ドイツ、「集団虐殺」で国際司法裁に訴えられる イスラエルへの武器輸出めぐり

イスラエルに武器を輸出し、国連の支援機関への資金拠出を停止しているのはジェノサイド(集団虐殺)条約の違反だとして、ドイツの責任を問う訴訟を、中米ニカラグアが国連の国際司法裁判所(ICJ)で起こした。この画期的な裁判の審理が8日、オランダ・ハーグの同裁判所で始まった。

ニカラグアはこの日、ドイツによるイスラエルへの武器輸出の停止と、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)への資金拠出の再開を命じるようICJに求めた。

ドイツは訴えを不当だとしており、9日に法廷で反論する予定。

ドイツはイスラエルが昨年調達した武器の約3割を売却しており、その総額は3億2650万ユーロ(約538億円)に上る。独DPA通信によると、防空システムの部品と通信機器が大半を占めているという。

ドイツはまた、UNRWA職員がイスラム組織ハマスによるイスラエル攻撃に関わった疑惑をめぐって、UNRWAへの資金拠出を停止した西側15カ国のうちの一つとなっている。

ニカラグアは、ドイツのこうした状況をふまえ、同国がイスラエルの戦争犯罪とされる行為に加担していると主張。「ドイツはジェノサイドの実行を助長しており、ジェノサイド実行を防ぐためにあらゆる手を尽くす義務を怠っている」としている。

ドイツは対応を明確にせず

この日の法廷では、ニカラグアの代理人を務めるアラン・ペレ弁護士が、「ドイツはこれまでイスラエルに提供してきた武器と、これからも提供し続ける武器の(ジェノサイドに使われる)リスクを十分に認識していたし、今も認識している」と判事らに主張。ドイツに武器売却を停止させることが、緊急に必要だと訴えた。

ドイツはこうした訴えを不当だとする一方、裁判における法的戦略については一切明らかにしていない。

独政府のヴォルフガング・ビュヒナー報道官は、「私たちはニカラグアの提訴に留意している。その訴えは不当であり受け入れられない」と述べた。

イスラエルによるパレスチナ自治区ガザ地区での軍事行動をめぐっては、南アフリカが昨年、ジェノサイドに当たるとしてイスラエルをICJに提訴している。今回のニカラグアが提起した裁判は、これとは別のもの。

南アが提起した裁判では、ICJは今年1月にイスラエルに対し、ジェノサイド防ぐために「あらゆる可能な措置」を取るよう命じた。また、ハマスに対しても、すべてのイスラエル人の人質を直ちに解放するよう命じた。

ドイツ国内でも批判

ドイツのオラフ・ショルツ首相は、イスラエルの自衛権を強力に支持している。しかしドイツ国内では、イスラエルへの武器売却を批判する声が高まっている。

公務員のグループは7日、「イスラエル政府への武器輸出を直ちに中止する」よう、ショルツ氏に書簡で要求。「イスラエルはガザで明らかに国際法違反の犯罪を犯している」と、ICJの1月の決定を引きながら主張した。

ICJは1月に、「イスラエルがガザで行ったと南アフリカが主張する行為や不作為のうちの少なくともいくつかは、条約の規定に該当する可能性があると思われる」とする決定を出した。

アイルランドのトリニティ・コレッジ・ダブリンで法学を教えるマイケル・ベッカー教授は、ジェノサイド防止や人道法の尊重の保証について、国家の義務がどこまで及ぶのかは不明確な状況だとBBCに説明。ドイツを訴えた今回の裁判が、その問題を明確にするのに役立つかもしれないと話した。

今回の裁判に批判的な人たちは、訴えを起こしたニカラグアの人権状況が問題視されてきたことを指摘している。同国のダニエル・オルテガ大統領は、反政府派を投獄し、抗議行動を禁止している。イギリスの国連代表部は3月、ニカラグア政府が「容赦ない」人権弾圧を繰り広げていると非難した。

(英語記事 Germany faces genocide case over Israel weapon sales

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