【コラム・天風録】「かもしれない」の精神

 〈たくさんの「かもしれない」を想像することで、自分にぴったりの言葉や考え方を探していけたらなあ〉。絵本作家のヨシタケシンスケさんが作品に込めているメッセージが「こどもの本総選挙」のサイトに載っていた▲全国の小学生が今まで読んだ中で一番好きな本を投票する隔年の企画。ことしヨシタケさんの「りんごかもしれない」が初の1位に輝いた。11年前のデビュー作で喜びはひとしおのよう▲目の前にあるリンゴは、本当は大きなサクランボや何かの卵なのでは…。男の子が次々と発想を膨らませていく。読み進めながら思い出したのは駆け出し記者の頃。先輩に「常識を疑え」と教えられた。大人版「かもしれない」精神である▲きょうは国際こどもの本の日。ひろしまゲートパークで開催中の「ひろしまブックフェス」をのぞくと古書店や個性的な本屋、出版社の推す本を並べたワゴンがずらり。絵本を熱心に品定めする親子連れの姿もあった▲〈自分の「好き」は、あんがい「きらい」のなかにも潜んでいるんです〉。ヨシタケさん流の本選びのこつという。好き嫌いの垣根を取っ払ってみると、人生のよすがとなる一冊に出合えるかもしれない。

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