トランプ氏、中絶の権利は各州で判断すべきと主張 大統領選にらみ

アメリカのドナルド・トランプ前大統領は8日、人工妊娠中絶の権利については各州が決定すべきだとする声明を発表した。中絶の権利は11月の大統領選挙で争点となるとみられ、トランプ氏が所属する保守・共和党からは、妊娠15週以降の中絶を連邦レベルで禁止することを同氏に期待する声が出ていた。

この声明に対しては、リベラル派と保守派の両方から批判が噴出している。

中絶の権利をめぐっては、憲法で保障されているとした「ロー対ウェイド」判決(1973年)を連邦最高裁が2022年に覆した。以来、多くの有権者にとって、中絶の権利は選挙での重要な問題となっている。

トランプ氏は8日朝に公開した動画で、「私の考えでは、法的には誰もが望んでいた中絶が可能だ。各州が投票か立法か、おそらくはその両方で決めることだ」との考えを表明。

また、ロー対ウェイド判決が覆されたことで生じた変化の「責任者であることを誇りに思う」と述べた。

トランプ氏は2016年大統領選で、同判決を覆す判事の任命を公約に掲げた。在任中には、連邦最高裁判事に保守派3人を任命した。

最後は「民意」に帰結と

この日の動画声明では、州によってさまざまな判断が示されるだろうとトランプ氏は予想。だが、結局は「民意」に帰結するとし、「みんなが自分の心や、多くの場合、自分の宗教や信仰に従わなければならない」と述べた。

レイプや近親相姦が絡んだ妊娠や、女性の命に危険がある妊娠を例外として扱うことについては、賛成だと付け加えた。

トランプ氏はさらに、体外受精(IVF)などの不妊治療に賛成だと強調した。これは、凍結保存された胚を「子供」とみなし、凍結胚を誤って破棄した者は責任を問われる可能性があるとした、アラバマ州最高裁の2月の判決を意識した発言とみられる。

リベラル、保守の両方が批判

ロー対ウェイド判決が覆された2022年以来、中絶の権利は、トランプ氏が所属する共和党にとって、選挙を戦ううえで厄介なテーマとなっている。怒れる有権者らが、中絶の権利を擁護する民主党の候補に票を投じているからだ。

民主党はこうした状況を、ジョー・バイデン大統領の再選に生かそうとしている。バイデン氏の選挙事務所は8日、ロー対ウェイド判決が覆されたことを誇りに思うというトランプ氏の発言を、素早く拡散した。

バイデン氏自身も、トランプ氏がホワイトハウスに戻れば、共和党が提案する連邦レベルでの中絶禁止令に署名するだろうと主張した。

バイデン氏は、中絶への普遍的なアクセスを大統領選の主な争点の一つにしている。また、ロー対ウェイド判決に基づく連邦法の制定に取り組むとしている。

トランプ氏の声明には、保守派も多くがネガティブな反応を示している。

トランプ政権で副大統領を務めたマイク・ペンス氏は、「彼(トランプ氏)に投票した何百万人ものプロ・ライフ(生命支持=中絶反対の意味)のアメリカ人に対する平手打ちだ」と述べた。

保守派の中には、中絶に関する政策は連邦政府が決めるべきだと主張する人もいれば、トランプ氏が妊娠何週から中絶禁止を支持するのか明確にしなかったことを問題視する人もいた。トランプ氏はこれまで、15週を上限とする案を支持する考えを、私的な会話で示したと報じられている。

中絶をめぐる州の動き

この2年間、保守的な州は中絶へのアクセスを制限する動きを見せてきた。一方、中絶の権利を州法に明記する法案を可決した州もある。

最近ではフロリダ州の動きが注目を集めている。同州最高裁は、中絶を禁止する州の権利を支持。5月1日から妊娠6週以降の中絶を禁止することを認めた。多くの女性は6週目になっても妊娠に気づかないため、ほぼ全面禁止に等しい。

一方で同州の最高裁は、中絶の権利を州憲法で保障することの是非について、11月に州民投票を実施することも認めている。

(英語記事 Let individual states decide abortion rights, Trump says

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