パレスチナ自治区ガザ地区で人道支援活動を行っていた慈善団体「ワールド・セントラル・キッチン(WCK)」は5日、イスラエル軍の空爆でWCK職員7人が死亡した問題で、独立した調査の実施を求めた。
イスラエル国防軍(IDF)は先に、WCK職員が致命的な攻撃の標的となったのは「重大なミス」だったと説明。
IDFはこの問題について調査を行い、大佐と少佐を解任し、司令官3人をけん責処分としたと5日に発表していた。ドローン(無人機)部隊の活動も停止したという。
しかし、WCKのエリン・ゴア最高経営責任者(CEO)は、IDFは「ガザ地区で自らおかした失敗について、納得のいく調査を行うことはできない」と指摘した。
ゴアCEOは声明でこう続けた。「我々の同僚を殺害した非道な行為に対する(IDFの)謝罪は、慰めにならない。犠牲者の家族にとっても、WCKのグローバル・ファミリーにとっても、慰めにならない」。
ゴア氏はさらに、イスラエルはガザ地区の現場で活動する支援関係者の安全確保のため、「具体的な措置」を講じなければならないとも述べた。1日にWCK職員が死亡したことを受け、複数の団体が現地での活動を停止している。
一連の伝達ミスでハマス工作員と誤認
WCKによると、同団体のチームは中部デイル・アル・バラフの倉庫で「海上ルートでガザに運ばれた人道支援の食料100トン以上を荷下ろし」した。車列は倉庫を出発する際に攻撃されたという。
3発のミサイルは人道活動に従事していたWCKの車両を次々と破壊し、4分間で職員7人が死亡した。
WCKはIDFから許可を得て、沿岸部から倉庫への援助物資の移送を支援していた。しかし、IDFの一部で伝達ミスなどが続き、WCK職員はイスラム組織ハマスの工作員と間違われて標的にされた。
WCKの車列の近くに「多数の武装集団」がいたが、ドローンの操縦士がWCK職員の車両を誤って追跡したのだと、IDFは主張した。
IDFは兵士たちがプロトコルに従っていなかったことや、事前承認された援助ミッションに関する重要情報が兵士に提供されていなかったことを認め、謝罪した。
西側諸国、調査結果の全容公開求める
イスラエルは西側の主要パートナー国から、公表されていない調査結果の全容を公開するよう圧力を受けている。
イギリスのデイヴィッド・キャメロン外相は、英当局が「初期の調査結果を慎重に評価している」としたうえで、イスラエルの将校2人の解任は「最初の一歩」だと述べた。
キャメロン氏は「これらの調査結果をすべて公開し、最大限の透明性と説明責任を確保するための完全に独立した評価が行われなければならない」とソーシャルメディアに
した。
アメリカのアントニー・ブリンケン国務長官はイスラエルの報告書を受け取り、その内容を「慎重に精査している」と述べた。また、アメリカは「どのような措置が取られているかだけでなく、それがもたらす結果についても注目していく」とした
IDFの公式謝罪に先立ち行われた非公開の内容説明では、ハマスの銃撃犯が援助物資を載せた車両の上にいる様子だとする動画など、調査の追加資料が記者団に公開された。しかし、後に公開されたのは調査結果の要旨のみだった。
イスラエルの調査は、軍の不正行為疑惑を扱う既存の懲戒手続きを通じて行われた。予備役少将が調査を監督した。
IDFのダニエル・ハガリ報道官は、この報告書は「(IDFの)指揮系統には属さない、専門的で独立した機関」によって行われたものだと説明した。
ハガリ氏は5日の記者会見で、調査結果について、WCKとこの事案で死亡した人の出身国の代表者に全容が提示された後、「明確かつ透明性のある方法」で公表されると語った。
そして、IDFの兵士が「ハマスを標的にしていたことは間違いない」としつつ、今回の空爆は「ひどいミスの連鎖」に起因する「悲劇」だと述べた。
国連のアントニオ・グテーレス事務総長は5日、ガザ地区でイスラエルとハマスの戦闘が始まって以降、同地区で196人もの支援職員が死亡していると指摘。「我々は、彼ら1人1人がなぜ殺害されたのかを知りたい」と付け加えた。
グテーレス氏は記者会見で、「イスラエル政府はミスを認めている。しかし、本質的な問題は、誰がミスをおかしたかではなく、こうしたミスを何度も繰り返すことを許している軍事戦略とその手順にある」と述べた。
「こうした失敗を修正するには、独立した調査と、意味のある重要な変化を現場にもたらす必要がある」
WCK職員の死は、イスラエルによる戦争の遂行方法に対する国際的圧力を高めている。ここ数日では、イスラエルへの武器供給を停止するよう各国に求める声が上がっている。
アメリカのジョー・バイデン大統領は4日、ガザ地区への援助流入を増やすことを認め、支援職員保護のための追加措置を導入することが、米政府が現在行っているイスラエル支援を維持する条件だとイスラエルのネタニヤフ首相に伝えた。
イスラエルはその後、ガザ地区に人道物資を届けるため、2つのルートの開放を承認したと発表した。このルートがいつ、どのような条件で解放されるのかは明らかになっていない。
開放されるのは、ガザ北部のエレズ検問所と南部のケレム・シャローム検問所。
エレズ検問所は、今回の戦争が始まってから初めて一時開放される。ガザに近いイスラエルのアシュドド港では、人道物資の受け入れを開始する。また、ヨルダンからの物資がケレム・シャローム検問所を通ることも認められる。
昨年10月7日にハマスがイスラエル南部を奇襲し、イスラエル側で約1200人が死亡、253人が人質になった。イスラエルが開始した報復作戦ではガザ地区の大部分が壊滅的な被害を受けている。
ハマスが運営するガザ保健当局は、開戦以降、同地区で3万3091人以上が死亡したとしている。
(英語記事 Gaza: Israel urged to publish full report on aid worker deaths)