『くるり』生見愛瑠の恋と自分探しの物語の始まり “今っぽさ”体現したラブコメミステリー

日々の生活に追われ、周りの目を気にしながら生きていると、いつしか「本当の自分」を見失ってしまうことがある。

「私らしいってなんだろう」

そう心の内に問うとき、内心ドキッとする人は多いのではないだろうか。自分の個性を隠し、人に合わせることに必死で、気づけば「本当の自分」からは程遠い場所にいる。個性や自分らしさが評価されるこの現代で、そんな経験をしたことがある人は、実は少なくないのではないか。

女優の生見愛瑠が主演する火曜ドラマ『くるり~誰が私と恋をした?~』(TBS系)は、事故で記憶喪失になり“くるり”と世界が一変したヒロイン・緒方まこと(生見愛瑠)が、手元に残された男性用の指輪を手掛かりに「恋の相手」と「本当の自分」を探していくラブコメミステリーだ。生見がゴールデン・プライム帯の連ドラで単独主演を務めるのは今回が初めてとなる。記憶喪失をテーマにした作品は数あれど、記憶と共に心に眠る自分らしさを探る本作は、まさに“今っぽさ”を体現したドラマでもある。

物語の主人公・緒方まことは24歳のとにかく“普通の女子”。飲料メーカー「モンドビバレッジ」の営業職として働くまことは、プライベートでも会社でも人に嫌われないよう、自分自身の素を見せず、悪目立ちしないように生きてきた。しかしある日、事故によって自分の名前をはじめ、自分にまつわるすべての記憶を失ってしまう。

目覚めたまことの手元には、キレイにラッピングされたジュエリーケースが残されていた。中には、プレゼントとして贈ろうとしていたであろう男性用の指輪が納められていたのだ。しかし自分に関する記憶がないまことは、誰に贈ろうとしていたかを思い出すことができない。その指輪を手掛かりに、まことは“恋の相手”と“本当の自分”を探す旅に出る。その様子は、まさにガラスの靴だけを残されて姫を探す童話「シンデレラ」の王子のようだ。退院し自宅へ戻ったまことの部屋は無機質で、クローゼットの中にはモノトーンの洋服ばかり。記憶を失くす前の自分は“絶妙に同性に嫌われない感じ”で、個性を見せず悪目立ちしないように生きてきた様子がうかがえた。記憶を失い、誰からの連絡もなく孤独を感じていたまことだったが、そんな彼女の前にそれぞれの魅力あふれる3人の男性が現れる。

まことの前に最初に現れたのは、「唯一の男友達」と語るまことの同僚・朝日結生(神尾楓珠)。優しく包容力もあることから“ブランケット男子”と呼ばれ、明るくまっすぐで気遣いができ、社内での人望も厚く女性社員からの人気も高い。記憶喪失となったまことを支える友人として記憶を取り戻してほしいという反面、記憶を失い生まれ変わったまことに時折切ない表情を向けることも。「万が一思い出せなくても、これから仲良くなればいい」と真っ先に優しい笑顔を向けてくれた男でもある。

戸惑いを抱きつつも職場に復帰したまこと。同僚から聞くエピソードに、これまでの個性のない自分の生き方を垣間見て落ち込んでいた矢先、自らを「元カレ」と語るフラワーショップ「Fleur Style Recollection」(フルールスタイル リコレクション)の店主・西公太郎(瀬戸康史)が現れる。

公太郎は思ったことを思ったままに言うストレートな性格だが、記憶を失くしたまことを見守る優しい一面も持つ。まことが記憶を失う前に円満に別れた2人は、“1番親友に近い存在”だという。別れた理由は公太郎がまことに二股をかけられて振られたそうだが、その真相も気になるところ。「記憶がないってことは、自分らしさからも自由になれるのかな」という彼の言葉は、このドラマを貫く一つのテーマにもなりそうだ。

「でもたぶんあたし、この仕事そんなに好きじゃないんです」

第1話の最後、清々しくそう言い切ったまことは自分の人生をやり直しているようにも見えた。新しい自分を手に入れたことで、まことは一歩ずつ前に進んでいく。そんな中、まことと運命的な出会いを果たすのが、人懐っこい笑みを浮かべた年下男子・板垣律(宮世琉弥)だ。「運命の人」と語る律は、その素性が謎に包まれているが、次週の予告を見る限り、記憶を失ったまことに惹かれ、猛烈にアタックを繰り返し、恋の四角関係をかき乱していくようだ。

果たして、まことが贈ろうとしていた指輪の持ち主は誰なのか。そして、まことが見つける“本当の自分”とは。桜舞う春の夜に始まったまことの恋と自分探しの物語は、「個性」に悩む私たち一人ひとりの心の中にも、同じ思いが芽生えていることに気づかせてくれる。

記憶を失ったことをきっかけに、これまでの自分を見つめ直し、新しい一歩を踏み出すまこと。きっとその姿に、私たちは自分自身を重ね、勇気をもらうことだろう。このドラマは、まことにとっても、私たちにとっても、本当の自分を見つける旅の始まりとなるのかもしれない。
(文=すなくじら)

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