動画コンテンツの今と、プラットフォームマーケティング 〜日経デジタルフォーラム レポート(その2) / Screens

2024年2月6日、日経デジタルフォーラム「映像プラットフォームにおけるマーケティングの過去・現在・未来」が大手町・日経ホールにて開催。マーケティングや映像制作の一線で活躍するキーマンが登壇し、それぞれの事例を踏まえながら、デジタルマーケティングにおける顧客コミュニケーションのヒントを提起した。今回は5回にわたり、この模様をお送りする。

本記事では、トークセッション「動画コンテンツの今と、プラットフォームマーケティング」の模様をレポート。本セッションには株式会社フジテレビビジョン 編成制作局 編成部統括担当・佐竹正任氏、LINEヤフー株式会社 マーケティングソリューションカンパニー ビジネスPF統括本部 ビジネスソリューション開発本部 本部長・宮本裕樹氏が登壇した。

国内外配信サービスが増える中、コンテンツはどのように変化を遂げてきたのか。在京キー局編成責任者の立場から見た「テレビ番組を中心とした動画コンテンツの過去・現在」、そしてデジタルプラットフォーマーとしてのLINEヤフーからみた「動画コンテンツを活かしたマーケティングの手法」を軸に、配信サービスを活用したプラットフォームマーケティングはどうなっていくのかを議論する。

■“もっとも配信で視聴される局”となったフジテレビが見据える「地上波との補完関係」

まず佐竹氏が「地上波テレビのDXによるアップデート」をテーマに、フジテレビでの動画配信展開を紹介する。

同局は2023年、AVODにおける再生数、UB、視聴時間すべてにおいて2年連続民放1位となり、「もっとも配信で視聴されているテレビ局」となった。2021年、中居正広さんと香取慎吾さんの共演で話題となった『まつも to なかい』(現『だれか to なかい』)2022年ドラマ『ミステリと言う勿れ』『silent』のヒットでTVerにおける見逃し配信の再生数が大きく上昇。『silent』は現在(※2024年2月現在)にいたるまで、TVer史上の動画再生数トップをキープし続けている。

こうした状況もあって同局では連続ドラマを1週間に4枠に増強。在阪局であるカンテレ制作の2枠、在名局である東海テレビ制作の1枠を合わせ、フジテレビ系としてゴールデン・プライム・23時台に「1週間7枠」の大展開に打って出た。さらに2017年放送の『コード・ブルー』など過去の話題作をTVer中心にリバイバル配信するなど、積極的な展開で話題を集めている。

これらヒットの裏で同局が展開した画期的な取り組みが、TVerにおけるドラマ1〜3話の無料配信だ。「SNSでの話題を受けてTVerでの配信を『振り返り視聴』していただき、地上波での視聴へ“回帰”していただくことが目的だった」と佐竹氏。「開始当初は『地上波視聴の毀損につながるのではないか』と社内でも議論になったが、一つ一つ乗り越え、いまとなっては地上波と配信がお互いを補完し合う関係になれた」と語る。

「バラエティはリアルタイム視聴が多いが、ドラマはタイムシフト、見逃し配信ともにまんべんなく高く、見逃し配信の視聴は最初から最後まで完全視聴してもらえる割合が高い。例えば若い女性の視聴実態では地上波放送のリアルタイム平均視聴者数を見逃し配信のユーザーがが超えるケースも出てきた」(佐竹氏)

テレビ番組の情報を見つける手段としても、SNSは新聞のラテ欄をしのぐ勢いという。「若い方々はSNSでお気に入りの番組を見つける傾向にある」と佐竹氏はいい、「ティーン女性の64.8%がSNSで知るというデータがある」と語る。

こうした傾向を受け、フジテレビでは2023年7月、広報局に「SNS広報部」を新設。番組公式アカウントの運用をはじめ、各SNSごとのユーザー特性に応じたプロモーションを展開。ドラマにおいては、出演キャストによる放送直前ライブ配信を複数の番組公式SNSアカウント上で実施するなど、ファン層の拡大に努めている。

■多様化する視聴ニーズと接点を360度カバー。LINEヤフーのプラットフォーム戦略

フジテレビは、コミュニケーションアプリ「LINE」、国内最大級の検索ポータル「Yahoo! JAPAN」を擁するLINEヤフーとの連携にも積極的に取り組んでいる。2023年10月クール放送のドラマ『パリピ孔明』では、同社の動画プラットフォーム「LINE VOOM」にてオリジナルの縦型PR動画を展開した。

また「Yahoo! JAPAN」上では、検索結果に応じたアニメーション表示などを行う「エモーショナル検索機能」を活用した施策を展開。2023年公開の映画『翔んで埼玉 〜琵琶湖より愛をこめて〜』と連動し、『翔んで埼玉』と検索すると同作でW主演を務めるGACKTと二階堂ふみのインタビュー動画がトップに表示されるほか、検索画面に映画キャラクターのアイコンが降り注ぐアニメーションが表示される仕組みで話題を呼んだ。

「いまや地上波、配信、タイムシフトの三位一体でどう視聴者に見ていただけるかを求められる時代」と佐竹氏。「その中でもSNSマーケティングが重要なカギを握っており、フジテレビもそこに力を入れている」と語る。

「LINE」は月間9,600万人(※1)が利用し、全体の92.5%が10〜60代(※2)。「Yahoo! JAPAN」は月間8,500万人(※3) が利用し、スマートフォン利用者のうち約85%が利用しているという。「これまで飲食店などの法人向けを強化していたが、これからはエンタメ業界を中心にコンテンツ領域に向けてもLINEヤフーのアセットを活用した施策を強化していく」と宮本氏が述べる。

(※1)月間アクティブユーザー数(日本) 9,600万人 ※2023年12月末時点

(※2)総務省情報通信政策研究所「令和4年度 情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」2023年5月公表

(※3)「ニールセンデジタルコンテンツ視聴率」(2022年1月~12月の月平均)Yahoo! JAPAN(ブランドレベル)で集計、2歳以上の男女。スマートフォンとパソコンのユーザーの重複を含まない

「『時間があれば見る』というライト層からコアなファン層をLINEヤフーのメディアでカバーしながら、番組のLINE公式アカウントによる告知や『LINE VOOM』での公式切り抜き動画、放送前ライブ配信などに力を入れていく。LINE公式アカウントの強みであるパーソナライズを活かしてユーザーの嗜好にあわせ、番組のロイヤリティをあげていくところを一連のストーリーで番組やタレントの活動を盛り上げていきたい」(宮本氏)

続いて宮本氏は「ワールドカップバレー2023」におけるフジテレビとの連携施策を紹介。大会期間中、同局のバレーボール中継レーベル「フジテレビ☆バレーボール」のLINE公式アカウントにて「LINE VOOM」による試合動画の配信を行ったほか、「LINE NEWS」に特別枠を設けて試合関連ニュースを速報した。

「これらのLINEとの連携施策 では、わずか1時間の露出で数百万回の再生を記録した」と佐竹氏。LINEヤフーが展開するスポーツ総合サイト「スポーツナビ」でも動画配信を実施し、1億回の再生を叩き出したという。

「『LINE VOOM』の配信からTVerのリアルタイム配信に誘導する仕組みを設けたところ、番組公式サイトや他SNSよりも多くの流入を記録した試合があった」と佐竹氏。「短時間、最短距離で試合をチェックしたいというニーズに合致したのではないか」という宮本氏のコメントに「まさに胸を借りる形で、我々がやりきれない部分を達成してくれた」と感慨を込めた。

■“結節点”として役割増すTVer、LINEヤフーとの連携でローカル局にもスポットが?

セッションの最後は「テレビ業界の課題と未来」をテーマに掲げ、佐竹氏と宮本氏がテレビ局、プラットフォーマーそれぞれの立場から展望を語る。

「テレビの見られ方が変革を迎えているいま、力を込めた我々のコンテンツを地上波、配信やSNSなどあらゆる手段を通じてご覧いただきたい」と佐竹氏。「そのためのツールとしてTVerは民放全体から見ても大事な存在」と強調する。

「TVerがドラマやバラエティの視聴手段として定着しつつある一方、リアルタイム配信や報道・情報・スポーツ配信などへの認知がもう一つと感じている。コネクテッドTVが普及し、放送よりもネット経由での視聴時間が今後増えていくことが予想されるいま、テレビ局の立ち位置を確かにするためにも『毎日TVerを見たくなるようなコンテンツ、仕掛け』を投入していきたい」(佐竹氏)

これに対して宮本氏は「テレビとデジタルが対立するというイメージを持たれがちだが、そんなことはないと思う」とコメント。「コンテンツとしてのテレビにはデジタル上でのマネタイズポイントが多くある」とし、「双方の強みを一緒に盛り上げていくことでユーザーの方にも今までよりもっとテレビコンテンツを受け入れてもらえるのではないか」と期待を述べる。

「また、LINEヤフーでは地方創生の取り組みも行っており、ネットワーク局のみなさまが運営されているローカルコンテンツをもっとTVerで楽しんでいただくような原点回帰的な取り組みもご一緒できるのではないか」(宮本氏)

「『テレビに出せばみんなが見る』という時代は終わり、これまで以上に『見ていただくための努力』が欠かせない」と佐竹氏。「最後はコンテンツ勝負なので、それはいままで通りに取り組んでいく」としつつ、「テレビコンテンツに触れてファンになっていただくための施策を積極的に展開していきたい」と抱負を述べ、宮本氏も「LINEヤフーとしてもエンタメ領域への戦略強化の一環として、TVerとのパートナーシップをより深めていきたい」と呼応した。

TBS福澤克雄監督が語る「想像を超えるドラマの作り方」〜日経デジタルフォーラム レポート(その1)

© 株式会社TVer