40代女性「もう、やんなっちゃうよ」…日本の“働く女性”が疲れきっている残念な理由

(※写真はイメージです/PIXTA)

熾烈な就職活動を突破し、大手企業に入社。仕事が評価されてマネージャーに昇進……こうした“順風満帆なキャリア”を送っていても、実は「疲れ切っている」という女性が少なくありません。これには「日本企業の仕組みが関係している」と、『ただの人にならない「定年の壁」のこわしかた』(マガジンハウス)著者で公認会計士の田中靖浩氏はいいます。いったいどういうことか、事例を交えて詳しくみていきましょう。

連日のクレーム対応に、思わずため息がこぼれる40代女性

「もう、やんなっちゃうよ」頬杖をつきながら、ため息まじりの言葉がこぼれた。

書店の脇に併設された喫茶スペースにいるのは私たちだけ。テーブルをはさんで座る2人の間には、おしゃれな空間に似合わない空気が漂っている。

他にお客さんがいないせいで、いつもより気楽に愚痴を言える。

「今日なんかさ、新書だって言われて探したらぜんぜん見つからないの。そしたら新書じゃなくて新刊でさ。『新刊の単行本ですね』って訂正したら、『うるさい、新書だ』って譲らないんだもん。その対応だけで30分」

聞き終えた美鈴は思わず吹き出した。

「なにそれ、本屋さんの店長も大変だね。そんなにクレーマーって多いんだ」

「マジで大変なんだから。店頭だけじゃなくて、メールでもいっぱい来るよ、クレーム。しかも買った本の内容について文句つけられるの」

「本屋のせいじゃないじゃん、そんなの」

「でしょ? でも、うちに来るんだよ、この本のここがおかしいって。そんなメールの対応って、すごく疲れるんだよね。それで先月も1人辞めちゃったし。今回の河西さんの件でも青木君、まいっちゃってさ。あの子まで辞めちゃったらどうしよう」

注文された書籍を間違って他の人に売ってしまい、河西さんから怒鳴られた学生アルバイトの青木君。その後、たびたびやってくる河西さんを見ては震え上がっている。今日も雑誌の在庫を訊ねられて緊張。端末で検索中に「客を待たせすぎだ」と急かされてパニックになってしまった。

「青木君に辞められたら、うちの店、回んないよ。そのときは助けてね、美鈴」

冗談だとわかっているが、ほんとに助けてあげたいくらい真知子は大変そうに見える。小柄で頼りなかった彼女はいま、書店だけでなく併設されたこのカフェの店長も兼ねている。毎日遅くまで働いているみたいだし、身体が心配。

大手食品メーカーで働く美鈴も、「会社」と「親」に頭を抱える

「あなたのほうはどうなの?」突然ふられても簡単に言葉が出ない。何をどこから説明すればいいのだろう。ひとつだけ確かなのは、家に帰りたくないからここに立ち寄ったってこと。

「仕事はたいへん?」

「う~ん、大変だけど、本屋さんの店長ほどじゃないかな」

でもやっぱり会社の仕事は大変。みんなは「大手は給料が高くていいね」と言うけど、毎晩毎晩遅くまで働いている。おかしなルールのせいで意味のない書類ばかりつくらされ、「何やってるんだろう」と疑問に思う。1度きりの人生、もっとやりがいのある仕事をしたいけど、この会社辞めたら生きていけないし。

“今度はいつ帰ってくるの?”…毎晩のように電話をかけてくる母親に疲弊

暗い気持ちに追い打ちをかけるのが母親のこと。去年入院してから心細くなったようで、毎晩のように電話をかけてくる。お決まりのセリフは「いつ帰ってくるの?」。こんどはいつ帰る? 今週? 来週? 来月? 年末年始は?

独身1人暮らしだからって、毎週毎週、実家に帰れるわけがない。さらにうんざりするのが、お父さんの悪口。家でゴロゴロしている父親の世話に、母は疲れてしまったらしい。病弱でつらいのはわかるのだけど。

そこに最近、さらなるダメ押しが加わった。「私、この家を出てあなたの家に引っ越したいんだけど、どうかな?」この話題が繰り返されるようになって、居留守を使うことが増えた。

母親の電話に居留守を使うまでの顛末。それを聞き終えた真知子が小さくため息をもらし、感慨深げにつぶやく。

「親の介護かあ。私たちもそういう年になったんだね」

2人が大学を卒業してから20年、まだまだ若いつもりだったけど、「親の介護」のことを考える歳だなんて……。

「私たち、この先どうなっちゃうんだろう。考えてもしょうがないけどね」おしゃれなカフェの空間に2人のため息がしずかに溶けていった。

「安心・安定」なはずの職場で、疲れ切っている女性たち

美鈴42歳。東京で1人暮らしの独身。都内の大手食品メーカー総務部に勤務。近所の書店で店長を務める真知子は学生時代からの友人。

会社のマネージャーに昇格してからというもの、美鈴の帰宅時間は遅くなる一方。残業を減らしましょうというかけ声のもと、「部下を早く帰すために」自分は今までよりさらに働く日々。

部下や友だちと食事に行く機会はめっきり減り、帰り道に書店に寄って親友の真知子とおしゃべりするのが数少ない楽しみ。以前は休みのたびに旅行へ行っていたけど、いまは2人とも忙しくて会う機会が減っている。

仕事に人生を捧げてしまっているような徒労感。そして親からのプレッシャー。このままだと会社と親に人生を捧げるだけで終わりそう。定年までずっとこんな生活が続くわけ?

私の未来も暗いけど、それより疲れた顔の真知子が心配。このままでは「長期休養が取れたのは入院したとき」になってしまいそう。

「いっそのこと、そのクレーマーの人、雇っちゃえば?」

「……えっ? どういうこと」

「だから雇って、クレーマー対策に力を貸してもらうんだよ」

幹部の顔ぶれは男性ばかり…ルールがいまだ「男性向け」な日本企業

サラリーマン男性に負けず劣らず、女性もまた疲れています。しかも安心・安定の職場であるはずの大きな企業や公務員、学校の先生などに勤務する皆さんに疲れが目立ちます。これはいったいどういうわけでしょう?

もちろん男女の関係なく、そして年齢にも関係なく、すべての働く人にとって職場が快適であり、自らが成長できる場であるのは望ましいことです。またすべての構成員が自らの能力を発揮し、評価される場であればみんなやる気になります。

しかしながら日本の会社を見ると、その運営ルールがどうも男性に対して有利につくられているように思えてなりません。その証拠に、私が講師でお伺いする大きな組織では、幹部研修や取締役研修に出席されるのはほとんどが男性でした。

ルールが男性向きにつくられているのであれば、女性がそこで出世できず、疲れてしまうのは無理がありません。

「会社は軍隊である」と喝破したベティ・L・ハラガン

そんなことを考えながら、ずっと以前から私は「そもそも会社組織が男性向きなのではないか?」と漠然と考えていたのです。これについて重要なヒントをくれる本がありました。それが『ビジネスゲーム』(ベティ・L・ハラガン著、福沢恵子・水野谷悦子共訳、光文社/知恵の森文庫)です。

アメリカで超ベストセラーの本書、著者が女性目線から「会社は軍隊である」と喝破しています。うすうすそんな気がしていましたが、本書を読んで改めて会社は軍隊的組織だと納得しました。

軍隊は好戦的な男たちが勝利を目的として結成する組織です。会社がその伝統を受け継いでいるとしたら、戦いを好まない女性にとって居心地がいい場所であるはずがありません。そこにいたら女性が疲れるはず。

男と女の性差ですべて説明できる話ではありませんが、男性的気質vs女性的気質と考えればかなり説得力があります。ちなみに私は本書でいうところの女性的気質が強く、「だから自分は組織勤めに向かないのか」と合点しました。

冒頭ストーリーに登場した美鈴さんも、そして友人で書店の店長を務める真知子さんも、仕事にずいぶんストレスを抱えている様子。

もしかしたら彼女たちもまた軍隊的な組織気質になじめないのかもしれません。

田中 靖浩
作家/公認会計士

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