【4月7日付社説】浪江の復興牧場/酪農の将来切り開く施設に

 浪江町の沿岸部の棚塩地区で、公設民営の大規模酪農施設「復興牧場」の整備工事が進められている。かつて東北電力の浪江・小高原発の建設予定地だった約25ヘクタールの敷地に牛舎や堆肥舎などを建設する計画で、2026年3月末の完成を予定している。

 復興牧場では、1300頭の乳牛を飼育し、年間で約1万3千トンの生乳を生産する。生産規模では全国で15位、東北で3位のメガファームとなる。国内でも数少ない最新鋭のロータリー型搾乳ロボット、牛舎内を自動走行するふん尿回収ロボットなどを導入することで、大規模化と省力化による経済性の高い施設運営を目指す。

 浪江町では震災前、立野地区や津島地区で酪農が行われていた。酪農家は米栽培や農地管理などに取り組みながら再建を目指してきたが、個人で全てをゼロから再構築することが壁になり一歩を踏み出せなかった経緯がある。町は復興牧場を意欲ある生産者の再起の場として役立て、地域の酪農業再生につなげていくことが重要だ。

 復興牧場には、就農希望者や若手の酪農後継者が乳牛の飼育などを学ぶことができる研修施設を整備する。長期的な研修ニーズに対応するため宿泊機能も完備しており、各地の農業系大学の酪農実習などを受け入れる予定だ。将来的には、乳牛の発育などに関する外部機関からの研究を受託する構想を描いている。

 町によると、酪農の研究機能も兼ねた施設としては国内最大規模となる見通しで、今後は施設運営者の公募手続きに入る。町は、酪農業に幅広い知見を持つ運営主体の選定や福島国際研究教育機構との連携などを通じ酪農業の将来を担う人材を集め、本県での就農、定住に結び付くような受け入れ態勢づくりに全力を挙げてほしい。

 1300頭の牛を飼育すると、年間で約1万2千トンの堆肥が生産される。復興牧場では電源の一部として堆肥を活用したバイオガスプラントを運用し、その結果として肥料成分を含む液肥が生じる。町は堆肥、液肥を除染で損なわれてしまった農地の地力を回復するための資源として活用できないか、検討を進めている。

 双葉郡では、避難指示が解除された地区での営農再開が課題になっている。液肥は本県で普及は進んでいないが、不安定な国際情勢を受け高騰している化成肥料の代わりとして使うことができる。町は県などと歩調を合わせ、酪農が農地を育み、作物が牛の飼料となる浜通りの新たな耕畜連携の好循環を実現してもらいたい。

© 福島民友新聞株式会社