ウズベキスタン女子を大飛躍させた本田美登里監督「パリ五輪予選で13失点の裏側」と「続投要請に応じられなかったワケ」

2022年に静岡SSUボニータを退任し、ウズベキスタン女子代表チームの指揮官に就任した本田美登里監督。

それから2年をかけて発展途上だったウズベキスタンの女子サッカーを飛躍的に進歩させ、パリ五輪のアジア2次予選ではインドとベトナムに勝利してグループステージを突破するという快挙を成し遂げた。

今年2月に行われたアジア最終予選では強豪のオーストラリアと対戦し、ホームで戦ったファーストレグでは77分まで0失点に抑えながらも終盤に守備が崩れ、0-3で敗北。

さらに4日後のアウェイゲームではオーストラリアに10ゴールを許して大敗し、二試合合計で0-13という驚きのスコアとなった。歴史的な快進撃と最後の試合での歴史的な大敗、そのコントラストがとても印象的な本田美登里監督の旅だった。

そして3月には日本へと帰国し、2022年まで率いていた静岡SSUボニータの監督に復帰。それから間もなく開幕を迎えたなでしこリーグに挑み、4月6日には敵地で第4節のスペランツァ大阪戦に臨んだ。

パフォーマンスで会場を盛り上げた長野高校の和太鼓部とスペランツァ大阪メンバー
しっぺい太郎とともに写真を撮る静岡SSUボニータ

元なでしこジャパンの名FW大野忍が監督を務めるスペランツァ大阪も、そして静岡SSUボニータもここまで3試合を終えてまだ勝利のない状況。

順位も近いチーム同士の対戦とあって、お互いになかなかチャンスを生かすことができない時間が続く。静岡SSUボニータは19分に大きな得点機会が訪れたものの、スペランツァ大阪のGK井上がナイスセーブで弾き出した。

そしてともにゴールを生み出せないまま試合は90分を消化。0-0のスコアレスドローとなり、勝点1を分け合う結果となった。

試合後、ウズベキスタン代表を退任してから時間のない中でなでしこリーグに向けて準備してきた静岡SSUボニータの本田美登里監督に短いながらもお話を伺うことができた。

指揮を執る本田美登里監督

――お疲れ様でした。今日の試合の感想は?

得点がお互いに取れなかったので…お客さんのことも含めて楽しい試合だったかといえば、そうでもなかったと思います。なでしこリーグを盛り上げていくのであれば、もっと得点をお互いに取り合う試合ができるようにしたいですね。

――小耳に挟んだところによれば、3月5日に来られたばかりだとか…

3月5日は帰国した日なんです。チームに合流したのは3月8日ですね。まだ名前も間違えてしまうくらいで(笑)。

手探りなところはありますが、サッカーをやる上ではそんなに難しいことではないので。自分もそのような経験はありますし。

ただ、選手がもっと動きやすくて活躍できるのは違う場所なのかな…というところは、まだ探りながらやっているところはありますね。

「突然ではなかった別れ」と「遅すぎた続投要請」

――2年間ウズベキスタンで仕事をして戻ってこられました。その間になでしこリーグの選手や試合に変化はありましたか?

突出した選手が上(海外やWEリーグ)に行ったということもあるかもしれないんですけど、なんとなくみんなが『同じようなタイプ』のように思えるところはありますね。

――ウズベキスタンの話をされていた記事も拝見しました。あちらは逆に未開発なぶん個性的というか…監督というよりジェネラルマネージャーのような仕事をされていたみたいですね。練習環境もままならず、選手の意識もかなり低いところからスタートしたとか。

ウズベキスタン代表で指揮を執っていた本田美登里監督

ジェネラルではないですけど(笑)。マネージャーですよね、チームをコントロールするということなので。『ここまでか…』というのはありましたけど、やれないことではありませんでした。

ウズベキスタンはとても我が強い選手が多かったですね。自分を表に出していくところが強い。なでしこリーグをこの1ヶ月見ていた中で、突出した選手が出てこないという点で言えば、それは取り入れてもいいところです。

ただ逆に言えば、日本人の持っている協調性、人のために頑張るということはウズベキスタンの選手にはできないことなんです。その意味では、サッカーという競技は日本人に向いていると思います。

しかし、それが多くの選手が平均的になっているということにも繋がっているので、そこに特別な何かを持たせられるようなものを作りたいですね。

「我の強さ」と「ポジティブさ」に長けたウズベキスタン女子代表

――その協調性のなさが、五輪予選のオーストラリア戦での二試合合計0-13という結果に繋がったというところも?

あれは完全に力の差です(笑)。ただウズベキスタンの人々は非常にポジティブな発想をするので、このセカンドレグの話はしなかったですね。1試合目の77分までは0失点だったよね!と。

『もうちょっと学習能力を見せたほうが良いんじゃない?』と日本人としては思ってしまいますけど(笑)、ただそれも含めて異国の文化は違うんだなと感じましたね。

――ウズベキスタンの女子サッカーをかなり発展させることができたと思いますが、2月に退任されるときには現地でどんな反応がありましたか?続投の話は出なかったのでしょうか。

本来であれば、昨年の12月31日をもって契約は終了することになっていたんです。一度契約が満了になって、そこからの更新…となるはずだったんですけど、結局それがウヤムヤになっていました。そしてあのオーストラリアとの二試合目が終わってから「ぜひ残ってほしい」と言われました。

日本人は先のことまで考えているものなので、「契約のオファーがなかったので、もう次のところで仕事をする準備をしているんです」と返答したら、「えっ?残ってほしいんだけど…」と。こちらとしては「それならもっと早く言ってほしい」と思いますが、それもウズベキスタンの文化なんですよね。

潮流に乗るより「オリジナル」

――すごい経験ですね…。その2年を経て、日本の選手への接し方に変わったところはありますか?

日本に帰ってきて、パワハラやセクハラなどハラスメント問題がとても大きくなっていることを感じましたね。気をつけなければいけないことが多くなったと思います。

あとは…私からの言葉じゃないですけど、選手には『本田さん、2年経って丸くなりましたね』と言われます。私、丸くなったんだと思って(笑)。成長したみたいです。

――これから女子サッカーの最高峰の試合であるシービリーブスカップ、パリ五輪と行われますね。選手にとって参考になるポイントや面白い注目点はありますか?

ポジショニングや配置、相手との組み合わせ、噛み合わせなど、そのようなところが池田太監督になってなでしこジャパンでも重要視されているように思います。もちろん1対1の部分や技術の精度などもありますが、組織的な部分でも戦える。

ヨーロッパでやっている選手も多いので、クラブでの経験値があります。ポジションをどう取れば数的優位が作れるか、どこが数的不利になっちゃうのか…それをなでしこジャパンでもやれることが多くなったように思います。

――世界では女子でも男子のようなフィジカル面が重視されるサッカーが増えてきたようにも思いますが…

全部を見たわけではないので世界の流れは分からないですけど、ワールドカップで優勝したのはスペインでした。唯一日本にだけ負けたチームが頂点に立っている。ですので、そのようなフィジカル系のサッカーが広がっているとも一概には言えないと思います。

そして、もしフィジカルサッカーが普及したとしても、日本が同じことをやれるわけでもありません。日本は日本でオリジナルのものをやっていくべきですし、それができると思います。

――日本代表の中で、なでしこリーグのプレーヤーにも参考になるようなポイントを持っている選手はいますか?

すみません、私自身が見ていないのでわからないんです。日本サッカーのリハビリ中なんです(笑)。

――そうなんですね(笑)予選で対戦はしましたけど、レギュレーションの影響もあってかなり奇妙な試合でしたしね。ウズベキスタンは大量失点で負けることだけは避けたい、そして日本は大量得点を狙う必要がなかった。そしてお互い納得したように2-0で日本が勝利するという結果になりました。

あれは、お互い得点を計算しながらの難しい試合でした。でも、それは最初からわかって臨んでいましたからね。

――すみません、お時間が来てしまいました。お忙しい中ありがとうございました、またお話聞かせてください!

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ウズベキスタンでの2年間を経て「丸くなった」と言われつつも、より尖ったところを持つ選手を生み出すための何かが必要だとも感じているという本田美登里監督。

全く異なった文化を経験した女子サッカーの名指揮官は、これからなでしこリーグでどのような戦いを見せ、どんな才能を育てていくのか。世界の女子サッカーが発展するなか、ますます注目が集まるところだ。

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