米国の「中国クレーン脅威論」は成り立たない

米国の「中国クレーン脅威論」は成り立たない

米カリフォルニア州ロサンゼルス港の様子。(2021年10月29日撮影、ロサンゼルス=新華社配信)

 【新華社北京4月8日】米国が「中国クレーン脅威論」をあおり立てている。中国の港湾クレーン大手、上海振華重工(ZPMC)が米国に輸出したクレーンに、遠隔コントロールが可能なセルラーモデムが取り付けられており、米国の安全保障に脅威を及ぼすことが調査で分かったと主張しているのだ。

 業界専門家は新華社の取材に対し、米国があおり立てる「中国クレーン脅威論」は完全に事実に反すると指摘する。米国の主張は技術的に見て常軌を逸しているが、政治的に見れば、中国との「デカップリング(切り離し)」を推進し、「メイド・イン・チャイナ」を置き換えるための口実として理解できるという。

 顧客の要請なしのモデム装着はあり得ず

 ウォール・ストリート・ジャーナルなどの米メディアによると、全米の港湾でコンテナの積み降ろしに使われているガントリークレーンのうち、ZPMCの製品は8割近くを占める。米連邦議会は調査を通じ、中国で製造されたこれらの製品には、遠隔コントロール可能なセルラーモデムが取り付けられているとの認識を示した。米安全保障当局はこれらのクレーンが「スパイ活動を行う可能性がある」との懸念を明らかにしている。

 ZPMC設計研究院の唐青贇(とう・せいいん)高級エンジニアは記者に対し、同社が生産する各種クレーンの99%は出荷時にセルラーモデムが取り付けられておらず、顧客が要請した場合だけごく一部に取り付けられると指摘する。クレーン運転制御システムのソフトウエアもスイスに本社を置く多国籍企業のABBやドイツ企業のシーメンスなどが顧客のニーズに基づき提供している。クレーン納品後のネットワーク接続や運転、メンテナンスの権限も全て顧客が持っているため、同社が関与することは不可能だという。

 唐氏によると、米国の港湾にある同社製クレーンにセルラーモデムが取り付けられる経緯には二つの可能性がある。一つは、米国の港湾運営業者が自らモデムなどの部品を調達してネットワークに接続した可能性。もう一つは、顧客がクレーン発注時にモデム装着を明確に要請した可能性だ。いずれも製品のロット番号や製造番号を調べれば真相は明らかになるとした。

 ZPMC元総裁の管彤賢(かん・とうけん)氏も先日発表した文章で、米国が調査したという中国製クレーンはここ30年にわたり同国の港湾に導入され続けてきたモデルで、当初から米国が提示した技術要件に基づき、厳格な「国際競争性入札」を通じて採用され、かつ港湾が要請した第三者チームによる検収も受けているとコメント。米国がネガティブキャンペーンを展開するまで「国の安全保障を脅かす」との指摘を受けたことは一度もなかったという。

 ウォール・ストリート・ジャーナルの報道は「モデムがこっそり仕掛けられていた」という米国の主張が成り立たないことを示している。同紙の取材に答えた匿名の米国港湾事業者は、現行の契約にモデムは含まれていないが、「モバイル診断とモニタリング」のためのモデムが設置されていることは知っており、このサービスに登録していないだけだったと話している。

米国の「中国クレーン脅威論」は成り立たない

米カリフォルニア州ロサンゼルス港に停泊する、コンテナを満載した貨物船。(2021年10月29日撮影、ロサンゼルス=新華社配信)

 モデムは港湾スマート化の必須設備

 クレーンにセルラーモデムが取り付けられるケースはここ数年、決して珍しくない。港湾や貨物駅では、セルラーモデムが作業の自動化やスマート化、無人化に必要な設備となっている。

 唐氏によると、クレーンにセルラーモデムを取り付ければ、4Gや5Gの無線通信チャンネルを利用して運営業者の中央制御室とデータ通信をし、港湾や貨物駅にIoT(モノのインターネット)を構築できるようになる。クレーン作業中に生じるデータはモデムを介して中央制御室に伝送され、作業のモニタリングやスケジューリング、設備のメンテナンスや点検保守に活用できる。

 唐氏は、米国の運営業者にとっての「セキュリティーリスク」なるものは存在しないと強調する。クレーン設備が接続するのは内部ネットワーク(港のローカルエリアネットワーク)であり、外部ネットワーク(インターネット)ではない。通信相手は中央制御室に限られ、勝手に外部にデータを伝送することはなく、権限を取得しなければ設備にはアクセスできない。

 また遠隔制御においてクレーンの自動化ソフトウエア・ハードウエアが収集または受信できる作業指示や港のレイアウト、コンテナ、作業車両などの情報は、港湾の操作システムや設備の管理システムと単一のインターフェースで接続されており、クレーン製造業者に情報を引き渡すことはない。さらにセルラーモデムはインターネットに接続しなければ、一般的な通信ツールとして以外のいかなる役割も発揮できないという。

米国の「中国クレーン脅威論」は成り立たない

米カリフォルニア州ロサンゼルス港に高く積まれたコンテナ。(2021年10月22日撮影、ロサンゼルス=新華社配信)

 米国が「クレーン脅威論」をあおり立てる狙いは?

 全米港湾協会は2023年3月、中国製クレーンを「スパイツール」とする証拠はなく、新型のクレーンであっても貨物の出発地や目的地、性質を追跡することは不可能とする声明を発表している。

 米国が今改めて「中国クレーン脅威論」をあおり立てる狙いはどこにあるのか。「中国製クレーンが米国の国家安全保障を脅かしている」という騒がしい声の中、バイデン大統領は先日、向こう5年間で200億ドル(1ドル=約152円)余りを投じて外国製クレーンを米国製に置き換える大統領令を出した。資金は日本の三井物産の米国子会社によるクレーン建造の支援に用いられるという。

 管氏は自身の文章の中で、「中国クレーン脅威論」をあおり立てる米国の真の目的は、中国製品の置き換えをどうにかして進めるとともに、バイデン氏への有権者の支持を取り込み、選挙での支持票を獲得することにあると指摘。米国はこれまで、中国から輸入したクレーンが多くの雇用を創出し、米国経済に活力を注入したと再三にわたって評価しており、同じ製品を今になってやたらと非難するのは理解に苦しむとした。

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