「転勤なし」「勤務地は希望通り」は当たり前? 就活最前線 各企業がPR

就活生に「転勤なし」を伝える企業

 今春、広島市であった就職活動の大規模な企業合同説明会。各企業ブースに「転勤なし」「勤務地は希望制」といったPRのフレーズが目立つのに驚いた。転勤に後ろ向きな学生へのアピールらしい。「地殻変動」が起きている就活の最前線を追った。

 就職情報会社マイナビ(東京)が3月初めに県立広島産業会館(南区)で開いた説明会の会場には「転勤なし」「勤務地希望100%叶(かな)えます」といったポスターやパネルを掲げる企業が立ち並んだ。

 「広島からの転勤なし!」の旗を立てたのは、アストラムラインを運営する広島高速交通(安佐南区)だ。採用担当の田川浩司さん(54)が「市内の公共交通なので転勤がないのは当然。でも、アピールにつながるので今年作ったんです」と教えてくれた。

 他の企業も「転勤に関する学生の質問が多い」としてPRに余念がない。機械メーカーの濱田製作所(呉市)は「転勤なし」を掲げつつ、「出張で全国各地に行ける」と説明するという。

 インディードジャパン(東京)によると、同社の求人検索サイトの掲載求人のうち「転勤なし」を掲げた件数は2018年から23年の5年間で約3倍に膨らんだ。「選ばれるため」に転勤なしをうたう企業が22年以降、特に増えているという。

 マイナビが今春卒の学生4万1197人を対象にした意識調査では、29・6%が「転勤の多い会社に行きたくない」と答えた。10年前の14年卒と比べると10・9ポイント増だ。

 学生からは「転勤」や「自分が望まない地域で働く」ことへの不安が聞かれる。

 廿日市市の大学3年男性(21)は「全く知らない土地で働くのが嫌」、中区の短大1年女性(19)は「引っ越しの作業や費用が大変そう」と消極的だ。このほか「転勤がない方がライフプランが立てやすい」「今から資産形成していくため実家暮らしで家賃を抑えたい」との意見もあった。

 22年の人事院の調査によると、4割を超す企業に転勤制度がある。学生にとっても企業にとっても「転勤」への向き合い方が、今の就活での重要ポイントになっているようだ。

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