日本の皇族、インスタグラムにデビュー 世界のロイヤルファミリーの流れに加わる

フランシス・マオ、BBCニュース

1926年に裕仁(ひろひと)天皇が即位したとき、多くの日本国民から「現人神(あらひとがみ)」とあがめられた。

それから100年近くがたった今、世界最古の世襲王朝といわれる日本の皇室は、まったく異なる姿をみせている。

裕仁天皇の孫の徳仁(なるひと)天皇は5年前、年齢と健康を理由に退位した父・明仁(あきひと)天皇(現上皇)のあとを継いだ。徳仁天皇はこの時、皇室を現代的なものにしていくと誓った。

そして今、皇室は21世紀への非常に明確な一歩を踏み出した。4月1日から、皇族がインスタグラムに登場するようになったのだ。

イギリスの王室がソーシャルメディア・デビューを果たしてから約15年になる。

「デジタル時代にまったく関与していなかった著名なロイヤルファミリーは、おそらく(日本の皇族が)最後だ」と、ソーシャルメディア・アナリストのアンドリュー・ヒューズ氏は指摘する。

しかし、この動きは必然的なものだった。皇室は若い世代と関わりを持ち、それを保ちたいという意向を明らかにしていた。その若者がますます、携帯電話を通じてしかコンテンツを得なくなりつつあることを考えれば、皇室もオンラインに移行せざるを得ないだろう。

ただ、皇室の日常生活をよりリアルに垣間見られると思っている人は、1日に開設した宮内庁公式アカウントにがっかりするかもしれない。

盆栽とたくさんのお辞儀

宮内庁のインスタグラム・アカウントができたと聞いて急いで見に行ったという人は、「まあそうだよね、陛下が『今日のランチ(ハートの絵文字)』とかアップするわけないよね」と投稿した。

宮内庁公式アカウントにこれまでに投稿された写真70枚と動画5本では、 天皇皇后両陛下や、広く国民に慕われている両陛下の一人娘、愛子内親王(22)が大きく取り上げられている。

しかし、個人的なメモや考察はもちろん、皇族のより自然な画像すら、このアカウントでは公開されないことが分かる。

これまでに投稿された画像などは、かなりフォーマルな雰囲気だ。公の場での様子や、博物館訪問、地震の被災地訪問、他国の王族との応接間での会談など、ここ数カ月間の公務をまとめたものとなっている。盆栽の画像があり、お辞儀の場面も多い。天皇陛下の誕生日を祝う画像では、天皇皇后両陛下が背の低い椅子に腰かけ、カメラに向かってほほ笑んでいる。

インスタグラムのインフルエンサーたちは、自分のアカウントの全体的な見た目を整えるのにかなり努力している。新規のフォロワーになってくれるかもしれない人たちを一目で魅了しようと、まとまりがあって魅力的で、明確な美学を持つブランドを築こうとしている。

皇室にもそのような意図があるようだ。ベージュとグレーを織り交ぜたつくりになっている。

「(宮内庁公式)アカウントの投稿は極めておもしろみがない。共有している一部の画像はプレスリリースで公開されたのと同じようなものだ」と、神田外語大学で講師を務めるジェフリー・ホール氏は指摘する。

キャプションは日本語のみで、今のところは、画像に写っている出来事を事実に基づいて振り返った内容にとどまっている。ファーストネームでカジュアルに投稿を締めくくっていたり、天皇陛下が個人的な思いを記していたりといったことは期待しない方がいい。

インスタグラムには、ユーザーが通常、生活の中の一瞬を散発的に投稿するのに使用するストーリーズ機能がある。宮内庁公式アカウントもこの機能を使っているが、これまでのところは公務や儀式を紹介する内容だけだ。

「宮内庁の保守的な職員は、インスタグラムのフォロワーにインタラクティブで楽しめる体験を提供するつもりはないと思う」と、ホール氏は言う。

厳しい管理

そして重要なことに、宮内庁はコメント欄をオフにしている。これは企業にみられる傾向だと、ソーシャルメディア・アナリストたちは指摘する。

「そうすることで、ブランドにダメージが及ぶのを阻止する。自らの大義を広めたり、コメントを乗っ取ったり(中略)基本的にコンテンツ内容を弱めてブランドに害を及ぼすような人物が荒らすのを防ぐのだ」と、オーストラリア国立大学で広告とマーケティングを教える、前出のヒューズ氏は言う。

「それ(設定)を変更する可能性もあるが、私はそうならないと思う。そんなことをすれば、厄介な問題を引き起こしかねない。海外のほかのロイヤルファミリーの事例から、何が起こり得るか、非常によく分かっているはずだ」

確かに、日本の皇室のオンライン・デビューは、英王室より15年遅かったかもしれない。しかし、ここ数カ月に起きた、キャサリン皇太子妃一家の画像加工をめぐる騒動は、きっと間違いなく念頭にあっただろう。

結局のところ、日本の皇室は、天皇の統治とその系統が数千年も続くとされるロイヤルファミリーであり、ソーシャルメディアで傷がつくのを10年以上も望んでこなかった。

「日本のロイヤルファミリーは保守的で安全なブランドイメージを強めたいと思っており、投稿は非常に厳しく制限された話や内容になるだろう」とヒューズ氏は言う。「(ハリー王子の自伝)『スペア』のようなものや、フォトショップ加工をめぐるドラマは生まれないだろう」。

日本の国民は皇室に対する畏敬や尊敬の念が強く、イギリスの国民と王室との関係とは少し異なるとも、ヒューズ氏は指摘する。

「(アカウント開設)当初からコンスタントにコンテンツを提供する必要はなく、ただそのブランドをさりげなく強化し、(アカウントで)公表されたり議論されるものをコントロールすることで、AI(人工知能)の使用や偽情報、誤情報を最小限に抑える。私には、賢いブランド・マネジメントに見える」

過去に、タブロイド紙によるスキャンダル報道があったとはいえ、宮内庁は天皇家のクリーンさを保つため相当の努力をしてきた。概して、皇室は今でも日本国民から、道徳的に立派なロールモデルとみなされている。

皇室は長年、伝統的メディアや写真、新聞、そして明治以降はテレビ番組や週刊誌などでメッセージを発信してきた。

「しかしながら、これらのメディアは国民との間で親近感を育むより、好意を感じるが遠い存在というイメージの強化に使われることが多かった」と、オーストラリア国立大学の日本研究学科専任講師、門傳昌章氏は言う。

インスタグラムでも、皇室はその戦略を維持しているようにみえる。

ソーシャルメディアは距離感の近い投稿を勧めるかもしれないが、日本の皇室は距離を置いたままでいることに満足している。

(英語記事 Japan's imperial family latest royals to join Instagram

© BBCグローバルニュースジャパン株式会社