“会社人間”の可能性は無限大!…「肩書き」に隠れたミドル・シニア世代の〈強み〉【人材開発コンサルタントが解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

ミドル・シニア世代が今後の働き方を考えるにあたって、「この年齢から自分にできることなんてあるんだろうか」とネガティブになっている人も多いのではないでしょうか。しかし、『55歳からのリアルな働き方』(かんき出版)著者で人材開発コンサルタントの田原祐子氏は、ミドル・シニア世代の会社員にこそ「多くの強み」があるといいます。その理由について、地方新聞記者のTさんを例に詳しくみていきましょう。

「会社の肩書き・役職」は、“本当のあなた”ではない

「今の肩書や役職がなくなってしまったら、どんな仕事ができるんだろう?」
「今の仕事はできるけど、もう若くないし、この先、雇ってくれる会社もなさそう」
「自分は専門バカで、他の仕事はできそうもない」

豊かな経験知をお持ちのみなさんから、こんなふうな嘆きをお聞きすることが、日ごろどれほど多いことか……。

こんなとき、私はいつも声を大にしてお伝えしています!

「〇〇さん、あなたは、これまで□□会社の〇〇さんという看板を背負ってきたのかもしれません。しかし、あなたは□□会社と一体化しているわけではなく、あなたという1人の素晴らしい貴重なタレント(人材)です!

あなたには、会社を辞めても役職がなくなっても、これまで積み重ねてきた数々の仕事の経験を通じて、ご自身でも気づかない、たくさんの経験知があります。それを活かさなくて、どうするんですか!」と。

定年間近の新聞記者は”翼をもがれた鳥”?

ある地方新聞社の記者のTさんが、こんなふうに嘆いておられました。

「田原さん、私も来年定年なんですよ。あとわずかな記者生活。いやあ、それにしてもよくここまで頑張ったなと自分でも思います。ですが、これから先のことを考えると、暗い気分になるんです。先輩からも、よく言われてました。『記者っていう仕事は潰しが効かない仕事で、記者しかできないもんだ』ってね……。

それにね、こんな私を、もう1度雇ってくれる新聞社なんて、今どきありませんからね。そうそう、今はまだ会社の肩書がありますから、名刺を出せば、一応誰でも会って話してくれるんですが、それがなくなっちゃうんですから、もう『翼をもがれた鳥』状態ですよ。

ですから、定年して2〜3カ月ゆっくりさせてもらって、それから仕事を探そうと思います。さすがに、ちょっと疲れましたから。でもね、少しゆっくりするって言うと、妻の機嫌が悪いんです。『先は長いんだから、さっさと働いて!』って、言われてしまうんですよ。

まあ今は人手不足らしいから、就職先は、こちらが選びさえしなければ、なんでもあるとは思うんでね。少々楽観はしてます。肉体労働も悪くはないけど、年齢を重ねると、体力も落ちてますから、ちょっとしんどいですが、まあ仕方ありませんね。何か自分にもできる仕事が見つかればいいんですがね……」

私は、自分の耳を疑い、叫びました!

「ええっ! 『翼をもがれた鳥』ですって? 何を言っているんですか、Tさん! あなたこそ、次なる未来に飛び立つ、大きく羽ばたける翼を長年培ったフェニックス(不死鳥)ではありませんか?

Tさんは、たとえ会社の肩書や役職がなくなったとしても、これまでの仕事で蓄積してきた、知識・スキル・コンピテンシーという経験知があります。それを活かせば、今以上の収入さえも夢ではないことを、ご自身で認識していないのです。

仕事内容を細かく棚卸しすれば、隠れた自分の「強み」がわかる

ここで、みなさんもちょっと考えてみてください。Tさんは、本当に「記者しかできない」のでしょうか。記者は、本当に「潰しが効かない仕事」なのでしょうか。Tさんの「才能を活かせる職場」は、本当に新聞社だけでしょうか。

答えは、もちろん「いいえ」です。断固としてお伝えしますが、決してそんなわけはありません。Tさんは、ご自身の宝物、経験知や才能に長年気づかず、自己分析できていないだけです。

それでは、Tさんの経験知を棚卸しして才能を分析してみましょう。

【Tさんがしてきた仕事】

・地方新聞社の社員

・地方新聞社の記者

・地方新聞社の課長

【Tさんがしてきた仕事で蓄積されている無形資産】

(1)知識

・新聞社の業務全般に関する知識

・編集部門の業務全般に関する知識

・印刷に関する業務知識

・情報の収集データ

・分析に関する知識

・これまで記事を書いてきた、さまざまな業界に関する知識

・これまで取材した、取材先の業務に関する知識

・これまで取材した、地域

・地方に関する知識

・課長という役職に関する知識

・記者という仕事に関する知識 etc.

(2)スキル

・新聞をつくるスキル

・見出し(キャッチコピー)をつくるスキル

・記事を書くスキル

・文章を構成するスキル

・文章の要点をまとめるスキル

・文章を校正するスキル

・情報を収集するスキル

・情報の真偽を見極めるスキル etc.

(3)コンピテンシー

・取材し記事を書くという真摯な姿勢

・事実に基づいて記事を書くという誠実さ

・取材先に記事を書くことを受け入れてもらえるという信頼感

・課長として、部下を育成する責任感

・新聞を編集する際、全体のバランスを考えるバランス感覚

・取材する際、真偽を確かめる、いい意味のクリティカルさ etc.

さて、みなさん、いかがでしょうか。Tさんが、「記者以外の仕事」ができる可能性は無限にあると感じませんか。これらの才能は、仕事をするうえで、年齢面にはまったく関係ないもの(知識・スキル・コンピテンシー)ばかりです。

こんなふうにご自身が経験してきた仕事の内容を細かく棚卸しすれば、誰しも今の仕事・肩書・役職以外に多様な仕事ができる可能性を持ち合わせているのです!

田原 祐子
人材開発コンサルタント/ナレッジ・マネジメント研究者

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