和食ブームで高級化 ワサビ大量盗難被害 広島県警廿日市署が捜査

盗難で荒らされたワサビ田で被害状況を説明する植本さん

 広島県廿日市市吉和で3月末、特産のワサビが根こそぎ盗まれる被害が発生した。2年かけて育てた収穫目前の約200株。すしに代表される日本食ブームで海外需要が高まる一方、高齢化で生産量が減り、ワサビの高級化が進んでいる。一帯では7年前にも盗難が相次いだが「これほどの規模は初めて」と生産者は打ちひしがれる。

 被害に遭ったのは標高約700メートルの山あいにある植本直樹さん(67)のワサビ田。3月29日昼ごろ、植本さんが抜き取られた痕跡を発見した。2021年12月に植えたワサビで、被害は約80キロに上る。5月の大型連休に向け収穫し、各取引先へ卸すはずだったという。廿日市署が窃盗事件とみて捜査し、周辺のパトロールを強化している。

 吉和のワサビは明治期には生産されていたとされる。現在は2生産組合の計7戸が栽培。17年には周辺の2カ所のワサビ田で盗難が相次いだ。同時期に益田市匹見町でも被害があったという。

 日本わさび協会(東京)や農林水産省によると、13年に和食がユネスコ無形文化遺産に登録されて以降、海外の日本食レストランは3倍以上に急増し、ワサビの需要が高まっている。一方で担い手の高齢化などで生産量は20年前の3分の1ほどに減り、供給が追い付いていないという。

 東京都中央卸売市場の平均卸売価格は10年前の2倍となり、同協会によると1本6千円以上で売られるケースも。盗難被害は近年、岐阜県や静岡県の産地でも報告されているという。

 植本さんは、ワサビ田の周辺で防犯カメラなどの設置を進めるという。「大雨の日も雪の日も丹精込めて育てたワサビを非道に奪われるのはもう耐えられない」と話している。

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