「日本人が考えるよりずっと高く、海外で評価されている」 「駐夫」がニューヨークの地下鉄で気づいたこと

地下鉄構内のバンド【写真:ユキ】

外国人が日本で驚くことのひとつに、電車の混雑や、静かすぎることが挙げられます。では、日本人が海外へ行ったら、どんなギャップを感じるのでしょうか。妻の海外赴任に伴い、ニューヨークで駐在夫、いわゆる「駐夫(ちゅうおっと)」になった編集者のユキさん。この連載では、「駐夫」としての現地での生活や、海外から見た日本の姿を紹介します。第3回は、ニューヨークの地下鉄についてです。

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ニューヨーク市の地下鉄は、とてもカオスな観光地

ニューヨークの観光地として思いつくところといえば、自由の女神、タイムズスクエア、セントラルパークにメトロポリタン美術館、ブロードウェイミュージカルといったところではないでしょうか。

もちろん、どれも訪れる価値あるところだとは思いますが、日々生活をしていて印象的なところは、なんといってもニューヨーク市の地下鉄です。なぜ、地下鉄? と思うかもしれませんが、国によって雰囲気はまったく違います。

たとえば、日独ハーフのコラムニストであるサンドラ・ヘフェリンさんによると、ドイツ人にとって東京の満員電車の様子は大変興味深いとのこと。あそこまで窮屈なところに閉じ込められていて、よく暴動が起きないものだと驚いているようでした。そして、海外の人たちからは、一度は見てみたい観光地のようになっていると言っていましたが、ニューヨークの地下鉄もなかなかのものです。

あるとき、電車内でスマートフォンを見ていると、後ろから心地良い音楽が流れてきました。何かのBGMかなと思っていたのですが、車内にBGMなどはなく、ふと後ろを振り向くと、3人の男性がバンドを組んで演奏をしておりました。

流行りの曲から、ゴスペル、ジャズ、クラシック、ヒスパニック音楽まで。正直、レベルはまちまちなのですが、音源や器材をセットし、かなり本格的に演奏している人たちがいます。演奏が終わると「良かったよ」などと言いながらチップをあげている人も。

こちらに来た当初は、電車内の光景によく驚いていました。地下鉄内では、実にいろいろな出来事が起こります。

電動キックスクーターや大型の家具を電車内に持ち込む人がいたり、ウーバーイーツのような宅配サービスのドライバーが自転車ごと乗り込んできたりすることも。政治的な演説をする人(もちろんこれにも同意を表明し、チップを払う人がいます)や、詩を朗読する人もいます。

危険な光景もたまに見かけます。電車の吊り革やスタンションポールを利用して、ダンスを踊っている人がいたのですが、これがかなり迷惑で、けっこう危ない。狭い車内でアクロバティックに動くので、ぶつかりはしないかとヒヤヒヤものです。

案の定、パフォーマーのかかとが座っている乗客の頭に当たり、その乗客は大激怒。一触即発となりましたが、幸い大事には至りませんでした。

地下鉄の車内で物売りをする子ども【写真:ユキ】

令和の風を吹き込んだ日本の地下鉄車両

ニューヨークというと、最先端でファッショナブルなところといったイメージがあるかと思います。ところが地下鉄構内は薄暗く、また、どことなく昭和を感じさせる雰囲気があります。

発展途上国を訪れたときに、物売りをする小さな子どもがいますが、ニューヨークの地下鉄でもホームや車内で見かけることがあります。チョコレートや果物などが詰まったボックスを持って、少年少女や、赤ん坊を背負ったお母さんなどが販売しているのです。

「Don't be someone's subway story」。変な行動をするなというMTA(メトロポリタン・トランスポーテーション・オーソリティ)の車内広告【写真:ユキ】

このような車内販売や、前述したパフォーマンスなどの行為、大きな荷物などの持ち込みは、禁止行為とされています。罰金もあるのですが、あまり効力を発しているようには思えません。

さらに最近では、走行中の電車の屋根に登り、そこを渡り歩く「地下鉄サーフィン」という危険行為が問題になっており、死者も出ています。

さて、そんななか、2024年2月に川崎重工業グループ会社製の新型車両「R211T」が導入されました。日本では一般的によく見られる貫通路(車両間を移動するために連結部分にもうけられた通路)があり、車両の連結部分から乗客が電車の上によじ登れないようになっています。

スタイリッシュで機能的なこの車両は、ニューヨークの昭和な地下鉄に令和の風が吹き込んでいます。川崎重工が、ニューヨーク市から地下鉄車両を最初に受注したのは1982年のことで、今では地下鉄車両のシェアトップになっています。今回の新車両導入は、技術的な信頼を得てきてのことでしょう。

こういった地下鉄での様子を見るに、日本人の持っている技術や規律正しさは、日本人が考えるよりずっと高く海外で評価されている気がします。

ユキ(ゆき)
都内の出版社で編集者として働いていたが、2022年に妻の海外赴任に帯同し、渡米。駐在員の夫、「駐夫」となる。現在はニューヨークに在住し、編集者、学生、主夫と三足のわらじを履いた生活を送っている。お酒をこよなく愛しており、バーめぐりが趣味。目下の悩みは、良いサウナが見つからないこと。マンハッタン中を探してみたものの、日本の水準を満たすところがなく、一時帰国の際にサウナへ行くのを楽しみにしている。

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