津田健次郎、屈折していくキャラクターと自らを重ね“怒り”も表現者としての原動力に

津田健次郎 撮影:有坂政晴

キャリアを重ねるにつれ、職業づけするのが無意味に思えてくる津田健次郎。声優に俳優、ナレーター、さらに2019年には映画監督としてもデビューした。そもそもはアニメ『呪術廻戦』(毎日放送・TBS系列)の七海建人、『ゴールデンカムイ』(TOKYO MX・BS11ほか)の尾形百之助、『極主夫道』(Netflix)の龍と、声優としてその存在を知られ、いまや連続テレビ小説『エール』(NHK)、連続ドラマ『最愛』(TBS系)を皮切りに、特に’20年以降、俳優としても引っ張りだこ。そんな津田さんのTHE CHANGEとはーー。【第5回/全5回】

屈折していく気持ちを理解できる

現在、“イケオジ”と“イケボ”の両方で高い支持を得ている津田さん。人気児童書シリーズを原作にした劇場版長編第2弾『映画おしりたんてい さらば愛しき相棒(おしり)よ』では、画家のキンモク先生の声を演じている。本作でおしりたんてい(三瓶由布子)は、かつての相棒のスイセン(仲里依紗)から、彼女の師であり、秘密結社に捕らわれ贋作(がんさく)を描き続けているキンモク先生の救出を頼まれる。

美術館の絵画が贋作にすり替えられていく事件を下敷きに、「偽物と本物」について、さらに才能を認められようともがく芸術家の苦悩も浮き彫りになる。

――津田さんが声を演じた、自身の才能を認められたいともがいてきたキンモク先生は、より大人に響くキャラクターでした。

「分かりますよ、キンモク先生の気持ちは。いろいろなものを見て、読んで、稽古もめちゃくちゃ頑張って、でも肝心の芝居を見てもらう機会がない。それで屈折していく気持ちは、若いころの僕自身がしこたま抱えていたものです。“そうですよね”とすごく思いました。
会社で働いている方でも、認めてもらえない、不条理にさらされているといったこともたくさんあると思うので、とても共感できるキャラクターだと思います。
さらにキンモク先生のようなアーティストは、基本的に繊細な方だと思うんです。そうした方は、優しさと怒り、だいたいその両方を持っている。そして人一倍強く感じて、強く出る。人よりも多く優しさを出せるし、歯車が狂うと、人より多くの怒りを抱えてしまう。表裏一体なんですよね」

自身の中に生まれる“怒り”が原動力になる

――表裏一体。

「優しさと怒り、ポジティブとネガティブは表裏一体です。キンモク先生は、人よりもその振り幅が大きなキャラクターなのかなと感じました。だから、裏返ってしまったときに、ダークな面が強く出てしまったのだろうなと」

――キンモク先生に共感したとのことですが、津田さん自身にもダークな面はありますか?

「めちゃくちゃありますよ。基本的に“怒り”はすごく持っています。ただそれをまき散らすのは本当に嫌いです。自分の中で感じる怒りも、世の中に対する怒りも、両方ともたくさん湧き上がってくるものです。若いころは特に。でもそれが僕ら表現していく人間にとっては、原動力や燃料になります。だからなるべく思考停止しないように、怒りはしっかりと感じたほうがいいと思っています」

――怒りを止めるのではなく、しっかりと感じる。

「はい。大事なのは出口。まき散らすのではなく。だって表現をやっているわけですから。その辺で人を捕まえて怒ったり、仲の良い人に愚痴ったりとか、そういうことなら表現しなくていい。表現のなかで出していくのが、表現者ではないでしょうか」

表裏一体、怒りもしっかり感じて燃料に。津田さんは、これからもさまざまな炎を燃やして、ジャンルを問わず、魅力的なキャラクターを生み出していってくれるだろう。

津田健次郎(つだ・けんじろう)
1971年6月11日生まれ、大阪府出身。’95年に声優デビュー。近年は俳優業でも活躍。声優業の近年の代表作として、『遊☆戯☆王 デュエルモンスターズ』(テレビ東京系)や『薄桜鬼』(テレビ東京系ほか)『ゴールデンカムイ』(TOKYO MX・BS11ほか)『呪術廻戦』(毎日放送・TBS系列)『チェンソーマン』(テレビ東京系)など。俳優業として、’20年のNHK連続テレビ小説 『エール』(兼ナレーション)、ドラマ『最愛』『ラストマンー全盲の捜査官ー』(ともにTBS系)『大奥 Season2』(NHK)、映画『映画 イチケイのカラス』(2023年)『わたしの幸せな結婚』(2023年)に多数出演。『映画 マイホームヒーロー』が現在公開中。

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