常連国との差を埋める「交流」、次回の成否を握る「覚悟」【新大会「FIFAワールドシリーズ」の大問題と可能性】(3)

次回のFIFAシリーズはワールドカップイヤーである2026年に開催される。撮影/中地拓也

国際サッカー連盟(FIFA)の下、サッカーは膨張を続けている。今年に入ってスタートした新たな大会「FIFAワールドシリーズ」は、どのような意味を持つのか。サッカージャーナリスト大住良之が考察する。

■サッカー後進地域とW杯常連国の差を埋める「交流」

今回の「FIFAシリーズ」のひとつを開催したスリランカは、旧英国植民地として19世紀にサッカーが入り、人気スポーツとなったが、1948年に独立して「セイロン(1972年に国名を変更)」となって以来、人気ナンバーワンのスポーツはクリケットであり、次いでラグビーへの関心が高く、サッカーは「第3のスポーツ」となっている。1954年にFIFAに加盟して以来、欧州チームとの初対戦は、なんと2018年7月のリトアニア戦だったという。

アジア、アフリカ、北中米カリブ海、オセアニアというサッカーの「後進地域」では、ワールドカップの「常連国」とその他の国では、国際的な経験に大きな差があり、それが実力差の広がりの要因にもなっている。そしてまた、「世界の言葉」であるはずのサッカーにおいて、「世界」との交流のチャンスは非常に遠いものとなっている。

■FIFAシリーズは「理想のアイデア」も…大問題が!

サッカーという競技が持つ世界的な広がりを考えれば、他地域と交流できる「FIFAシリーズ」は実に「サッカー的」で、理想のアイデアといえる。ただ、こうした大会の開催には負担がかかる。それをどうするかが大きな問題だ。

「ワールドカップ・クラス」が集結し、スター選手をそろえたクロアチアと地元チームの決勝戦となった「エジプト・シリーズ」では、カイロの東に開発されている新行政都市に完成したばかりのスタジアムに8万5350人(スタジアムの収容人数に等しい数字)という大観衆が集まった。しかも、その新行政都市開発公社(ACUD)が大会のタイトルスポンサーについた。

しかし、その他のシリーズでは、どの試合も入場者は数百人から数千人というところがやっとだった。サウジアラビアのような国でない限り、この大会の開催を引き受けて収益を期待できるところは少ないだろう。理想のアイデアである「FIFAシリーズ」を推し進めるなら、特にFIFAランキングで下位のチームが集まる大半のシリーズにおいては、FIFAの援助が不可欠になる。

■次回2026年3月開催の「成否」を握るFIFAの覚悟

次回の「FIFAシリーズ」は2026年3月の「国際試合ウインドー(3月23日~31日)」。ワールドカップの直前だ。この時期に公式戦が行われることはなく、世界各国の代表チームは親善試合を企画する。出場権を得られなかったチームがこの時期に他地域との「FIFAシリーズ」に参加できたら、それらの国にとっては、「仮想ワールドカップ」になるかもしれない。

同時に、ワールドカップ出場チームにとっては、グループステージでは当たらないチームと組んで「FIFAシリーズ」を戦うことができれば、とても良い準備になる。こちらのほうは収益も見込めるので、FIFAの援助は不要だろう。

48チームのワールドカップ、32チームでのクラブワールドカップなど、インファンティーノ会長の下で進められているFIFA大会の改革は首を傾げざるをえないものばかりだが、この「FIFAシリーズ」は今後の持っていき方ひとつでサッカーの世界を思いがけなく豊かなものにしていく可能性があるように思う。成否は、そこに資金を注ぐ覚悟がFIFAにあるかどうかではないか。

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