認知症の原因物質の蓄積の有無がわかる「アミロイドPET検査」どう活用すべきか

アミロイドβは発症する20~30年前からたまり始める

【第一人者が教える 認知症のすべて】

アルツハイマー病発症の引き金となるタンパク質、アミロイドβ。これが脳に蓄積しているかどうかを調べられる検査「アミロイドPET」を受けられる医療機関が増えています。

当院が開業した2018年には、アメリカでは300を超える施設でアミロイドPET検査を行っているのに対し、日本でアミロイドPET検査を受けられる施設は10カ所未満でした。認知症専門医が担当し、その後の対策と治療を包括的に行っているクリニックとなると、私のところくらいだったでしょうか。

今回は、「アミロイドPET検査をどう活用すべきか」をテーマにしたいと思います。

アミロイドPETは、アミロイドβに取り込まれる性質を持つ放射性製剤を体内に投与し、MRIなどには映らないアミロイドβの沈着の度合いを画像で確認する検査機器です。

冒頭で触れたように、アミロイドβは、アルツハイマー病の発症の引き金になるタンパク質で、アルツハイマー病を発症する20~30年前からたまり始めます。アルツハイマー病患者が70歳代以降に多いことを考えると、40~50歳代からたまり始めるということになります。

ですから、この年代からアミロイドPET検査を受ければ、将来、アルツハイマー病のリスクがどうなのかを、ある程度予想できます(認知症にはほかのリスク因子もありますから、100%予想できるわけではありません)。

「アミロイドPET検査をどう活用すべきか」と申し上げましたが、現在、アミロイドPET検査には、「アルツハイマー病の治療のために用いる」という目的があります。

2023年末から健康保険適用に

2023年12月20日から、アミロイドPET検査が保険適用になった──。こんなニュースを目にした方も多いでしょう。保険適用なら自分も受けてみたいと思った方もいるかもしれませんね。

アミロイドPET検査は、すべての方が保険適用で受けられるのではありません。次の条件に該当した方のみとなります。

・アルツハイマー病による軽度認知障害または軽度の認知症が疑われる患者さんで、レカネマブの投与が必要かどうかを判断する目的がある
・アミロイドβの蓄積を調べる別の検査、脳脊髄液検査を受けていない

レカネマブは「抗アミロイドβ抗体」と呼ばれる薬で、脳内に蓄積したアミロイドβと結合し、減らす働きがあります。これまで対症療法しかなかったアルツハイマー病に対して、進行を遅らせる初の画期的な薬として、昨年の承認以来、一層注目を集めています。

レカネマブは、アミロイドβに働きかける薬なので、脳内にアミロイドβが蓄積していなければ、その効果を得ることはできません。認知症の原因はアルツハイマー病だけではありませんから、アミロイドPETや脳脊髄液検査で、レカネマブの投与前に「この患者さんは本当にレカネマブが効くタイプの認知症なのか」を調べるわけです。

脳脊髄液検査を受けている人が健康保険の適用外になるのは、すでにレカネマブ投与の対象になるかどうかの検査は済んでいるため。アミロイドPET検査は高額な検査ですから、対象が厳格に決められているのです。

中等症以上のアルツハイマー病患者さんも、アミロイドPET検査の保険適用外です。アミロイドβは蓄積していく中で、タウタンパクという別のタンパク質の蓄積・凝集を招き、やがて神経変性が生じてアルツハイマー病の症状出現に至る。中等症の患者さんでは、アミロイドβの蓄積より、さらに進んだ段階へ移行しているため、レカネマブの効果がさほど得られないからです。

医療機関によっては、レカネマブの治療は行っているが、アミロイドPETの設備がないところもあります。そういう場合レカネマブの投与前に、アミロイドPET検査を行っている施設へ紹介状を書き、検査を受けてもらいます。

その際も健康保険適用となるのは、レカネマブの治療を行う医療機関(=紹介状を書く医療機関)が、「レカネマブに係る最適使用推進ガイドラインに準拠している施設」に該当している場合のみ。最適使用推進ガイドラインとは、レカネマブのようなこれまでにない作用機序を持つ医薬品などの最適な使用を推進するため、厚労省が作成しているガイドラインとなります。

これまで挙げた条件に該当しなければ、アミロイドPETは自費となります。自費なら、受ける必要ない? いえ、私はレカネマブの登場で、より一層、自費でも受ける意味が高まったとみています。次回に続きます。

(新井平伊/順天堂大学医学部名誉教授)

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