部下に仕事を依頼するとき、とりあえずで曖昧な指示を出している上司もいるかもしれません。そうした上司の態度は、部下の成長を阻害してしまうでしょう。そこで今回は、横山信弘氏による著書『若者に辞められると困るので、強く言えません』(東洋経済新報社)から、部下を成長させる「仕事の依頼方法」について解説します。
「わからないなりにやってみて」は禁句
多くのマネジャーに問いたい。部下に仕事を依頼する際、
「わからないなりにやってみて」
「まずは、自分で考えて手を動かして」
こんな曖昧な表現を使っていないだろうか。
特に注意すべきは、「とりあえず依頼」と呼ばれるものだ。
「とりあえず、この分析をやっておいて」
「どんな教育が最近のトレンドか、調べておいて」
このように思いつきで仕事を「とりあえず依頼」するマネジャーは、気をつけたほうがいい。これらの依頼は目的が明確でないゆえに、部下に質問されてもマネジャーは答えられない。そのため、
「この分析は何のためですか?」
「どんなデータを集めればいいですか?」
といった質問に対し、
「自分で考えろ」
と頭ごなしに叱って、部下は指示不足の中で仕事を進めることになる。仕方がないので部下は勝手に考えて仕事をすることになるのだが、そうすると
「誰がこんなやり方をしろと言った?」
と嫌味を言う。そして「ダメ出し」した後に、初めて自分のアイデアを披露するのだ。これは「ダメ出し文化」に染まってきた昭和世代の悪しき伝統だ。相手よりも自分のほうが優位だということをわからせるために、
「何事もまずは経験だ」
と言ってやり方を教えないのである。失敗させ、一度恥をかかせてから、上から目線で仕事を教える。
「私が新入社員だった頃は、いきなりお客様のところへ行かされたもんだ。上司は何も教えてくれなかった。泣きそうになりながらお客様のところをまわったんだぞ」
と過去のエピソードを話して聞かせるのだ。そして
「だけど、あの修業時代があったから、今の私がある」
と、過去を正当化するマネジャーは多いが、そんな修業時代はないほうがいいに決まっている。
自分が苦労したからといって、部下にも同じ経験をさせる必要はないのである。
「後出しジャンケン」がクセになっている上司の問題
「とりあえずやれ」
「まずは手を動かせ」
と指示し、後からやり方を披露するアプローチは、部下の成長に悪影響を及ぼす。「後出しジャンケン」のような指導は、経験学習サイクルの本質を見失わせるからだ。
このサイクルは、①経験すること、②多面的な視点からの振り返り、③新しい考えや理論の創造、④それらの試行、という4つのプロセスから成る。
しかし、実際には若い人々がこのサイクルを適切に遂行するのは難しい。特に、新しい考えや理論を作り上げることは非現実的である。
マネジャー自身も難しいはずだ。
ダメ出し版「経験学習サイクル」が部下に与える悪影響
たしかに、今の世の中はノウハウであふれている。しかし若者に仕事を任せるときに、
「まずは経験。ダメ出しは後」
これを繰り返していると、部下は「でも」「だって」「どうせ」といった、「D言葉」を使うクセがついてしまう。
「でも無理です」
「だっていつもそうじゃないですか」
「どうせ自分が考えても否定してくるでしょ? やっても意味ないですよ」
このように、不貞腐れるのだ。
ダメ出し版の経験学習サイクルは、次のような4つのプロセスを踏むだろう。
①実際に経験する
②ダメ出しされる
③自信喪失する
④新しいことを試したくなくなる
マネジャーがとりあえず感覚で部下に仕事を投げると、部下も「とりあえずこなす」ことが目的になってしまう。これでは、いつまで経っても部下は育たない。
仕事を依頼する「前」にすべきたった1つのこと
したがって大事なことは、前提を揃えることだ。どこまでの仕事をしたらOKなのか。そのための仕事のやり方はどんなものがあるのか。それを言葉にして、事前に認識合わせをする。
では具体的にどうしたらいいのか? 心がけることはたった1つだけ。それは「見通し」を立てることだ。
「見通し」とは、ものごとの進展や将来を予測すること。具体的には、「初めから終わりまで」が明確に見通せるかが重要だ。
たとえば、分析の依頼をする場合、どのようなパラメータが重要か、それをどう分析し、結果をどうまとめるかという点を、部下に問いかけることで明確化させるのだ。
急かさず、否定せず、丁寧にやろう。困ったときには、掘り下げる質問を繰り返してみる。
「より具体的には何をすればいい?」
「たとえば何がある?」
具体的に掘り下げるには、この2つの質問は便利だ。
部下の考えを促すコツは、尋問にならないよう柔らかい表現で質問していくこと。そして適宜助け船を出すこと。上司自身もわからなければ、素直に伝えるのもいい。
「実は私もわかってないんだ。一緒に考えないか?」
「そうなんですね。お願いします」
この共同作業によって「見通し」が立つと、仕事の進行がより明確になり、部下も自信を持って取り組むことができる。
とはいえ、どんなに精度の高い「見通し」を立てたとしても、想定していなかったことは起こるものだ。それでも、「見通し」を良くすることで、未来への希望が持てる。前に進もうとする気持ちが晴れやかになるのだ。
横山 信弘
株式会社アタックス・セールス・アソシエイツ代表取締役社長
経営コンサルタント
※本記事は『若者に辞められると困るので、強く言えません』(東洋経済新報社)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。