滝沢ガレソのX閲覧不可問題 ジャーナリストに聞く「暴露系インフルエンサー」の今後と「週刊誌」への影響

290万人を超えるフォロワーを抱える暴露/告発系インフルエンサー・滝沢ガレソ氏のXが4月4日、国内での閲覧が不能になり、関連ワードがSNSのトレンドに上がり続けるなど、ネットを騒然とさせた。

“タレコミ”をベースに多くの社会問題や炎上事件を取り上げてバズを起こしてきた滝沢ガレソ氏。過去のインタビューでは意識的に「正義感」を排除していると語っており、読者の関心を惹くゴシップを軽妙に伝え、人気と影響力を高めてきた。4月6日にはXが閲覧できない状況が解消されたが、ある意味では「週刊誌」を代替する情報源として受容されていたこともあり、多くの読者が戸惑い、その原因についても憶測を呼んでいる状況だ。

現在のメディア環境において、暴露系インフルエンサーはどんな存在になっているのか。ITジャーナリストの井上トシユキ氏は、「若い世代は週刊誌より暴露系インフルエンサーの話を信じる傾向にあり、そこに社会正義を見出しているのではないか」と指摘する。

「ダウンタウン・松本人志さんの裁判に関連して、週刊誌報道について10代後半~20代前半の人たちに聞き取りをしているのですが、驚くほどインフルエンサーへの信頼感が高いと感じます。週刊誌には多くの利害関係としがらみがあり、むしろそれがないインフルエンサーは、自分たちが知り得た裏の真実をみんなのために公開しているのだと。暴露系に火をつけた“ガーシー”こと東谷義和氏は問題含みの人物ですが、活動の初期に多くの支持者を獲得したことには、その言動に少なからず義憤が感じられたことが大きかったでしょう。

実際、暴露系インフルエンサーによって周知された社会問題もあります。とはいえ、受け手のネットリテラシーについてもあらためて考えたいところです。『2ちゃんねる』が出てきた当時、固定ハンドルネームを使った特定のユーザーの書き込みに対し、当事者しか知らない秘密の暴露があると盛り上がり、あたかも事実のように盲信されるケースがあったことを思い出します」(井上氏)

一方、“競合”とも捉えられる週刊誌の現場で、暴露系インフルエンサーはどう捉えられているのか。元「週刊文春」記者で、YouTubeでも活動するジャーナリスト・赤石晋一郎氏は、「週刊誌ジャーナリズムとは似て非なるものだが、警戒感を持って見ている」という。

「同じようなネタを取り上げ、暴露するという意味では同じじゃないか、と思われがちですが、週刊誌と暴露系インフルエンサーは違うものです。週刊誌の場合は基本的に取材と裏取りというプロセスを経て記事にしますが、暴露系インフルエンサーは公開基準が極めて甘く、タレコミをそのまま公開することも多い。それが社会的スクープになった例もあり、一概に悪いとは思いませんが、真実を知るためのプロセスに関心がなければ、間違った情報が広く拡散され、事実かのように扱われるというリスクは高まります。週刊誌サイドは、そこに警戒心を持っているということです。

一方で、ライバルと捉えている記者もいるでしょう。週刊文春においても『文春リークス』というタレコミの窓口ができ、そこからの情報提供がかなり増えて、スクープの半数近くを占めるようになりました。同時に、滝沢ガレソさんだけでなく、暴露系YouTuberのコレコレさんなども含めて同様のタレコミがばら撒かれている状況ですから、独自取材でネタを拾うよりタレコミを受けたいと考えている側からするとライバルになります」(赤石氏)

誤報や行き過ぎた私刑という問題もあるなかで、それでも多くの読者を惹きつけ影響力を拡大し続けている暴露系インフルエンサーは、今後どうなっていくのか。井上氏は「YouTubeでも広告収益が厳しくなってきているなかで、有料のサロン化が進むのでは」と予測。一方の赤石氏は、「現状の収益性の高さにあぐらをかいていると危険だと思う」と、インフルエンサーに警鐘を鳴らした。

「いま儲かっているのであれば、どこかでタイミングで投資を行いクオリティ・ターンをしないといけない。取材スタッフを増やしてより精度の高い独自情報を出せる体制を作るとか、ファクトチェック体制を強化するなどを行うべきだと思います。彼らもメデイアであると考えると、メディアの歴史ではいい加減なメディアは一時期売上を伸ばすが、やがて衰退していくという経緯を辿ることが多い。現状にあぐらをかくことこそが危険で、新メディアとして成長していくのか、ただの“お騒がせインフルエンサー”として消えてしまうのかーーその岐路に差し掛かっていると考えた方がいいでしょう」(赤石氏)

ある意味ではアテンション・エコノミーを体現し、社会を不安定化させかねない危険性を孕んでいるが、しかしその拡散力で知られざる社会問題に目を向けるきっかけも作っている暴露系インフルエンサー。今回の閲覧不可騒動で、その活動を特定のSNSに依拠することのリスクが顕在化したとも言えるが、今後ジャーナリズムと呼ぶべきものに成長し、週刊誌が果たしてきた役割を一定程度代替するものになっていくのか。情報の正確性については十分に留意しつつ、引き続きチェックしていきたい。

(橋川良寛)

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