100歳で1人暮らし!娘のために楽しみながら料理を作るスーパー母さん【第一人者が教える 認知症のすべて】

料理は活動量を高める上でも非常にいい(C)iStock

この連載の担当者が、二十数年通っている飲み屋さんへ行った時のこと。コロナ期間中にすっかり早寝になり、夜飲み歩くことが激減したため、その店へ行ったのは本当に久しぶりだったそうです。

突き出しの煮物を食べながら、ふと「(飲み屋店主の)ママのお母さん、どうしているのかなぁ」と思ったという担当者。その飲み屋さんは突き出しのファンも多く、そして突き出しは、ママのお母さんの手製。東北地方で1人暮らしをしているお母さんは、娘(ママ)のためにせっせと料理を作り、クール宅配便で送っているのです。

ここからは担当者とママさんの会話の再現です。

「突き出しの味、全然変わらないね。今はママが作っているの?」

「違うよ。ウチのお母ちゃんが作って送ってくれてるんだよ」

「えっ、ママのお母さんっていくつ?」

「もう100歳だよ! 今も1週間に1回、料理作って送ってくれてるの。元気だよー。私より記憶力がしっかりしているくらいだよ」

「100歳で1人暮らし?」

「そう。突き出し作って送るの、お母ちゃんも楽しんでるみたい」

ママのお母さんはすでに自動車の免許証は返納しているそうですが、91歳までは自分で車を運転して山へ行き、山菜採りをしていたとか。免許証返納後は、歩けるところへは自分で歩いて、必要に応じてバスを乗り継ぎ、買い物をしたり、食事に出かけたり。

そんなお母さんの好きな食べ物は、とんかつとカツカレーで、食欲の旺盛さはまったく衰えないとのこと。ただ、普段の食事は野菜中心で、肉も魚もバランスよく食べている。

「しょっぱい料理で知られる地方の人とは思えないほど、突き出しはちょうど良い味付け。塩分量もそれほど取っていないのかな」とは、担当者。

ママのお母さんは、病院とはほぼ無縁の病気知らずだそうです。

■機能が低下したのは脳の一部分 ほかの動きを高めれば脳機能維持

脳寿命を延ばす方法の一つとして講演などで私がよく話すのが、脳の代償機能の働きを高めることです。

年を取れば、誰だって脳の機能が低下する部分が出てきます。しかし、それは脳の一部であって、ほかの正常な部分の働きを高めれば、脳の神経も機能を維持できます。

「お母さん」も、「娘のために料理をする」という気持ちが、脳を含む体全体をいい方向に持っていっているのでしょう。料理を作るには、食材の買い物に行かなければならない。食材を冷蔵庫やストック棚から取り出し、切ったり、すりおろしたりし、料理後は使った調理器具や皿を洗って片付けなければならない。

以前、料理は同時進行でいろんなことを行うので、脳を活性化させるのにいいとこの欄で紹介しましたが、活動量を高める上でも非常にいい。

それに加えて、「お母さん」の場合は、東京へ作った料理を送る、というミッションもある。

飲み屋さんでのママとのやりとりから、担当者がもう一つ思い出したエピソード。

それは、90代半ばにして現役カメラマンとして活躍していたある男性のことでした。某観光地の取材で知り合い、一緒にお酒を酌み交わしたこともあるとのこと。

そのカメラマン、現役というだけあって、頭脳明晰。昔のことも最近のことも、聞けば、投げたボールをパーンと打ち返すかのように、詳しく話してくれる。旅行好きで、「同年代の友達はみんな死んじゃった。一緒に旅行する相手は20歳以上、下のヤツらがほとんど」と、そのカメラマンが気に入ってリピートしているという熱海の宿を教えてくれたそうです。

特に印象に残っているのは料理の話で、食べること好き、おいしかったものを自分で再現するのが好きという彼は、自宅に冷蔵庫を2台所有。旅先で買って帰った食材を自宅で調理し、奥さんに振る舞うのが趣味。

担当者の中には「料理好きは、やっぱり若々しい。脳も体も」という考えがあるそうで……。それも一理あるかもしれませんね。

ただし、「お酒の飲みすぎは脳の機能を低下させる」ということも、しっかり担当者の念頭にあるとのこと。

みなさんも、それは忘れずに。

© 株式会社日刊現代