中高・大学を卒業後、新卒採用で一斉に就職する流れが一般化している日本。近年ではデジタル化も進み、ますます生活に「スピード」が求められるようになっています。家庭と仕事のバランスを取り、豊かな生活を送るには、一体どうすればいいのでしょうか? ライフキャリアコンサルタントの江野本由香氏が解説します。
急がず、焦らず、立ち止まってみる
日本で生活をしていると、一定の年齢になれば小学校へ入学。その後は1年ごとに学年が上がり、小学校卒業、中学入学・卒業といったように、時間の経過とともに否応なしに歩み続けることになります。
イギリスではじまったといわれる「ギャップイヤー」のようなモラトリアムを経験する人は少なく、卒業後すぐに社会人としての一歩を踏み出し、仕事人としての人生がはじまります。
新卒一括採用が主流の日本において、入社後は年次に合わせたスキルの習得はもちろん、常に成長を要求され実績も残していかなければなりません。人と比べてしまったり、周囲から遅れないように思ったりするのは、当然のことでしょう。
適度な競争は成長の原動力にもなりますが、仕事の動機が会社の要望に応えていくことや、周囲に合わせるだけになってしまえば、自分軸での判断や価値軸に沿った生き方はできなくなります。
毎日がただ忙しく、あっという間に過ぎていく。それはあなたが目指したい幸せな生き方なのでしょうか。
※ ギャップイヤー……高校卒業から大学入学までの猶予期間。主に欧米の大学で活用されている。日本においては大学入学、在学中、卒業後に自分が興味をもった社会活動などに取り組む猶予期間と位置づけられる。
「食べる」ために最短手段を使う現代人
いまの世の中はデジタル技術など急速に進化したさまざまな技術によって、驚くほどの速さで動いており、「早いこと」「簡便であること」を価値として考える傾向にあります。
たとえば、私たち人間にとって大切な「食べる」行為。
大地の恵みから栄養を得てきた私たちですが、栄養をサプリメントでとったり、料理においても、真空パックに1食分冷凍された食材が入っていて、炒めればすぐに食べられるものだったり、コンビニ弁当や宅配サービスを利用して中食だったりと、「食べる」といった結果に向けて最短で行く方法を求める人が増えています。
食べることや料理をすることに価値を感じない場合はよいのですが、もしも「本当は家族と一緒においしい食事をゆっくり楽しみたい」「子どもには手づくりの料理を食べさせたい」といった想いがあるのに、仕事が忙しいから仕方ないなどとしていたら、それは価値軸に沿った生き方といえないのではないでしょうか。
スピードを求めると本末転倒…人生は「ゆっくり」楽しむ
私は「食べることは生きること」と考えているので、大変でも手づくりで心をこめてつくることをとても大事に考えています。仕事と子育てで時間がないなか、毎日の食事づくりはラクではないので、もちろん文句を言いながらつくったこともあります。
周囲の人からは「無理しなくていいじゃない。食事にそこまで手をかけることはないわよ」と言われ、私のことを思って言ってくれているのはわかっていても、「大変だけど、やりたいのよ」と心のなかで思っていました。
大変とは思いながらも、自分が価値を感じていることに対して必ずやりぬくことが達成感であり、幸せでもあるのです。速さに振りまわされ、大切なことを手放すなど、本末転倒ではないでしょうか。
「このままでいいのかな」と感じたら…
仕事上でも、いままで以上に効率や速さを求められるようになり、時にそのスピードは考える力や心の元気を奪ってしまうほどの威力をもっています。
「なんとなく違う」「このままでいいのかな」「いつまでこんな生活が続くのか」「なんで私ばっかり」などと脳裏をよぎったり、パートナーとの会話がギスギスしたり、子どもを叱ったあと後悔したり……。
そのようなときは一度立ち止まることが大事です。ずっと走り続けていたり、誰かと一緒に走っていて走るスピードが自分のペースと違っていたりして、自分が息切れして苦しいことに気づかずにいたら、ある日突然パタッと倒れてしまうでしょう。
人生も同じです。あなたにはあなたのペースがあり、家族が幸せに心地よく人生を歩んでいくために、その時々のペースがあります。とくに子育て中は子どもの成長に応じて、そのペースは変化します。
人生は長いのです。急ぐ必要はありません。
自分と家族のペース、仕事で求められるスピードが違うと感じたら、大切な家族との幸せを失う前に、まずは立ち止まりましょう。そして、自分と向きあい、幸せな未来を考えてみましょう。
江野本 由香
ライフキャリアコンサルタント
※本記事は『キャリアと子育てを両立する!自分と家族の価値軸で築く幸せな生き方』(ごきげんビジネス出版)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。