「YEBISU BREWERY TOKYO」それはヱビスの歴史を紡ぎ、未来をつくるブルワリー

2024年4月3日。ヱビスビール誕生の地であり、1890年からの約100年間ビール醸造を行っていた恵比寿の町に、35年ぶりにヱビスブランドのビールを造るブルワリーが戻ってきました。

その名は「YEBISU BREWERY TOKYO」。

サッポロビールは、なぜ恵比寿にブルワリーを復活させることにしたのでしょうか。そして、新ブルワリーを通じて何をみせてくれるのでしょうか。ヱビスブランドマネージャーの沖井尊子さん、「YEBISU BREWERY TOKYO」チーフエクスペリエンスブリュワーの有友亮太さんにお話を聞きました。

移転後、何度もあった復活構想

「実は、1988年に製造量を増産するために千葉工場に移転した後も『恵比寿の地でビール造りを復活させよう』という構想は何度もありました」

1889年に恵比寿の町(当時は目黒村)にヱビスビール醸造所が誕生し、1901年に恵比寿停車場が開設。さらに1928年には恵比寿が地名になるなど町の発展に関係してきた「ヱビスビール」。サッポロビールでは、ブランドが誕生した土地でビールを造ることを大事にしたい思いを持ち続けていたと沖井さん。

ブランドマネージャーの沖井さん。

そして、プロジェクトは約4年前から実現に本格的に向けて動き出しはじめます。

玄関先からみた様子。かつて中央には恵比寿様が描かれた絨毯があった。取材時はまだ完成していなかったが、ここにはモザイクアートの恵比寿様が描かれる。どんなものかは現地で確認してほしい。

恵比寿の地でビールを造る意義を何度も考えた

実現に向けて動き出したと言っても、ただブルワリーをつくる訳にはいきません。

「この場所でビールを造ることの意義については相当議論がありました。どうすればお客様に『ヱビスブランド』の魅力を伝えられるか。時間をかけて議論しました」

「ヱビスビール」はプレミアムビールカテゴリであるため敷居を高く感じる人もいます。その状態では地域との関係が大きくは深まりません。「こういったリアル体験拠点で、ヱビスらしい上質な世界観でありながらも、構えることなく楽しんでいただけて、ビールやヱビスにもっと関心を持っていただける場所にするにはどうするか、議論を重ねました」と沖井さんは振り返ります。

一方でビールを担当する有友さんも悩んだと言います。

「『YEBISU BREWERY TOKYO』で提供するのはどんなビールが相応しいのだろうと悩みました。それと新しいブルワリーなので、一緒に働く仲間たちに、ここで造るビールのコンセプトやビジョンを理解してもらい共通認識をもつことは大変でした」

チーフエクスペリエンスブリュワーの有友さん。

ただ新しいビールを造り飲んで楽しんでもらうのではなく、ヱビスブランドを恵比寿の地域で提供する意義を伝えることが重要だと2人は話します。

そこで生まれたのが目玉となる3つの空間です。

ヱビスブランドの歴史と未来を体験できる空間

「YEBISU BREWERY TOKYO」最大の魅力はヱビスブランドの過去・現在・未来を1つの物語として体験できることです。

ミュージアム<ルーツ>

昔のブルワリーや町の様子を記録した写真を見ながらブランドのルーツを知ることができます。ツアーの待合スペースとなる場所には様々な大きさの写真が数多く展示されていていることで時代をさかのぼっているような感覚を体験できます。

ツアー待合室にある写真。世代が異なる人と訪れると色々な話ができそうだ。

ミュージアムの部分は、これまでのヱビスビール記念館にもあった展示物に加えて、町と共にあるヱビスの姿も見ることができます。100年以上にわたりビールの魅力を高める提案を続けてきた、ヱビスの物語を知ることができる空間に進化しています。

色々な展示物を見ていると、改めて歴史のあるブランドだということがわかる。

ブルワリー<現在>

ここでは、目の前で造られているビールを五感で楽しむことができます。醸造設備の隣には、「マスターブリュワーズルーム」を設置。有友さんと直接コミュニケーションを取ることができます(業務の都合上、不在のときもあります)。

「マスターブリュワーズルーム」。ビールはタップルームで購入してから席に座るシステム。

「これまで商品を購入して飲むだけでした。ここでは直に会話することで新しいビールのアイデアに活かせればと思います。お互いに刺激し合える環境にしたいですね」と有友さん。

ブルワリー設備。年間130KLの生産を目指している。

タップルーム<未来>

未来となるタップルームでは、新しい作品からビールの可能性を感じられるのが魅力です。

「YEBISU BREWERY TOKYO」では通年提供の「ヱビス∞(インフィニティ)」「ヱビス∞ブラック」の他、期間限定や数量限定といったオリジナリティのあるビールを常時4液種程度提供します。

フラッグシップとなる「ヱビス∞」では、有友さんがこの場所だからできる表現を考えて造り出したビールです。「オーセンティックな味ながらもヱビスだからこそできることを盛り込んだビールを考えていました。そこで辿り着いたのが、35年以上前、恵比寿でヱビスビールを醸造していた当時に使用していたヱビス酵母です。当社が保有している1000株以上の酵母の中から選抜したものを使用しています。現在の『ヱビスビール』と比べると素朴で柔らかいのが印象です」と開発秘話を教えてくれました。

「ヱビス∞」。酵母由来なのか少し酸を感じる風味。この辺りが素朴っぽさなのだろう。苦味はしっかりとしていて「ヱビスビール」の骨格を感じられる。ホップアロマは爽快で柑橘っぽさもあり、まさに過去と今をつなぐようなビール。

飲み比べセットには『ヱビスビール』と『ヱビス∞』があるので違いを感じてほしいと思います。今の「ヱビスビール」がいかに洗練された味というのが分かります。昔のヱビス酵母については、限定ビールでの使用は「コンセプトによって決めていきます」ということでした。

タップルームでは、おつまみやフィンガーフードを中心としたフードを提供。ペアリングを意識したメニューも予定しています。しっかりした食事メニューを提供しないのは、「お食事はぜひ恵比寿の町の飲食店様に足を運んでいただきたい」と沖井さんは理由を話します。恵比寿には様々なジャンルの飲食店があり、ブルワリーを起点に恵比寿の町を楽しんでほしいと言います。

恵比寿では「恵比寿の料理人が考えるヱビスビールに合う逸品グランプリ」を開催しており、2024年も4月23日(火)から6月2日(日)で開催が決定しています。各店舗が考える「ヱビスビール」に合う料理をラリー形式で楽しめるイベントです。昨年は90店舗以上が参加していて、ブルワリーが開業する今年は更なる盛り上がりが期待されています。ブルワリーの感想を話す場としての飲食店を利用してみるのもいいでしょう。

タップルームスペース。様々なタイプのテーブルがあるので気分や訪れるメンバーによって選べる楽しさがある。状況によっては作業場としても活用できるかもれない。

ヱビスブランドの新しい歴史をつくる場となる「YEBISU BREWERY TOKYO」。

沖井さんは、「多様なお酒や飲料がある中で、『YEBISU BREWERY TOKYO』を通じて、もっとビールの魅力に気づいてもらいたいです。そして、『ヱビスブランド』が次の100年に向かっていくための場所として、皆様の声を聞きながら色々と挑戦していきたいと思っています」と言い、有友さんも「新しい醸造設備の特徴をつかみながら造っていきます。現在進行形の過程も見てもらいたいです。そして、ビールのおいしさ、楽しさに気づいてもらいながら歴史も感じてもらえると嬉しいです。その結果として、恵比寿の町が盛り上がっていったら良いなと思っています」と思いを語ります。

5月からは「YEBISU the JOURNEY」の名前での新しい館内ツアーもはじまります。「過去・現在・未来を旅する感覚で体験できるツアー」ということで、特に醸造日には目の前でビールを造っている現場を見学することができる体験型ツアーにもなっています。申込は4月24日(水)からヱビスのブランドサイトから申し込み開始予定です。

ヱビスブランドが発祥の地である恵比寿ではじめる未来への取り組み。130年を超える長い歴史をもつブランドがこれからどのような景色をみせてくれるのでしょうか。この春、注目のビールスポットです。足を運び、彼らの思いを体感してください。

沖井さんと有友さん。ヱビスブランドがこの先どんな未来をみせてくれるか。期待しています。

Special Thanks HOP SAIJO

YEBISU BREWERY TOKYO 概要

住所:東京都渋谷区恵比寿4-20-1 恵比寿ガーデンプレイス内

営業時間:平日12時~20時 土日祝11時~19時

定休日:火曜日(祝日の場合は翌日)・年末年始

※開業日4月3日(水)のみ、10時半オープン

入場料:無料

※入場時の予約は不要。混雑状況により入場制限がかかる可能性あり

席数:タップルームはスタンディング含めて110席

ビール:1杯1,100円(税込)〜 最大程度提供予定(開業時は4種)

フード:1品400~800円程度 おつまみやフィンガーフード中心

決済方法:各種クレジットカード、電子マネー、コード決済(スマホ決済)

※現金支払い不可

YEBISU the JOURNEY ツアー情報

料金:1,800円(税込)

予約受付開始日:4月24日(水)予定

YEBISU BREWERY TOKYOウェブサイト

© 一般社団法人日本ビアジャーナリスト協会