『Destiny』田中みな実の破滅へ向かう演技の切迫感 大学生活で描かれた5人の友情と“苦悩”

かつて恋人だった主人公の西村奏(石原さとみ)と野木真樹(亀梨和也)は12年ぶりに再会を果たす。取調室で検事と被疑者として。そんな皮肉で残酷で運命的な因果から始まる『Destiny』(テレビ朝日系)第1話。

そこから打って変わって2人が初めて出会った大学時代が描かれるが、自然豊かなキャンパスで繰り広げられる青春時代のあれこれが、より今この“現在地”とのギャップを際立たせる。堅物で真面目だけが取り柄だった奏と、そんな彼女にカンニングを強引にお願いする軟派な雰囲気の真樹。一見したところ全く交わることなどないはずの2人だが、誰とも壁を作らない真樹に巻き込まれ人生で初めて共犯関係を結んだ奏は、ほどなくして初の友達を得る。

森知美(宮澤エマ)、梅田祐希(矢本悠馬)、及川カオリ(田中みな実)と真樹という“イツメン”にいつの間にか奏もすっかり馴染み、生まれて初めて自分から父親の最期について打ち明けられるまでになった。

「私たちずっと友達でいようね、永遠に」

カオリが切実そうに口にしたこの言葉が、この約束が“進路”や“恋愛”など様々な選択を前に一気に揺らぎ始める。そもそも大学生活なんていうのは人生の中でも究極のモラトリアムであり、やがて終わりがくるものだ。このまたとない猶予期間の煌めきが、沈みゆく夕陽と重なる。日中でも夜でもないどっちつかずの時間の終盤に差し掛かったゆえの苦悩が、5人の関係をいびつに変化させてゆく。

トリガーになったのは、自分が就活に苦戦する中、好意を寄せていた真樹と奏が付き合っているらしいことに気づき素直に喜べなかったカオリだ。変化し進まなければならない関門はクリアできないのに、変化してほしくはない拠り所は、知らぬ間にどんどん変わっていってしまう。それがたまらなく不安で受け入れられないのだろう。奏と知美は同じくロースクール進学を目指している中、自分だけが就活に対峙しているのもまた彼女の孤独を深めたように思える。

そんな中、タイミング悪く知美が過去の新聞記事から辿り着いたのは、奏の父親・辻英介(佐々木蔵之介)の死の真相のようだ。汚職事件の容疑をかけられたことを苦に自殺したのだと信じて疑わなかった東京地検特捜部の検事だった英介が、実は殺されていたらしいことがわかったようだ。それにおそらく真樹の父・野木浩一郎(仲村トオル)が関わっているということなのではないだろうか。

この事実を知ったカオリは、当初はただただ2人にもそれを知らせなければという親切心や正義心、使命感もあったのではないか。奏と真樹を個人的な思惑で別れさせようとしていたわけではなく、この事実があれば彼ら2人が交際するのをやめ、また元の5人に戻れると藁にもすがる思いだったのではないだろうか。

しかしそれを知美に「女子高生レベル」で「くだらない」と一蹴されたことで、自分の中にある嫉妬心を見透かされたようで図星な部分もあったのだろう。それと同時に大切に紡いできた5人の友情を「くだらない」と切り捨てられ、自分にはもう帰る場所もなければ、自分を必要としてくれる場所もないと思ってしまったのかもしれない。

どんどん追い詰められ壊れていくカオリ役を演じる田中みな実の演技は、「そんなことぐらいで」なんて一言では到底片付けられない、あの当時のなんだか苦く切羽詰まった思いを呼び起こしてくれる必死さがある。自らどんどん苦しい方に身を投じてしまう不器用なカオリは、だからこそ5人の関係をはなから終わりのこない「友達」の枠に大切にしまっておきたかったのだろう。あの時あんなふうにこぼした言葉は他の誰でもない自分自身への牽制であり、誓いであり、祈りでもあったのではないだろうか。

「ねぇ、一緒に死なない? 死のうよ」と疲弊し切っているのにまだ何かを諦め切れてはいないカオリの“破滅”まっしぐらのドライブは、奏と真樹が付き合うきっかけになった大雨の中のドライブと見事に対をなしていた。「死ぬ時は一緒。奏と一緒なら死んでもいいな」と言いながら大雨の中楽しそうにハンドルを切る真樹の表情を思い出すと、確かにカオリの「どうして私は一番欲しいものが手に入らないの?」がよりやるせなく聞こえる。

それにしても “愛されてると思ってた人に消えられる”ことのキツさを誰よりもわかっているはずの真樹が、なぜ奏の前からいなくなったのか。奏の心にもう一度深い傷を負わせることになるとわかっていながら、それでも姿を消すしかなかったのはなぜなのか。彼らの“初恋”はどんなタブーを犯していたのか、ひりつく胸の痛みを覚えながら一緒に真相を追いたい。
(文=佳香(かこ))

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