映画『変な家』原作をどう変えた? 佐藤二朗の怪演とマシマシ演出で“誰もが楽しめる”ホラーに

映画『変な家』の勢いが止まらない。3月15日の公開以来、興行通信社による国内映画ランキングで3週連続1位を獲得するほどの大ヒットを記録しており、すでに観客動員数は200万人を突破している。

なぜ同作はここまで多くの人の興味を引くことに成功しているのか……。その理由を、原作と映画の内容を比較しながら探ってみよう。

『変な家』は、何かが“変”な家の間取り図をめぐり、次々と不可思議な出来事が起きていく不動産ミステリー。原作はWebライター・雨穴が生み出したコンテンツで、動画版は2,000万再生超え、書籍版は続編も合わせてシリーズ累計190万部を突破している。

すなわち『変な家』は原作の時点で人気コンテンツだったと言えるのだが、同作が画期的なのは“誰でも楽しめる”間口の広さにあった。通常のミステリーは殺害現場などの舞台設定、犯人や被害者を含む人間関係など、さまざまな情報を積み重ねた上で探偵役の推理が行われていく。普段ミステリー作品に触れていない人の場合、「どの情報を糸口として謎を解き明かすべきなのか」という壁にぶつかってしまうことも珍しくないだろう。

しかし『変な家』の場合、謎を解くために必要な情報は一目瞭然。家の間取り図のなかに、すべてのヒントが詰まっているのだ。一見普通に見える間取りをよく観察すると、おかしな点が見つかっていき、そこから1つのストーリーが浮かび上がってくる……という構造となっている。

またホラー作品として見ると、語り手がリアルタイムで“実況”するように物語が進んでいくという点で、2000年代に大流行したいわゆる「ネットロア」に近いところがある。たとえば、見知らぬ駅に辿り着いてしまった女性がネット掲示板で状況を報告していく「きさらぎ駅」と対比させることもできるだろう。

そもそも雨穴は、普段小説に触れていない人をターゲットとして『変な家』を書いていた。映画版のクレジットには「原作協力」として、Webメディア『オモコロ』のライター・みくのしんの名前が記載されているのだが、雨穴は本を読むことが苦手な彼のような読者を意識して『変な家』を書いた……という経緯があるそうだ。

少々前置きが長くなったが、映画『変な家』が大ヒットしている背景には、こうした“誰でも楽しめる物語”という原作のコンセプトが影響しているものと思われる。

ちょっとやりすぎ……だけど楽しい佐藤二朗の怪演

映画『変な家』の大筋は、原作とほとんど同じ。その流れは、ミステリーマニアの設計士・栗原さんと共に間取り図の謎を解き明かしていくというもので、難しいことを考えずに楽しめるエンタメ作品となっている。

しかし物語を映画という表現に置き換えるにあたって、大きく変更されている設定も。まず、映画版では語り手の雨穴が架空の動画クリエイター・雨宮(間宮祥太朗)に変わっており、彼の身にさまざまな危険が襲い掛かっていく。また“安楽椅子探偵”的に間取りの謎を解いていく原作とは違って、映画版では実際に建物に突撃していき、奇妙な出来事を次々と体験することになる。

なにより印象的なのは、ホラー的な演出が“マシマシ”にされていたことだ。原作はどちらかといえば客観的な叙述で、淡々と物語が進んでいくが、映画版ではあらゆる場面に観客の心を揺さぶろうとする演出が仕込まれており、ホラー映画として成立させようとする制作陣の熱意を感じられた。

とくにMVP級の活躍を見せていたのが、栗原さんを演じた俳優・佐藤二朗。初登場時の気味が悪いいちごパフェの食事シーンに始まり、どんな時も表情が一切変わらない不気味さ、やけに説得力のある話し方など、ちょっとやりすぎなくらいの怪演技だ。

原作と比べて演出過剰と感じる人もいるかもしれないが、頭をからっぽにして楽しめるホラー映画として徹底した作りになっていることは間違いないだろう。110分のあいだ、気の抜けない不気味な世界がずっと続くため、お化け屋敷にでも入った気分を味わえるはず。

実をいえば映画版では謎の根幹に関わる部分が若干原作から変わっているため、ミステリー好きには原作の方がオススメできる。とはいえ、どちらも来るものを拒まないエンタメ作品となっているので、映画から原作に入るという楽しみ方もいいかもしれない。映画業界を騒がせる“変”な物語を、ぜひ体験してみてほしい。

(文=キットゥン希美)

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