ホセ・ジェイムズ新作『1978』をグラミー受賞作家アシュリー・カーンが紐解く

©Janette Beckman

1978年は音楽界にとって重要な年だ。ソウル、R&B、ファンク、ロック、ディスコ、ジャズといったスタイルが出会い、融合し、ラジオやダンスフロアで自由に交錯した。それはまた異なる国の音楽、たとえばレゲエやアフリカン・ミュージックなどがアメリカの音楽シーンに大きく影響を与えた年だった。

同時に、ブロンクスのストリートから生まれた音楽制作の手法が登場し、ヒップホップと呼ばれる新たな音楽が広く聴かれるようになった年でもあった。さらに1978年は、シンガー・ソングライター/プロデューサーのホセ・ジェイムズがミネアポリスに誕生した年であり、12枚目のアルバムのタイトルに彼が選んだのも、まさにこの年だ。

そう考えれば、『1978』が歴史的かつタイムリーな自伝的アルバムなのも当然だ。キャリア中盤にして、ソウル、ヒップホップ、ジャズ、その他のジャズ・スタイルを巧みに融合させつつ、ひとつの頂点を極めたホセ・ジェイムズを捉えた、極上の9曲を収録した作品。曲は非常に個人的で親密なものから社会的メッセージを持つものまで、グルーヴはエッジの効いたものからソリッドなもの、レイドバックした魅力的なものまでと実に幅広い。パフォーマンスを支えるのは若く、無駄のないしなやかな才気あふれるミュージシャンたちや予想外のコラボレーターたちだ。

ここ最近は、ビリー・ホリデイ、ビル・ウィザース、エリカ・バドゥといったアイコン/シンガー・ソングライターへのトリビュートを作ってきたホセ・ジェイムズだが、2008年の『ドリーマー』以来となる、ソングライター/バンド・リーダーとしてのプロダクション・スキルだけに頼ったプロジェクトに戻ってきたことになる。

「僕にとってこれはAbleton[註:音楽制作ソフト]を使ったプリプロダクションから、単なるスケッチにとどまらず、全曲すべてを完全に自分一人でプロデュースした初めてのアルバムだ。だからとても興奮してるんだ」とホセは語る。「これまでにないほどファンクやラテンの要素に焦点を当てているし、僕自身のヒップホップやソングライティングにマッドリブ的なジャズの感性を融合させた。以前にも試したことはあったけど、ここまで完全に一つのものとなり、自分が心から満足するものが作れたのは今回が初めてだ」。

『1978』を聴けばそれは確かに実感するし、音楽的な焦点も明確だ。何より一貫したフィール感とサウンドがある。それは、アルバムの大半の曲でリズム・セクションを演奏するミュージシャンたちのおかげだとホセは言う。ギターのマーカス・マチャード(ロバート・グラスパー、アンダーソン・パーク)、キーボードのチャド・セルフ(レイラ・ハサウェイ、ビラル)、ベースのデヴィッド・ギンヤード(ソランジェ、ブラッド・オレンジ)、ドラムのジャリス・ヨークリー(チャンス・ザ・ラッパー、アニー・デフランコ)、そしてさまざまな曲でゲスト参加したコンゲーロ奏者のペドリート・マルチネス。

「こういった小さくてタイトなバンドだったから、僕自身のジャズの本質と繋がっていられたんだ」とホセは言う。「彼らはなんだって演奏できる。どの曲もスタジオで全員が顔を見ながら録音した。初めて何かを見つけるかのような、そんなライヴ感を求めていたんだ」。

2023年初めにジャズ・クラブ、ブルーノート・ニューヨークのステージに立った時から、このラインナップは際立っていたとホセは言う。「ステージでの一体感は否定しようがなかった。マーカスはその日だけのゲストだった。やったのは(エリカ・)バドゥの曲だ。普段キーボードはBIGYUKIなんだけど、その日は彼の都合が悪くて。逆に普段は都合の悪いペドリートがその日は大丈夫だった。そんなグループだったが、全員がファンクとソウルのボキャブラリーを持っていて、このグルーヴにぴたりとハマったんだ。僕はそれを離すまいと思った。J・ディラ以降のレイドバックした感覚というのかな。そして思った。今まさにノリに乗ってるこのバンド全員をスタジオに集めて、捉えないと、とね」。

曲という意味では、しばらく前から準備は整っていた。遡ること数年、『ノー・ビギニング・ノー・エンド2』と『オン&オン』のツアー中から、ホセは新曲に取り掛かっていた。「『1978』の曲の多くがまとまり始めたのは5年くらい前だ。そこから徐々に発展し、グループが出来上がってからはあっという間だった」。ちょうどこの頃、ホセは70年代マーヴィン・ゲイとの仕事で知られるモータウンのソングライター、リオン・ウェアを紹介される。友人となった二人は、やがて仕事をする仲となる。

「2009年、LAのマリナ・デル・レイにあるリオンの家で一緒に曲を書いたんだ。彼がタバコを巻いて、何時間も話をした。ジャズ、モータウン、マーヴィン…。ある曲に取りかかっていた時、リオンが僕に言ったんだ。お前を見てると昔の自分を思い出す、と。その言葉がずっと残っていた。彼を質問攻めにしたよ。リラックスしたグルーヴとジャズのフレーヴァーを持つ(マーヴィン・ゲイの)『アイ・ウォント・ユー』は僕が思うベスト・アルバムの1枚だからね。『1978』はまさにリオンとJ・ディラが出会って、僕のために作ってくれたアルバムという雰囲気にしたかったんだ」。

またこうだともホセは言う。「『1978』は冒頭の数曲からセクシュアルな要素を感じさせるが、それと同じくらい、今日のR&Bから欠けているある種の脆さがある。もちろん大言壮語(bragging)もたっぷりある。それは間違わないでくれ。でもそうだとばかりは限らないという考えさ。それがいかに自分の時代から変わったか、リオンははっきりと言葉にした。“僕らはクルーナーだったから、曲の主人公の男のように観客を魅了しなきゃならなかったんだ”と彼は言ってたよ。今の時代は、そういう方法で曲を書くのは難しい。でもこのアルバムには間違いなく、リオンの精神がぎっしり詰まっているよ」。

マーヴィン・ゲイ以外にも、クインシー・ジョーンズとマイケル・ジャクソンからの影響があるとホセは言う。「これまでで一番シンセサイザーを使って何が出来るかを探求したよ。あとは、スタジオを大いに活用して、トラックに“耳に心地の良いサウンド”を乗せた。『アイ・ウォント・ユー』以外にも、マイケルの『オフ・ザ・ウォール』でのクインシーの見事なプロダクションが、『1978』のアイデアのインスピレーションになっている」。

ホセ・ジェイムズの『1978』のパワーの源は、タイムレスな時代性と深くパーソナルな感覚の両方にある。現在と過去のサウンドとジャンルをつなぐ重厚な音楽的表現であると同時に、ジャズやソウル、ヒップホップへの彼の深い愛情に対する、誠実かつうっとりするような愛情に満ちたバレンタイン(オマージュ)だ。

(訳:丸山京子)

※新作用プレスリリース(英文)の一部を翻訳。日本盤CDブックレットには全文が掲載されています。

Written By アシュリー・カーン
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ホセ・ジェイムズ『1978』
2024年4月5日(金)発売
CD:UCCU-1686 ¥2,750(税込)
https://Jose-James.lnk.to/1978

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