映像プラットフォーム・コネクテッドTVを活用した動画広告の進化 〜日経デジタルフォーラム レポート(その4) / Screens

2024年2月6日、日経デジタルフォーラム「映像プラットフォームにおけるマーケティングの過去・現在・未来」が大手町・日経ホールにて開催。マーケティングや映像制作の一線で活躍するキーマンが登壇し、それぞれの事例を踏まえながら、デジタルマーケティングにおける顧客コミュニケーションのヒントを提起した。

5回にわたる記事のうち、本記事ではトークセッション「映像プラットフォーム・コネクテッドTVを活用した動画広告の進化」の模様をレポート。2大広告代理店である電通・博報堂の立場から、広告ビジネスにおける映像プラットフォームの重要性、中でも特に案件の需要が高まりつつあるコネクテッドTVの有用性について語る。

登壇者は株式会社電通デジタル 執行役員・池田純一氏と、デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社(DAC)執行役員 兼 株式会社博報堂DYメディアパートナーズ デジタルアカウント推進部 部長・清水康隆氏。司会を日経CNBCキャスター・改野由佳が務めた。

■良質な視聴環境故、高い効果が期待されるコネクテッドTV、テレビとセットでのプランニングがトレンド

まず池田氏がコネクテッドTV広告におけるマーケティングの現在地点について整理。日本におけるコネクテッドTVの利用率が約4割と成長途上にあり、利用世代やエリアごとの差がほぼない点に注目する。

「テレビ画面における1日あたりの利用分数は平均285.0分。その内訳はテレビ放送の視聴が47%、動画サービスの視聴が48%とほぼ半数だ。大画面というデバイスの特性上から番組を集中して観る『専念視聴』の割合が高く、家族や友人など複数人で同じ画面を見る『共視聴』の割合も一定数存在する」(池田氏)

池田純一氏

これらの背景を踏まえ、「コネクテッドTVにはストックとフローの両面から広告的効果を期待できる」と池田氏。記憶への蓄積や関与が高まるタイミングでブランドや製品名を想起させる「ストック効果」と、広告を見た直後に購買や検索を誘発する「フロー効果」もあるといい、「地上波とセットでテレビデバイスにおける接触を最大化、最適化するという視点でのプランニングがトレンドになりつつある」と語る。

「コネクテッドTVがテレビとデジタルの“いいとこ取り”であるという点はかねてより多くの場で語られてきたが、ここへ来て『画面の大きさ』が注目の根拠となりつつある」と清水氏。「もともとデジタル広告の1カテゴリとされてきたコネクテッドTVだが、直近では『テレビに近い広告特性を持つ媒体』として見られ、デジタル広告ではなくテレビとセットでプランニングされる動きも増えている」という。

■広告媒体としてのコネクテッドTVへの期待「マルチスクリーン視聴の振興が鍵」

中盤の議題は、広告媒体としてのコネクテッドTVおける現状の課題と期待について。池田氏は「全体の4割という普及率をいかに伸ばしていくかが課題」といい、清水氏も「マーケティングの中心となるには一定以上のスケールが求められる」と続ける。

「鍵を握るのはマルチスクリーン視聴の振興。多くの広告コンテンツは、話題化の段階でSNSの力を借りている。コネクテッドTVは、テレビ画面を見ながらスマートフォンを使えるのが大きな特長だ。映像を見ながらSNSを活用する視聴態度を後押しできれば、メディアとしてのプレゼンスもさらに高まるのではないか」(池田氏)

「同じコネクテッドTVでもTVer、YouTube、ABEMAではそれぞれ広告挿入のタイミングも視聴者の受容態度も大きく異なる。民放公式テレビサービスであるTVerには地上波放送の歴史で醸成された違和感の無い広告フォーマットという強みがある反面、ユーザーによって指数的にコンテンツが増えるYouTubeが持つリーチの多さも無視できない。今後はリーチ規模と費用対効果のバランスに加え、視聴態度の差も肝になるだろう」(清水氏)

清水康隆氏

「いまはTVerにおける人気ドラマの配信など大型コンテンツ投下のタイミングで視聴者数が増える傾向にあるが、配信期間の終了とともに離脱が起きてしまうのもまた現実だ。習慣的に見られるバラエティコンテンツなどを用意して日常的な利用を促し、ユーザーの奥行きの深耕に繋がる様な『定期的にユーザーへアプローチできるメディア』という性格を強めていくのが良いのではないか」(池田氏)

「広告投資に対するリターンの説明力が高いに越したことはないが、コネクテッドTVにおいては『計測しきれていない強み』がまだまだ多く、広告主に対する説明の仕方に頭を捻る場面も少なくない」と清水氏。一方池田氏は「フロー効果の面で見ると各プラットフォームレベルでは地上波と横並びで検証できるスキームが整いつつある」とし、「それぞれのプラットフォームに適した広告配信のセオリーは見えてきている感がある」と期待を述べる。

「スマートデバイス上での動画配信における1リーチとテレビにおける1リーチの効果の違いに広告主は気付き始めており、リーチやインプレッションといった単純な露出量から一段階深い計測指標を追いかけるようになってきている。デジタルでありながらデバイスに由来する『テレビっぽさ』を持つコネクテッドTVに対しては、さまざまな仮説を持ってKPIを検証する流れが生まれている」(池田氏)

■コンテンツへの導線設計と視聴体験の磨き上げが急務「地上波への注目にもつながる」

後半は、媒体としての特性を最大限に活かしつつ「コネクテッドTVらしさ」を発揮できる広告の形について議論。池田氏は「高精度ターゲティングというデジタルとしての特性を活かしつつ、スマートデバイスに特化した『6秒動画』のように15秒、30秒で高い効果を得る『コネクテッドTV特化のクリエイティブ』が効いてくるのではないか」と提案する。

「コネクテッドTVにおいては、全世代向けと共にターゲットを絞り込んだ広告配信にも勝機を感じる。テレビや他のデジタル媒体と横並びで評価できる統一指標が備われば、マーケティングでも使われやすくなる」(池田氏)

これに対して清水氏は「クリエイティブも含めたインタラクティブなコミュニケーション設計についてはコネクテッドTVに期待したい事の一つ」とコメント。「コネクテッドTVを通してコンテンツにたどり着くまでのユーザーインターフェースや動線の設計はまだまだ開発登場」とし、「未達の生活者層へ届けるべく体験の磨き上げが不可欠」と語る。

「コネクテッドTVの視聴体験がリッチになることはテレビデバイスの前に人が集まる機会を増やすことにつながり、結果として地上波にも注目が集まるきっかけになるのではないか」と池田氏。「我々も広告会社として、コネクテッドTVが提供する良質な視聴体験を顧客体験に活かす方法を広告主や配信事業者のみなさまと一緒に切り開いていきたい」と結んだ。

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