【コラム・天風録】知事の言葉と知性

 もーもーガーデンという牧場が福島県大熊町にある。原発事故後、山へ逃げた牛に餌を与えてきた女性が開いた。雑草が茂る帰還困難区域の農地で被災牛を放し飼いに。雑草を食べ、荒廃が進む土地や環境を守ってくれる▲女性は牛の命と向き合い、守ろうとしてきた。その姿を紹介した2年前の本紙セレクト記事を思い出したのは静岡県知事の発言に驚いたからだ。牛に携わる仕事の尊さや知性が必要であることに、思いが至らないのか▲県庁をシンクタンクに例えた知事。新規採用の県職員を、牛の世話や野菜の販売、ものづくりと違って頭脳、知性が高いと語っていた。「農家や畜産業は知性が低いのか」「ものづくりを静岡は誇ってきた」。批判が殺到するのも当然だ▲職業差別のつもりはない、新職員を励ましたかった―。弁明の一方で、「発言を切り取られ、曲解された」とも。挙げ句の辞職表明。発言追及に嫌気が差したか。幾度も失言を繰り返してきた知事の知性こそ問われる▲静岡を通るリニア中央新幹線の開業はどうなるか。河川への影響を懸念する知事が着工を認めていない。環境を守るため心砕いてきた人が、県民の心を踏みにじって県庁を去る。

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