踊りの上手な謎の男の正体は?上本郷(松戸市)の「斬られ地蔵」【週末民話研究】

千葉県松戸市の上本郷地域には「上本郷の七不思議」と呼ばれる言い伝えがあります。

そのうちの一つが、上本郷の本福寺にある「斬られ地蔵」です。

もともと斬られ地蔵は覚蔵院というお寺にあったそうですが、覚蔵院は廃寺となっており、現在は本福寺の境内に安置されているといいます。

お地蔵さま、つまり石像を斬るということは、容易いことではないはず。

そして穏やかなあのお地蔵さまを斬りつけるには、相当な悪意やなんらかの強い気持ちがないとできないはず。

一体何がどうなって、お地蔵さまが斬りつけられるに至ったのでしょうか。

今回はその斬られ地蔵について調べ、実際に見てみるため、千葉県松戸市を訪れました。

上本郷の斬られ地蔵

昔、松戸の上本郷には覚蔵院というお寺があったといいます。

覚蔵院で盆踊りがあったある夏の夜、踊りの輪の中にひときわ踊りの上手な男がいました。

このあたりでは見かけない人でしたがその踊りは際立って上手で、村じゅうの娘たちがうっとりと見とれるほど。

村の娘たちの注目を一身に集めるその男を見て、村の若い男たちの心は嫉妬でいっぱいだったそう。

やがて、その中のひとりが踊りの上手な男へ言いがかりをつけ、彼を斬りつけるという事態にまで発展してしまいます。

斬りつけられたその時、不思議なことにぱっと火花が散り、男は大声で叫んでそのまま暗闇の中へと姿を消しました。

翌朝、村人たちが寺に来ると、そこにいたお地蔵さんに大きな刀傷があるのを見つけます。

「昨夜の踊りが上手な男性はお地蔵さんだったのだ!!」と察した村人たちはその場にひれふし、お地蔵さんへ心からの謝罪したといいます。

フィールドワーク①北松戸駅から本福寺へ

まずは、現在斬られ地蔵が安置されている本福寺の最寄駅・JR北松戸駅の東口からスタートします。

駅を出たら北松戸駅前の交差点をとうかえで通り方面に真っ直ぐに進み、坂を登っていきます。

坂の途中で大木のある明治神社があるのが見えてきたら、とうかえで通りから明治神社方面の道へ右折します。

民話の舞台として盆踊りが開催される覚蔵院は、もともとこの明治神社の隣にあったという説があります。

しかし廃寺となり現在は何も残っていないため、それも定かではありません。

突き当たりを右に曲がったら、小さな路地に入って真っ直ぐに進みます。

ちなみにですが、調べてみると「お地蔵さまが切りつけられる」という民話は、日本各地にいくつか存在しているようです。

香川県綾歌郡宇多津町には「宇多津町の切られ地蔵」、愛知県豊明市には「二村山切られ地蔵尊(市指定文化財)」があり、今回ご紹介する「上本郷の切られ地蔵」以外にも松戸市内にはもう一体の切られ地蔵があるそうで、それは幸谷地区の「幸谷の斬られ地蔵」として知られています。

かつてはそれだけお地蔵さまが身近な存在であったのだ、と思うと同時に、全国にたくさんの切られたお地蔵さまがいると思うと、皆一体何をしたんだ?とも思います。

ここまで来たら、本福寺まではもうすぐです。

フィールドワーク②本福寺の切られ地蔵

こちらが本福寺。

実はこちらを訪れるのは2度目。以前プライベートで訪れた時の写真を見ながらご紹介しましょう。

敷地内を見回すと、木蓮の木のすぐ下にある小さい屋根付きの建物が見えます。

こちらが「上本郷の斬られ地蔵」です。

斬られ地蔵に対面してみると、顔から胸にかけてはっきりと傷があるのがわかりました。

しかし傷跡は曲線のようにも見えるので、刀傷かどうかはやや怪しげ。

それでも、お地蔵さまの持つ長い時を経てきた存在感には圧倒されました。

調査を終えて

今回、改めて周囲を見渡すと、斬られ地蔵の上に、白木蓮が素晴らしく綺麗に咲いていました。

白木蓮の花言葉は、たしか「慈悲」や「崇高」「気高さ」だったはず。

村人たちがその場にひれふし謝ったとはいえ、斬りつけられても祟りを起こしたりしないこの斬られ地蔵にぴったりの花だな、と勝手に納得してしまいました。

取材・文・撮影=望月柚花

【参考サイト】

松戸市観光協会ホームページ「<昔話>斬られ地蔵(上本郷の七不思議)」

望月柚花
ライター・フォトグラファー
1993年生まれのライター兼フォトグラファー。高校中退から数年間のひきこもり、アルバイト、副業ライターを経て、2020年よりフリーランスライターとして活動。趣味は読書と散歩、深夜のラーメン。

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