語を理解する人も意外にいるのでご注意ください。
こちらも地下鉄の車内で、日本人同士が日本語なら誰もわからないだろうと思って少し際どい話をしていました。すると、隣に立っていた外国人男性が「そういう内容は、ここで話さないほうがいいですよ」と日本語でひと言かけて、さっと降りていったそうです。
飲食OKだけど…
日本らしいマナーといえば、電車内での飲食も挙げられます。最近はコロナで少し事情が変わったかもしれませんが、日本では車内で飲食するかどうかは、その人のマナーにゆだねられています。そのため、新幹線などの長距離列車を除き、基本的にはあまり見かけない光景でしょう。
日本で暮らしていた頃、どうしても空腹に耐えられず、お菓子やチューブタイプの飲料などを飲んでいた記憶がありますが、もちろんゴミは持ち帰りました。車内やホーム、駅構内に飲食物のゴミが散乱していることは、あまりないように思います。
では、イギリスはどうでしょうか? イギリスのTFL(地下鉄やバスサービスを運行している交通機関)でも、法的には飲食可になっています(アルコール類を除く)。そのためバナナの皮が座席に放置されていたり、急にココナッツを割って食べ始める人に遭遇したりすることも。違法ですが、アルコールの瓶が床に転がっていることもあります。しかし、意外にも飲食によるゴミなどですさまじく汚いわけではありません。
とはいえ、日本に旅行したことのある外国人の友人全員が口をそろえて言うのが、「日本の交通機関はきれいすぎるし静かすぎる」ということ。当たり前に過ごしている電車やバスの中でのマナーには、やはり日本らしさがにじみ出ているのかもしれません。
マナーだけでない問題だらけの交通機関
これまで3回にわたって、公共交通機関の遅延やマナーなどトラブル面に注目してきました。しかし、ほかにも日本に軍配があがる点があります。
それは設備面。イギリスの電車やバスの車内には、エアコンが一切ついていないのです。ニュースでも見聞きしたことがあるかもしれませんが、酷暑だったここ数年の夏は本当に地獄でした。いくら窓を開けても熱風が入ってくるだけで、みんな汗だらけ。強いストレスに耐えながら乗っています。
そんな状況ですから、コロナ禍には今でも忘れられない光景を目撃しました。滝のように汗をかいた人が椅子に座った途端、びしょびしょのTシャツを脱いで、マスクで体を拭き始めたのです。しかもそれはひとりではありませんでした。そして、汗びっしょりな体をしっかり椅子に密着させています。
もともと衛生面にはあまり期待を抱いていませんでしたが、この光景を見てから、自分が座る椅子はどんな汗や汚れが染み込んでいるんだろうと常に考えるようになってしまったのは、言うまでもありません。
そして現在住んでいるフランスでも、ほぼ似たような光景が繰り広げられています。なかでも目につくのが窓の汚さ。「世界の車窓から」もびっくり、外が一切クリアに見えないほどのホコリがびっしり。きれいな(はずの)外の景色の色合いを想像しながら旅するのも、また醍醐味なのかもしれません。
Moyo(モヨ)
新卒採用で日本の出版社に入社するも、心身ともに疲弊し20代後半にノープランで退職。それまでの海外経験は数度の旅行程度だったが、英国へ語学留学ののち移住した。そのままあれよあれよと6年の月日が経ち、現在はフランス在住。ライター、エディター、翻訳家、コンサルタントとして活動している。最近、ようやくチーズのおいしさに少し目覚める。