【エフレイ設立1年】医薬品と農業に革新

片岡 一則(かたおか・かずのり)氏 東京都出身。京都大大学院工学研究科修士課程修了。東京大大学院教授を経て2015年からナノ医療イノベーションセンター長。「ナノマシン」と呼ばれる極小カプセルで薬を包み込み、体内の狙った組織に送る技術を開発。ノーベル化学賞受賞が有力視されている。73歳。

 設立1周年を迎えた福島国際研究教育機構(エフレイ)が最重点に位置付けるロボットや農林水産、エネルギーなど研究開発5分野のトップには、国内を代表する研究者らが名を連ねた。各分野の研究内容と将来像について、5人に聞く。

 雇用生み教育効果期待 放射線科学・創薬医療分野長 片岡一則氏

 ―ノーベル賞候補者として知られる。分野長を受けた理由は
 「福島を被災前に戻すのではなく、先端研究で前向きな復興を目指す福島国際研究教育機構(エフレイ)の方針に共感した。社会課題を科学で解決することは工学の原点であり、私も貢献したい思いがあった」

 ―エフレイで何に取り組むか。
 「放射線には本来、人類や社会に役立つ性質がある。一つ力点を置くのは医療だ。弱い『アルファ線』を出す放射性核種を医薬品に活用し、がんなど特定の細胞に送り届けると、効率よく病気を治療することができる。この分野は既に福島医大が高い実績を持っており、エフレイと協働することでより優れた医薬品が作れるだろう。2029年度までの第1期中に目に見える成果を出すことが目標だ」

 「もう一つの柱は農業。放射線科学を使うと、植物の体内で栄養素がどう動くかなどを把握できる。これにより、生産性や品質の向上につながる研究が進む。福島で農業に技術革新を起こし、成果を全国や世界に発信していく」

 ―福島で研究する意義は。
 「例えば画期的な医薬品をエフレイで開発することで、世界中から研究者が浜通りに集まる。特許を基に新規事業を興す企業なども出てくる。新たな産業が雇用を生み、子どもたちへの教育効果も期待できる。こうして今までとは一段違う形で福島を発展させたい」

 ―長期的にどのような社会を目指すか。
 「詳細はこの分野を担っていく若手研究者らと詰める。私の思いとしては放射線科学と他の技術などを組み合わせることで、より優れた新薬の開発が可能になる。これは世界トップレベルで取り組む必要がある。がん以外の領域に展開する可能性もあり、例えば『老化細胞』を標的とし、老化を抑制することもできるのではないか」

 「リスクのある治療は命に関わる難病を対象にすることが多いが、膝の痛みや認知症など、さまざまな理由で苦しむ人がいる。治療の安全性を高めるには、今の方法をただ延長するのではなく、新たなコンセプト(概念)が必要。治せない病気を治し、苦しむ人が一人でも減る未来を目指す」

 主な研究テーマ
・「アルファ線」を出す放射性核種を用いた新薬の開発
・植物体内の栄養素の動きを可視化し、高品質な農作物を栽培する技術の開発
・航空機などを丸ごと読み取れる超大型CT装置の開発に関する調査

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